マガジンのカバー画像

RIPPLE〔詩〕

132
運営しているクリエイター

#ポエム

赤と蒼 【詩】

赤と蒼 【詩】

千里を駆けた脚はどこへ

体が役目を終えたのだ

もはや草の味も分からぬ

心が役目を終えたのだ

どこまでも伸びゆく山麓の大地

二度と立つことはないだろう

毛並をすり抜けていった風の糸

二度と感じることはない

この背に乗せたのは忠義だった

人に尽くすとはおろかなことよ

誰かに尽くす人だったからこそ

ならば忠の連鎖を断ち切ろう

ああ 死を連れてきてくれたのか

そうだ わたくしが死

もっとみる
青 【連詩】

青 【連詩】



Rhythm & Blues
深い深い青だ
天上の音楽と逆のベクトル
心の沈んだ先で
芥が煌めく音が聞こえる
それは
錆びたピアノの弦や
ケースの中のテナーサックスの輝き
クラリネット奏者の17年目の結婚指輪



リンドウを生けたコップを前に
すっかり動けなくなってしまった
まるで
「Rで始まる語を挙げなさい
制限時間内に できるだけ多く」と
誰かに回答を急かされたみたい
戸惑いを

もっとみる
永遠の鈍色の内 【詩】

永遠の鈍色の内 【詩】

雨だれ 七色
次の粒が落ちるまでの
期待の色と 中間色の もどかしい
望んだものは 手に入らない 当然
意識は 数秒さかのぼって
他の色を欲しがるものだ

雨だれ カスミ草
主役の不在を嘆いた人の
期待の花と 世間知らずの くだらない
確固たるものは 目に映らない 当然
意識は 勝手に先回って
他の花を飾り立てているものだ

倉庫の天井のような空
見上げるのをやめたら
右手に握られていたドライフラ

もっとみる
靴と声 【詩】

靴と声 【詩】

言葉は揃えても
靴は揃えなかった
ひっくり返った片割れ
あさっての方を向いた片割れ
ねじれる ねじれたままにする
その選択が
旅をするかしないかの臨界点になる

「空の高さを知るには
 分度器と赤い風船が必要です」
  とかいう 思い込みの定理

アン・オー 腕を上に
心を楕円に保ったままで
広がった 澄み切った 己の内で踊れ
巨人の創生とか 神体の宇宙とか
遺伝子の綻びより生まれし妄想は
なぜだ

もっとみる
膨れる 薄まる 【詩】

膨れる 薄まる 【詩】

青空に見限られた心は
まだオレンジの香り
消えないように薫き染めた
A6用紙の世界に栞

行間から洩れ入る光の
かすかな熱で
蒸発させた情念を
多動症として生みなおす

ロッカーはリミッターを外せと歌った
詩人は超感覚の世界を勝手に覗いた

凡庸な病人のわたくしは
比較的調子の良かった数日を
一生にまで延長する

夢を「夢」として見たら終わり

限られていた 何かが 開かれてゆく
かつて 情念だっ

もっとみる
あがく人へ【詩】

あがく人へ【詩】

夢は溶け
露は煌めき
何かが終わってしまう朝を
飾り立てた
濡れた向日葵

誰かに言葉を贈るたび
空虚を溜め込んだよ
新しい言葉はもう入らない
萎んだのは胸?
それとも夢?

