内なるカモメ

小説を中心に掲載します。 映画・漫画・音楽・スポーツなどなど、多趣味で時間がややこしく…

内なるカモメ

小説を中心に掲載します。 映画・漫画・音楽・スポーツなどなど、多趣味で時間がややこしくなりがち。

マガジン

  • magjam

    ショートショートの連作です。

  • エレクトロニカ

    詩やエッセイのようなものも取り揃えたショートショート集です。

  • 見えない帽子の劇場

    自然とテクノロジーがテーマ、少年少女とAIやロボットや祖先が活躍する明るい青春SF群像劇の短編小説です。(1)〜(3)まで。改訂を加えた再掲版もあり。

  • ショートショート集

    ちょっと暗い感じのものから脱力的なもの、かなり脱力的なものまで取り揃えたショートショート集です。

  • invalid

    短編小説です。(1)〜(3)まで。

最近の記事

【連作ショートショート】magjam ─パレード─

◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️夜の裏路地    コヒンは夜のパレードへの招待を受ける。  大食堂の料理長に見送られ、マグジャムのジグの後部荷台に乗り込んだ。  今夜は幌幕の覆いが外され、数多のカボチャのイミテーションで装飾された特別仕様だ。  眼球のくり抜かれた目元はどれも虚ろな洞窟。  ギザギザの歯先は微風に震え、カタコトとした不敵な音を響かせる。  御者役は大食堂から出て来たゾウイが務める。  輝きの燻んだ銀色の仮面で顔を覆い、暗装姿のナグと代わって運転

    • 【連作ショートショート】magjam ─鎮魂の花─

      ◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️長い夕暮れ 街の各所    籠の中の黄色い小鳥、希少種のインコがエリクの囁き声を真似ている。  首振りや嘴の頷きを繰り返し、盛んな悪口、欠落を抱えたマグジャム独自の言葉、季節の珍妙な花についてと次々に告げる。  傍から聞く限りでは両者の声はそっくりと感じるが、当のエリク自身は首を傾げているもの。  コヒンの方は隣りの花屋の前に佇み、財布から靴紐で対価の紙幣を取り出す。  真っ白い雪綿みたいな散り花を受け取ると、新たに宝飾品や骨董

      • エレクトロニカ2024 Aug.11

         オーマイベビーカー。  砂浜の君は空っぽだ。  それでも決して孤独とは言えなくて。  君の主は波打ち際を越えた先、繰り返されるグレープフルーツ模様の海で遊んでいるところ。  本当に海ってやつは罪深い。  何人もの子供たちがビーチサンダルを置き残し、倒れ込んだモノリスみたいに身を投げてしまうから。    それからベビーカー。  君は僕の翼で、僕は君と背中を付け合わせながら手紙を読んでいる。  最初は海岸の砂や貝殻を詰めた瓶の中、真っ白い斜塔として佇んでいた一通の手紙。  ここ

        • 【連作ショートショート】magjam ─迷い─

          ◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️昼の廃墟    探照灯の明かりが薄闇に輝き、コンクリートの壁を舐めるように照らした。  元は立派に部屋と呼ばれた空間、腸の如く廊下が連なる廃墟の一室。  埃だらけのベッドはカーテンで覆われる。   町の治癒者がその上に身を横たえ、二本の足を淡い緑の布地の外に突き出している。  コヒンは開かれたドアを背にして佇み、隠れた口からの音響に耳を澄まさせる。  自ら声をかけても応答は得られない。  どうやらベッドの治癒者は眠っているようだ

        【連作ショートショート】magjam ─パレード─

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        • magjam
          24本
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          6本
        • 見えない帽子の劇場
          6本
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          22本
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          3本
        • ベッドルームのメカニカ
          5本

