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【短編小説】少年フクロウ (4) 終
前回はこちらです。
エイゼン先生の漫画との出会いは中学生時代。やっぱりエポック島の通称ハラッパ、民間作家たちの作品でひしめく巨大アーカイヴでの話。独特にして挑戦的な絵、剛柔双方への振れ幅の取れたキャラクター、エッジの利いた台詞にユーモラスな間合い、斬新と王道を使い分けたストーリー展開、ホロ3.0時代の先までを見据えたと評される、関わらず基本や伝統への忠実さも指摘された技法の数々……フクロウが魅
【短編小説】少年フクロウ (3)
前回はこちらです。
流体的なナノマシンとAIの働きに支えられ、鋼鉄の巨人は森の中を重たげに歩く。球体型のコックピットは機体の胴体部位に収納されている。諸々の機体動作に合わせ、胴体内の空洞幅で位置取りの調整を行う。アーミラリー天球の動的な中心をフクロウは思う。調整は内部の震動をむしろ軽減させるため。意外と彼の乗り心地は快適で滑らかだ。
加えて恐怖心は少ない。コックピットは複数のエンジンユニット
エレクトロニカ2024 Oct.3
理由は一体何だろう。彼女は僕の中に強い印象を残した。あるいはそれは弱い印象。儚さから僕の中の庇護欲が駆り立てられていた、爽やかな庭園の塀の上、翼の傷ついた小鳥が侘びしく振り撒いているような。
動作が繊細で僕の目を引いた、その点が理由の一つとして挙げられそうだ。例えば咲き香る花々に顔を近寄せ、彼女は大きな黒い瞳を閉ざす。感覚の一つ一つも静かに遮断させたみたいにし、丸やかな鼻先の嗅覚に神経を研ぎ
【短編小説】少年フクロウ (2)
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朝の多部良高校、校舎の屋上。意外と凹凸に溢れる空間は金網のフェンスで囲われる。季節の花を養うプランターに彩られる。中心部にはコンパクトなパーゴラを擁している。パーゴラは開かれた傘の形だ。昼休みには天気を問わず校内の生徒たちを集める。しかし今朝のところは生徒の姿はフクロウただ一人。
彼は週刊漫画誌を読み進めていた。原則として毎週金曜日に発売される、国内の四大勢力な一角の『少
雑記 2024.09.23
お疲れ様です🙂
新しい短編の掲載を始めました。
1の掲載後に後半の川越え辺りの描写に物足りなさを感じましたので、翌日頃に台詞部分を中心に少し書き足しています。
内容に大きな変化はありません。カッパのキャラクターの名前がカペーになっているのが最新のものです。
・新短編について
今回はメタバースもので時代設定も近未来なのですが、現実の生活がどうなっているかはそれ程気にしないで大
エレクトロニカ2024 Sep.21
一匹のトンボが翅を休める。周囲の葦や水面の上にもトンボは沢山。落ち着いて琵琶湖の水景色に臨む、僕がそうする機会は初めてのことだったかもしれない。時刻は夕時。僕はなだらかな湖畔に佇んでいる。特に何をするでもなく、厳密には観光とも異なる、小用を抱えた旅路の果ての宙ぶらりんな状態。丁度水辺で翅を休めたトンボのような。
西の先には比叡山の尾根の連なり、対岸に暮らす人々の灰白色の街並み、沈静した深い緑の
【短編小説】少年フクロウ (1)
霧の味は如何なる感じか。吸い寄せる行為の感触は如何なる感じか。現実の少年は口周りで微小な粒と親しく接する。両側の頰で無数の水滴に感謝を捧げる。浅い眠りの夢を見るように。夢の世界と触れ合うように。およそ固形の肉は舌から喉で味わう。味わいは少年の内部に降り注ぐ恵みの雨。恵みの雨後は豊穣の季節の始まり。胃の底から湧き出る少年の言葉がたわわに実る。
時には余計な要因が感覚を掻き乱す。正午に少年は羊飼い
エレクトロニカ2024 Sep.7
前回はこちらです。
玩具の猫にかけられた首輪の細部、作り物のダイヤモンドが光を放った。引越し業者たちの作業の手を逃れ、現在の僕に尚残る生家の思い出は、白雨の時の鼻歌や口笛や、ゴムボールを気ままに投げつけた襖の戸、押し入れの中に巡らされた木板の感触、宙にかざしたペーパーナイフの鈍い色合い、枕に仕込まれた小鳥たちの羽の舞う様子……数え切れない。
僕はリビングに築いた毛布の山の中、電気スタンドを点
エレクトロニカ2024 Sep.4
公園で、僕らはブランコで遊ぼうとしたのだが、上手く乗ることが出来なかった。
順番待ちや重量制限の問題、考えられる原因は様々だと思う。
とりあえず僕と二人の友人はそれらのいずれにも引っかかることはなく、有り触れた考慮の外に置かれた境遇は僕らのショックを倍増させた。
突飛な想像も根本的な慰めにはなりそうになく、要するに僕らのこの悩みは全くもって社会や自然世界の外からやって来ていた、絶えず人間の
エレクトロニカ2024 Aug.31
前回はこちらです。
スケッチブックの記述に残る夢を見ていた時。私自身の身体はリビングの西側のソファ、柔らかい座面の恩恵に与っていた。テレビと足裏の聖堂を向け合わせ、首から下を覆ったブランケットと横たわり続けた。弾力に漲るクッションが頭部を支え、突き出た鼻先を金木犀の香りが掠めた。左手を水平方向に伸ばせば、背の低いガラステーブルに触れることを行えた。
遡ること二年程も前の話、私は右の目尻の
エレクトロニカ2024 Aug.29
リアリティバイツ。
現実からのひと噛み。
私自身が噛み締めたのは失恋の敗戦。
哀しい肉の味わいが見えない喉を越え、私の中の隅にまで広がり渡った。
伝書鳩の群れが胸の辺りで舞い飛び、心の層に皮肉な夜を被せ続ける。
都市の三文通りに並んだ街灯、頭上に輝く腫れた楕円は光の斧で。
脆やかな私の首を断ち、怪物のアセファルが失意の底に転がる頭部を引きずり回す。
それで私は延々都市の最下層から、
エレクトロニカ2024 Aug.27
屋根付きの列車駅のホーム。大掛かりな影が仕切りを持たない洞窟を作り上げていた。水色のベンチでは高齢の男性が休まり、痩せ細った右手をゆっくりかざした。手の平には黒色のポータブルラジオ。皺だらけの表情から感じられたのは、傍らの二人の男の子に向けた和やかさ。双子の孫だろうか幼稚園に通うぐらいの年の頃だった。手の平のラジオを左右から挟み込み、円形のスピーカー部分を念入りに覗き込んでいた。時折目線を上げて
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