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RIPPLE〔詩〕

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#文芸

無力を焚べて【詩】

無力を焚べて【詩】



 尽きることない炎を囲み
 陣太鼓を轟かせながら
 原始の挫折は
 業火を拒否して燃え盛る

    その子は暗闇のうちに
    きちんと座り
    祭り火を睨みつけていた

 身じろぎもなくぶつかり合い
 躍動する人と人と人
 思念の火花は縦揺れの持つ反撥で
 祭り火へと飛び込んでいく

    孤独な老獪の学者が
    傍に寄ってきて
    顕教を懇々と諭した

 通り過ぎていく

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磨かれてしまう【詩】

磨かれてしまう【詩】

波音を掻き消すプロペラ音
旋回するブレードが
たびたび頭をかすめるも
完璧な設計のもとに造られた重機が
やすやす落ちてくるはずもなく
ギロチンみたいに
斬り落としてはくれない
なにも切り離さない

プロペラはむしろ
与えられた役目に忠実だった
燻りきった風の表皮を
洗い磨いて(enhanceして)
そうやって
生き永らえさせてきたのか
送電線の一束すら
繋がっていない心の錆を

いずれこの羽根はな

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海岸線の裸足【詩】

海岸線の裸足【詩】

 「海岸線の裸足」

 冬至の微光を追いかけて

 阻む海岸線には裸足

 線をなぞるように並ぶ裸足

 誰もが何かを待つ人だった

 去ってしまったひとを

 追いかけてくるひとを

 待つ人だ

 微光は薄雲に弱められ

 海鳥の群れに散乱されて

 ひとつ

 またひとつと

 内陸へと歩み出す裸足を見た

 海岸線が疎らになっていき

 わたしは

 目の届くところにいる人たちを

 勝手

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四行詩……か?

四行詩……か?

  「四行詩???」

 心臓に腕 腎臓に目玉 などと書かれた

 メモの旅立ちを見送る窓辺

 歳月に裁断される言葉たち 赤らんで

 ──歩み出す── 背を飾る花吹雪




#詩 #ポエム #詩歌 #文芸 #創作

四行詩(自撰3編・秋冬)

四行詩(自撰3編・秋冬)

12.ㅤ

 衣の裏でそっと抱きしめた

 薄紅のまま残された心

 くすんだ紅と秋の空色は

 今宵 別の色恋へと向かう



* 薄紅(うすくれない) 紅(べに)



14.ㅤ

 蜜も涙も溶けて溢れて

 小さい器を恨めしく見ていた

 月影も届かない窓下の長夜

 明ける頃には 海の一部でいたかったのに





9.ㅤ

 過ぎ去ったとて ここにあります

 高ぶるほどに留まる

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四行詩 29.

四行詩 29.

 影が焼き付いて表紙を飾った

 つきまとう霧を払うのをやめ

 立ち尽くす頼りないシルエット

 僕がこのボロいノートを接ぐさ


#詩 #ポエム #文芸 #創作

詩「最後尾のダンス」

詩「最後尾のダンス」

  「最後尾のダンス」

 僕を見る僕、を見る僕、を見る僕──

 ──最後尾だね

 名もない小惑星に立つ

 僕から遠いところで僕らが

 勝手気ままに踊っている

 サンバ、ロックに、あれはゾンビか

 膝を抱えて眺めていると

 独りでに口が尖ってしまうよ

 誰にも知られず肩を揺らす

 銀河に深く沈み込む振動

 これは、いつまでもやまない音だ

 僕だけずっと眠れないのか

 なあ、

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詩「恥じらいのあらわ」

詩「恥じらいのあらわ」





「恥じらいのあらわ」

流行りのシャツに袖を通して
裸になっていく少年少女
夕闇にいちど溶け
朝日に散りゆく
逆光のシルエット
粒子がたなびいて代弁した
かの人の健勝と
かの人への羨望を
裸になれないわたしは
恨めしそうに衣を脱ぎ去り
草をまとって 朝露の羊水へ……

空よ あなたに
甘えるように仰向いた
誰も
わたしの背中を見ませんように


#詩 #詩歌 #ポエム #文芸