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哲学・現代思想

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人間とは何か①

人間とは何か①

18世紀、近代分類学の祖であるカール・フォン・リンネは現生人類をホモ・サピエンス(賢い人)と名付けた。

興味深いことには、リンネは自著『自然の体系』の人類の項(ホモ・サピエンスという正式な名称は『自然の体系』第一〇版において初めて登場する)において、「汝自身を知れ」という古代ギリシアの格言以外のいかなる説明も記載しなかったというのである。

リンネはキリスト教的な人間観を首肯しながらも、あくまで

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人間とは何か②

人間とは何か②

神学的な視点からルネサンス期の哲学者、ピコ・デラ・ミランドラは『人間の尊厳について』と呼ばれる弁論の中で、「人間とは何か」という問いを神学論的な立場から検討している。

創世記によれば、神は森羅万象を創造した後、最後に自らを象った人間を生み出したとされる。だとすれば、万物が上位、中間位、下位の各位に配分された後、創造された人間はいかなる原型も、一定の場所も、序列も持ちえなかったはずであると、ピコ・

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環世界、世界、そして外部へ

環世界、世界、そして外部へ


1.《環世界》~生物学の観点から~私たちは、すべての生物にとって客観的な世界があり、各々の生物はその環境内で同じ時間と空間を共有しているのだと考えがちである。

ところが、二十世紀最大の動物学者の一人であるヤーコプ・フォン・ユクスキュルによれば、世界は一般的に理解されているような単一的なものではなく、動物各々が主体的に構築している無限の多様性をもった知覚世界(ユクスキュルはこれを《環世界》と呼ん

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「わたし」を哲学する

「わたし」を哲学する


1.固有性としての「わたし」

私とは何か。普段、私たちは自分の足の爪先から頭の天辺まで「わたし」であると固く信じている。しかし、本当にそうだろうか。美容院で散髪した後、床に散らばった髪の毛を「わたし」であると思うことはないだろう。視線を身体の内側に転じてみても同じことが言える。血液や唾液や糞尿といったものは、私たちの外部に排出された瞬間に「わたし」という自同性を失ってしまう。

「わたし」が「

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