        記事

          【連作ショートショート】magjam ─詩人と出会う─

          ◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️朝のベーカリーと街中    薄明時の余韻が残る中、重たいシャッターを上げた暗いベーカリー。  外観は洒脱でシャッターの覆いの外に石塀と鉄の門。  前者には色濃い蔦が蔓延り、夕時からの橙色のランプの明かりが残る。  開店の準備作業が続く中、コヒンは何度か購入したことのあるボール状のパンを求めた。  焦げたシナモンの香りを後にし、タイル張りの街路を当てもなく進んだ。  水のせせらぎみたいな足音を連続させる。  ベンチで丁度目覚めたと

          【連作ショートショート】magjam ─詩人と出会う─

          エレクトロニカ2024 Aug.8

           昨日の私には何が生じたか。目を閉じた闇の中の私をどんな出来事が襲った。やがて開けた眩い景色、夢の中の私は如何なる峠の坂道を巡ったか。  まっさらな白紙の瞳から湧き出るドロップ、前触れの少ない涙はどうしても出難い。対極の訓練を受けて来た一種の反女優。  本当に振り返ったのは昨日よりも遠い日、抽象領域で薄く棚引く過去のこと。凝り固まった人や自然の群像が陽の中で溶かされ、至る所の輪郭の門を解放している。それで絶えざる興亡の過程で踊りをやめない。反女優な私の思い出の国。    リア

          エレクトロニカ2024 Aug.8

          【連作ショートショート】magjam ─豊かな曲折─

          ◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️昼の郊外と駅舎    大きな革張りのトランク内。  窮屈な居心地は、マグジャムで行った脱出芸の訓練以来。  複数の車輪の音は雷鳴みたいにひた続く。  多分現在はラクチの北の郊外、深い雑木林の畔をザカの側車で運ばれているはず。  不確かな状況も継続し、言葉の所々を一層曖昧さを含んだものに変えている。  トランクを運ぶ輩が本当のところは誰であるか、それさえコヒンには定かではない。  鼻や口の側には一本の熊の爪。   中身は空洞化し

          【連作ショートショート】magjam ─豊かな曲折─

          【連作ショートショート】magjam ─臨界─

          ◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️長い夕暮れ 占い小屋    ニムの占い小屋だが、何時も居住用テントから少し離れた地点、肝臓角と呼ばれるポジションに軒を構える。  内部は意外と書棚が少ない。  皮膚に痒みや痺れをもたらす草花が随所でその葉を広げ、天窓の下には背丈を越したサイズの望遠鏡が。  コヒンは焦茶の木戸に三回のノックを繰り出し、入室すると山菜とスープの食事を中央の長机の上に置く。  ニムはその場の席で黒球を編んでいたのだが、両手の動きをはたと休めた。  新

          【連作ショートショート】magjam ─臨界─

          お疲れ様です。 新しいエレクトロニカの写真画像ですが、後日別のものに差し替え予定です。 magjamの方の残りも並行して掲載予定です。 よろしくお願いします。

          お疲れ様です。 新しいエレクトロニカの写真画像ですが、後日別のものに差し替え予定です。 magjamの方の残りも並行して掲載予定です。 よろしくお願いします。

          エレクトロニカ2024 Aug.04

           今夜の私は映画を鑑賞していた。  有名な日本国内の小説が原作。  それも一つの長編じゃなくって短編オムニバス、同じ本に収録された五人の作家の作品を翻案したもの。  実写ではなくアニメで監督はアルゼンチンの人。  英語版と吹き替え版の両方上映していて私が鑑賞したのは前者の方で。    隣りに座るはずだった友人には急の用事が入った。  まだもう少しややこしくなりそうだけど、とりあえずマンションの自室に帰った私は原作を読み返すことにした。  現在の本棚の前には母親が買って五年以上

          エレクトロニカ2024 Aug.04

          エレクトロニカ2024 Aug.03

           見つめた闇がなかなか消えない。  瞳に柔かく刻まれる一時の暗黒症状。  僕が夜の時分を迎えていただけ。  大層蒸し暑い夏の夜。  暗灰色のアスファルトも微熱を帯びている。  大きな惑星の人工の額。  容易には冷めやらぬもう一つのキッチンのフライパン。  腰の先では、こちらもたぎりを絶やさぬ中華料理が暴れ回る。  メインの色合いは熱情と野心の赤と黒。  少し夜にも近しいソースの表皮。  砕かれる豆腐はどれも賽子状の月の欠片だ。    胃袋は僕の中のグロット(洞窟)。  ある

