見出し画像

檸檬読書記録 『六四五年の過去わたり』

今日の本は
牧野礼『六四五年の過去わたり :平城の氷と飛鳥の炎』
児童書。

家族が姉だけの貧しい暮らしを送っていた沙々は、唯一の姉を貴族に攫われてしまう。
姉を取り戻すために忍び込んだ邸で、言祝という青年に捕まるが、彼にその度胸を見込まれて、過去わたりをし蘇我の邸に入って探る役を任されることに。
過去わたりは、星を読み星図を書き氷室で儀式を行うことでできるという。
狙うは、蘇我の屋敷で燃えて消えてしまった書物。『日本書紀』をまとめるのに必須の本、数冊を持ち帰ること。
沙々と言祝は着々と準備を整え、70年もの月日が離れた時を越え、任務を遂行しようとするが…。

といった話で、児童書ながらなかなかしっかりした設定と内容で、子供でも大人でも楽しめる作品だと思う。
以前こちら


で載せた『天上の虹』の時代ともリンクしていて、その歴史を知っているからよけいに興味深く読めた。(勿論未読でも、その背景の歴史を知らなくても充分楽しめる。)

主人公の沙々は、誰にも必要とされず、すずめと渾名されていた。美人というわけでもなく、器用があるわけでもない。
けれど誰も助けてくれないなかで、沙々だけが姉を取り戻そう必死にもがく。そんな健気さと強さには心惹かれ、あらゆる真実にもがきながらも成長していく姿には胸を打たれた。
小説の中でも、彼女に惹かれるように環境が変化していく。
最後の最後まで考えられていて、胸を熱くさせる作品だった。

過去わたり。
この本を読んで、自分ならいつの時代に過去わたりしたいかと考えてみたら、最初に思いついたのが平安時代だった。
紫式部がいた時代。
平安までひとっ飛びして、沙々のように、書物を回収したい。
紫式部が書いた『源氏物語』には、失われてしまった巻があるらしい。それを回収して、現代に残せたらどれだけいいか…!読みたい!
ただ問題はくずし字が全く読めないから、どれが幻の巻か分からないこと…。他にも服問題、言葉問題、所作問題と問題は山積みだけど…。むむ。

『源氏物語』の幻の巻といえば、幻の巻がこんな内容だったのではないかと推測されつつ、物語になっている本がある。

森谷明子『千年の黙 異本源氏物語』

この本は、本当に凄い。
主人公は勿論紫式部で、彼女が怜悧な頭脳を生かして活躍する話。(こちらは児童書ではなく、一般小説です)
様々な謎が紫式部の元に舞い降りながらも、歴史の流れを壊さないように組まれている。知識量が凄まじく、実際に起きた出来事なのではないかと錯覚させられるほど違和感がない。
にも関わらず文章がさらりとしていて、平安時代というまるで異なる時代にも関わらず身近に感じられ、背景が浮かぶような読みやすさがある。

この本は3部作構成になっていて、他に2作出ている。

『白の祝賀 (逸文紫式部日記)』

『望月のあと (覚書源氏物語『若菜』)』

2作目は、親王誕生の祝賀を舞台に、紫式部の日記の内容を中心にした内容。
3作目は、紫式部が仕える道長を中心に、彼が密かに匿っている瑠璃姫と『源氏物語』の若菜の巻を絡めた内容。

『源氏物語』好きなら、是非に読んでもらいたい作品だ。
『源氏物語』を知っていると面白さ倍増で、知ってるからこそワクワクとして、より好きになる。物語自体だけでなく、紫式部自身も惚れ惚れするぐらい機転が聞いて、好きになってしまう。
ある程度知ってる方が取っつきやすいけれど、勿論知らなくても楽しめる作品だ。
おすすめです。

そういえば、平安時代だと和歌も習得しなくちゃいけないんだ…。もう1つ問題を発見して頭を抱えつつ、今回は閉じようと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ではでは。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?