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映画のこと

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#映画レビュー

村社会

村社会

「淡路島は日本の縮図である。けだし、名言である。」

兵庫県の瀬戸内海側に位置する、淡路島のある教育者が遺した言葉だ。初めてこの言葉と出会ったとき、離島ならではの独立した産業構造を言及したものだと思っていた。明石海峡大橋が開通する以前は離島であり、本州との交通手段は船のみであった。にもかかわらず、この島はかつて三洋電機やカネボウ紡績、ワコールなど国内トップレベルの製造業が拠点を置いていた。当時の島

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新しい表現

新しい表現

雑草とは、その美点がまだ見出されていない植物だ。

アメリカの哲学者であるエマーソンが遺した言葉だ。才能や能力は、人に認められて初めて評価を得る。誰にも認められていない才能はいかに素晴らしくとも、平凡であることと同義なのだ。日本人なら誰もがその名を知る画家フィンセント・ファン・ゴッホ。彼が現在の評価を得たのは、死から約10年後のことだった。描いた絵画を彼が販売できたのは、生前1枚だけだったと言われ

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ふるえる。

ふるえる。

「同じ好きでも好きの程度は人それぞれだしね
 恋する者同士でもその気持ちはイコールじゃないんだ」

マンガ『また、方想う。』(タチバナロク・著、KADOKAWA・刊)で登場人物の野方くんが、付き合い始めた彼女に語った言葉だ。恋人である相手との距離感の違いを「本当の両想いなんてないのかもしれない」と表現する甘酸っぱいシーンである。自分自身が抱く相手との関係性と自分の欲望を切り分けて、相手が自分へ抱く

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女神の行く末

女神の行く末

穏やかに話す。
アメリカの作家デール・カーネギーが著書『人を動かす』で書いた、相手を説得させるときに必要な12原則のひとつだ。自分の意見が正しいと思っている人を説得する場合、ただロジカルに話すだけで良い結果を得られることは少ない。打ち解けた態度で話すことが頑なな相手の心の扉を開け、敵愾心を取り除くというのだ。

映画『女神の見えざる手』は選挙活動のロビイストを描いた物語である。対立候補の主義主張を

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ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

3年ほど前に映画『ベイマックス』を観て、ハリウッドのアニメーション映画の底力を痛感してしばらく席から立てなかったことをよく覚えている。前年に公開されたスタジオジブリ『かぐや姫の物語』で、日本のクリエイティブにおける一時代の終焉を感じてしまったからかもしれない。

宮崎駿監督の引退は残念なことだが、細田守や新海誠など新しい才能が世に躍り出る後押しにもなったはずだ。それは海外作品の扱われ方において

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関ケ原

関ケ原

会社が変わると文化も変わる。気づくことも多い。「こういうことか」と腑に落ちる出来事が春からいくつもある。会議もそのひとつ。延々と長時間カンヅメになって結局ひとつも進まない、という場所に何度も居合わせたことがある。自分が主導権を握る場では何かしら決定事項が出るよう進めていたのだけど、会議という場所はそれだけじゃ物足りないのだなということが最近になってよくわかってきた。

会議中に「決める」だけじ

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しゅしゃせんたく。

お盆なのに、梅雨のような空模様。夏真っ盛りであることを忘れてしまいそうだ。だが、耳を澄ましてみると夏の蝉の声がしっかり聞こえてくる。あるシーンのどこを取り出すかによって、同じ景色でも判断がまったく異なる結果になってしまうことは身近でもよくあることだ。

映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』は、巷で騒がれているように観た誰もが何か言いたくなる(突っ込みたくなる?)作品だ。原作

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