          エレクトロニカ2024 Aug.03

          雑記 2024.08.02

           お疲れ様です。  サッカーEURO2024が終わって新作短編に取り掛かる当初の予定でしたが、もうちょい先へと順延致します。  でも新しい中長期的な企画ものを8月1日付けで始めました。連作ショートショートのmagjamが多少自分の中で書きにくい・改訂作業もしんどい状態が続いていたため(多分主人公の自己肯定感が低すぎることが理由の一つです😅)自分にとって書きやすい形式・分量的にもサラッと読める一話完結ものを目指して着手しました。 『エレクトロニカ』というタイトルで、内容は詩のよ

          雑記 2024.08.02

          エレクトロニカ2024 Aug.02

           一つ一つの感情が陸地で跳ね回った。  水の檻への回収を免れ、天に召されることもないまま生の踊りを繋いだ。    僕は不条理の魚だった。  如何なる海を泳ぎ回っていたかも大分怪しい。    上陸した先はニューヨーク、大きなリンゴのマンハッタン島。  千葉県内の小学校の五年生、十歳の頃の夏休み。  夕涼みの空気は今より数回り涼し気で、マンションの上層階では窓を開け放つだけでも十分だった。  クーラーは現在よりも必要じゃなかった。  言葉の意味も言語ゲームの中では幾分変化していた

          エレクトロニカ2024 Aug.02

          エレクトロニカ2024 Aug.01

           詩の相貌を持ち合わせ、エッセイの仮面の薄皮で目元を覆う。  安楽な日記や旅先の宿の落書き。  文芸領域の反復横跳びを繰り返し、生きた小説に至る未来を夢に見つめる。  僕や私のエレクトロニカ。  放蕩的な文字の鍵束。  人工の海を流れる氷、溶け行く氷。  相の転移を行い、誕生と滅亡らしき現象も繰り返す。  言葉と言葉。  絶えざる口付けの揺らぎの踊り。      高校時代。  私はバスケットボール部に所属し、人差し指の上でボールを回した。  暗闇の中で交わすキスを覚え、半年後

          エレクトロニカ2024 Aug.01

          【連作ショートショート】magjam ─道化師の最後─

          ◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️夜の映像記録とかつてのステージ    キャンプ内の映像資料の保管庫。  鈍く燻る光を放つ、流玉石の映像が無数と眠る。  コヒンは単身で閉じこもり、啓蒙灯を構えて滑らかな検分を続けた。  戸棚の箱から二つ三つと取り出し、その輝きがよく馴染む空間も求め出す。  電飾のアーチがかかったゲートの方へ。  左右に積まれたジグの車輪、クルガラスの羽や瞳の合間を抜ける。  荒れた野原に伸びる平たい道を東に進む。  ウシルクヌギの林や大地を区切

          【連作ショートショート】magjam ─道化師の最後─

          【連作ショートショート】magjam ─学舎にて─

          ◾️あらすじ ※序章部分はこちらです。 ◾️長い夕暮れ キャンプ    自分以上に自分のことを知る者がいるものか。  そのことを詳らかに教える書物との出会いも珍しい。  流れる思いの証左を周囲の夕暮れに求めたコヒンだが、それにつけても長い夕時の始まりだった。    ラクチ南方の霊園の道を抜け、昼の終わりにマグジャムのキャンプ地へ帰り着いていた。  居住用テントで汚れた衣服を脱ぎ払い、小早くシャワーを浴びて着替えを済ませた。  浴室の外には待ち構えた三人の子供の姿。  コヒ

          【連作ショートショート】magjam ─学舎にて─