情熱の素粒子が
まだ絶望をくすぐるから

別の歩み方を見つけたんだ

流れ出した
調律を拒む音楽よ
自由という檻の
片隅にある遊び場で
途切れ途切れに歌う
君と世界に隠れて歌う

震え出した
記譜を拒む音楽よ
理想という箱の

もっとみる
限られた壁の向こうに【詩】

限られた壁の向こうに【詩】

光、無量に差すれども

生涯、照らされなかった言葉を

アイビーの蔦這う壁に

でかくでっかく 吹きつけた

路地裏はあまりに狭いものだから

誰の目にも留まらないし

この目にも

 もはや言葉としては 映らなくなった

只管に密度を増してゆく蔦葉らが

 投げてくる言葉は唯ひとつ

  「ここを去れ」と

嘆息との虚しい往来

──かつて

纏わる煤を友愛の証に換えた

煙突掃除夫たちのように

もっとみる
suppression【詩】

suppression【詩】

面倒くさい空だ

コバルトブルーに澄み
ほどよく千切れた雲を散りばめ
どこにでも 我が物顔で 居すわる空

いつ誰にでも
美しいと
見上げられると
思うな

幾筋もの面倒くさい道の先に広がる
むずがゆい空め

その始点は紛れもなく私
奴らが面倒くさいのを 責めようがない

これ以上 空が無様に滲まないよう
もう何もしないことに決めた

もう 何も しない と

焦燥の熱で雲が膨れ
時のひしめく音 

もっとみる
hole【詩】

hole【詩】

窓辺に身を横たえながら考えた

血は天から戻るのだろうと

なら抜けていった場所は何処だったのか?

地でもない 森でもない

崖にも 中洲にも

それらしき「穴」は見当たらないのだ

かえりみて

目にも口にも心にも

それらしき「穴」はなかったのだ

無尽蔵に注ぐ光が

再三、諦めろと諭してくる

穴を探すのは無駄骨だと

うるせえよ!

窓を閉ざした──

しかしなぜだか
 漲ってくるようだ

もっとみる
過去詩ふたつ「樹」

過去詩ふたつ「樹」

『木々と君のコラール』より

「過ぎる樹の」

夕闇を照らす ガス灯の
こはく色したゆらめきに
うっとり ひたった帰り道

こころは ふるえてざわめいた
あたまの声は ひっそりとして

目覚めればそこは 白い 朝
夕べのわたし どこいった?
キライだ 太陽は正しすぎる

明るみに出る 気怠いからだ
照らされるのは 道しるべだけ

樹のよこを とおりすぎるたび
まぶたに緑が重なるよ
──絵画が うす

もっとみる
即興詩みっつ〈あやまち〉

即興詩みっつ〈あやまち〉

(2023/4/2)

耳朶が欲した孤独の代わりに

飴色をした交響曲が

雑多な人を連れてくる

地団駄を堪えた少年

堪えられなくなった老人

緊迫する分水嶺で

行くか戻るかの

オーボエの音階に

蟲惑された私は蛇だ

己の尻尾に噛み付いたら

身を迷宮に変えるだろうか

そして灰を舐めながら

直線の生を閉じるのだろう



(2023/3/23)

こんな夜更けに

夜を吸い込んだ者

もっとみる
即興詩みっつ〈愛別離〉

即興詩みっつ〈愛別離〉

(2023/2/8)

光が閉じてゆく安寧

愚鈍な手で顔を洗う



(2023/2/11)

ナイトスタンドが呼ぶ

サテンのシーツが掠めていく

されども僕は

 香りの記憶のみを引き連れて

光も闇もない部屋へ向かおう

そこに一握りほどの土塊を置き

夢想から覚めたときの落胆を

新たに覚悟と呼び直しては

どこにも向かわず どこからも向かわれず

何もかも等しく

ありがたがるのだろ

もっとみる
即興詩みっつ〈ブリザード〉

即興詩みっつ〈ブリザード〉

(2023/1/24)

吹雪いたのは何処だったか

緑土でもない枯野でもない

日常にコンクリートを敷き詰め

ペンキをぶちまけた無様な庭で

墓石もどきに腰をおろす

その日たまたま震えていた俺を

歳月という名の巨人の眼が

掠めて素気なく通り過ぎるまでの時間

凪こそがずっと痛かった

乾いた缶を何処に打ちつける



(2023/1/26)

対岸の木を見つめる人も

シンクの茶碗を見

もっとみる
即興詩みっつ〈若者〉

即興詩みっつ〈若者〉

(2023/1/14)

鏡張りのビルが切り取る

窮屈な升の内にさえ

きっとそれはあるはずと

流れる雲に首を振り

落ちゆく夕陽に眉をしかめた

引き継いできたはずのものは

すっかり失われてしまった

無味の眺望に打ちひしがれて

ありもしない里へ帰ろう

ああそんなところにいたのかい

探し物をする人の

疲れた顔だ



(2023/1/16)

籠から飛び立った鳥は

二度と帰って

もっとみる