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7つのホテルを経営する龍崎翔子のビジネスの作り方/LDB出版部#6

先日、気鋭の若き経営者に出会いました。その名は「龍崎翔子」さん。
私が企画コーディネートをしています経営勉強会で講演をいただいた、
龍崎さんのブランド戦略と市場創造のお考えをお伝えします。

19歳で起業

龍崎翔子さんは、2015年に東大在学中の19歳で起業(現 株式会社水星設立)、富良野でペンション経営をスタートさせ、その後事業を広げ、大阪、京都、金沢など現在7つの自社ホテルをプロデュース、運営しています。
他にホテルコンサルティング事業も展開します。

龍崎さんが展開するホテルは、これまでに無い尖ったコンセプトを打ち立て注目されています。コロナ禍で休業を余儀なくされた逆境のなかでも、怯む事無く斬新な発想力で新規事業を次々にリリースしています。

例えば、コロナ禍で空いてしまったホテルのために、「未来に泊まれる宿泊券」をリリースし、営業できないホテル約300施設を集い、未来の宿泊予約を取るシステムを構築したり、
ホームがセーフでない方のために「ホテルシェルター」を立ち上げ、家族の関係がよくない方やエッセンシャルワーカーのために安全な場を用意したり。

ニッチトップ戦略

龍崎さんは、箱としていいホテルを作るのでなく、
「選ばれる価値のあるホテルブランドを作る」とミッションを掲げ、
付加価値を高めていくことで勝負しています。

龍崎さんの「ニッチトップ戦略」とは、立地や価格といった定量な要素で戦うのではなく、新しい市場を創ってその中で勝ち抜く。
新たな宿泊市場を自力で作り上げ、市場を育て拡げていくものです。

今春5月に開業した産後ケアリゾートの「HOTEL CAFUNE(カフネ)」もその一つ。
日本では「産後ケアリゾート」がまだまだ普及していませんが、韓国では75%の人が産後にホテルリゾートを利用しています。
日本でもこれから普及する可能性があると睨み、妊婦さんの心身のケアのためにマーケットを拡げる必要があると考え立ち上げたのです。
まさに、社会と向き合い新たな市場を自力で作り、市場を成長させようとしています。

どんな問題でも「自分事」と捉える

昨今、社会課題という言葉をよく耳にしますが、龍崎さんは「社会課題という課題は無い。あるのはパーソナルな課題です」と言い切ります。

「あくまでどこまでもパーソナルな課題であって、それが社会的に普遍的だったり、社会の仕組みによって生み出されている時に社会課題となるのだろう。
だから、社会的に普遍的なパーソナルな課題があるだけ。
社会課題の解決ではなく、自分自身の課題を解決しているのです」と。
その「自分事」と捉え考え模索することで、ビジネスの芽が生まれているのですね。

問題解決無くして企画無し

いい企画とはいい課題解決であり、いい課題解決をするにはいい課題発見が必要。
良い企画をする上で最も重要なのは良い「問い」を見つけることだと語ります。その試行錯誤の幅広さ、深さが企画の精度へとなっていく。
その良い「問い」を見つける龍崎流4つの視点とは、
 ①    顧客の目    
 ② 経営者の目
 ③    メディアの目
 ~メディア的にみて面白いか、人が話題にしたくなる     
           ような惹きがあるか。
 ④    神の目 ~業界全体、社会全体を俯瞰してみてそれが必要とされてい
        るか。
この4つの視点で「問い」に対する答えを模索していくことが、ホテル作りの大事なプロセスであるといいます。

ホテルの定義を覆す

ホテルは、宿泊客と「人」、宿泊客と「町」、宿泊客と「文化」が出会う場所であり、ホテルを通して町の空気感を伝え、いろいろな背景を持つ人との出会いの場ともなる。
ホテルは旅先の寝床ではなく、旅人を地域に押し出すポンプのような役割なのです」と。ホテルは地域を活性するための装置でもあるのです。

ホテルとはオールナイトで泊まれる箱であり、ホテルとはライフスタイルを試着する場所でもある。つまり、ホテルとはメディアなのです」。
“ホテル” の定義をすり替えて、思い描く”ホテル観” を模索することで、既成概念に縛られないホテルづくりができているのです。

龍崎さんの言うホテルの定義をすり替えるとは、例えば
 ・ホテルは人が人をケアする場所と思えば、
   → 病院の仲間かもしれないし、保育園の仲間かもしれない、
      エステサロンの仲間かも。
 ・ホテルはオールナイトで過ごせる箱と思えば、
   → 漫喫の仲間、クラブの仲間かも。
 ・ホテルを旅先案内所と思えば、
   → 町の食堂かも、地域に詳しい長老の仲間かも。
このように、定義を変えることで、他の業種との親和性が見える「点」が出てくる。それでより良いコラボレーションを生み出すことが出来ているのです。

ホテルは“旅先の寝床”ではなく、“ポジティブな予定不調和が生まれる場所”であると捉え、新たなビジネスを考えるときは、“旅先の寝床”という既成の定義を覆すことが重要だと龍崎さんは考えます。

株式会社水星のサイトから

ホテルはメディアである。

ホテルはメディアという考えが私たちの”ホテル”であり、ホテルをつくる意味だと思っています。
ホテルはただの寝床ではなく、ひとの五感と、十数時間に及ぶ生活を預かり、想定していなかった人物や価値観、空気感、アイテム、、、との出会いがある場所。半プライベートで半分パブリック、キュレーター (ホテル運営者)の意思が入り込む生活空間。
それはもはや生活空間メディアといっても過言ではない」と言明されました。

「つまり、ホテルは人の人生をデザインする可能性がある。
だから、社会インフラとして人生の一部をデザインするようなホテルを作りたい」
と語り、
ホテルを空間メディアとして再定義していくことの意味とビジネスの可能性を、分かり易い表現をしながら論理立ててお話しくださいました。
まだ26歳の龍崎翔子さんの今後の活躍がますます楽しみです。


マーケティングプロデューサー谷口正和の著書『3人の旅人たち』(2010年ライフデザインブックス刊)では、全ては「最初に顧客ありき」であり、「自らが顧客へと回帰する」こと、「自分自身が顧客になった時に何を要望するか」という認識が重要であると指摘しています。
その顧客とは「3人の旅人」、当時の潮流として現れている顧客特徴を「ホームグランドカスタマー」、「メディアカスタマー」、「ツーリストカスタマー」としています。
店も施設も、「ホテルもメディア」であると説いていますのでこちらもご参考ください。

文・長谷川千登勢
株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 「ライフデザインブックス」発行書籍の数々の出版をプロデュース、メディアの企画・編集を担う。
他に、経営セミナーの企画・コーディネート、コンセプトワークに関する企業サポートを行う。