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医師がイギリスに来て難航したこと

イギリスへ引っ越してきたのが2017年7月。アイルランドの首都であるダブリンの医学部を卒業し、医師としてキャリアアップするためにイギリスへやってきた。イギリスって「アイルアンドと一緒じゃん、さほど変わらん!」だと思ってはいたけど、実は困っていたことがいくつあって、改めて考えると似ても似てつかない国同士なんじゃないかな。


なぜイギリスを選んだのか?

大きな理由の一つは、アイルランドの医学部を卒業した場合、PLABという医師国家試験を受ける必要がない。アメリカだと、相当難易度の高い「USMLE」という三つのパートの試験を合格しなければならいけど、イギリスならすぐに仕事につけるというメリットがある。

二つ目の理由は、アイルランドのパスポートを持っているので、ビザが不要で簡単に入国できること。それに、採用される時にアイルアンドの医師はイギリスの医師と同じ立場として扱われるので、差別の心配がほぼない。多くの国では、自分の国の医師を採用してから外国人の医師を採用するという仕組みになっているが、イギリスはアイルランドに対しては国民とほとんど同じ扱いをするらしい。ビザなしで自由に行き来できる「Common Travel Agreement」、そして選挙権という二つの特権もある。

アメリカ、オーストラリアやカナダへ引っ越している医師が多いけど、中々厳しい国家試験だけではなく、ビザなど色々な壁を越えなければならない。イギリスが一番手っ取り早いと思ったので、イギリスへ行こうと決心した。

理由には含めるかどうかはちょっと迷っていたけど、昔からハリー・ポッターやシャーロックホームズが大好きだったので、イギリスへの憧れも少しあったかな。

銀行口座の開設

銀行口座をパパッと開設できると思っていたけど、実は一番苦戦したのがこれだった。電気代の請求書やら運転免許やら現住所証明が必要で、渡英したばかりの私には持つはずがなかった。

NatwestやBarclaysなど色々な銀行へ涙目で聞いて回ったりはしたけど、外国人に対して割と寛容だと言われている銀行、LLOYDSだけが雇用先を証明できる書類とパスポートさえ持ってきてくれれば、開設できるんだと言われた。渡英した知り合いのみんなもLLOYDSを使っているようだけど、聞いてみたら同じようなことで苦労したらしい。HSBCも開設しやすいと聞いているけど、近くには支店がなかったので、LLOYDSにした。今はMonzoやスターリングなどオンライン専用の銀行がいくつかあるので、イギリス国内の現住所証明がなくても簡単に開設できるらしい。

NHS〜国民保健サービスの使い方

アイルランドや多くの国と違い、イギリスにはNHS(National Health Service)という国民医療制度があり、基本的には無料で健康保険も不要。

公的医療機関なので、アイルランドで使い慣れているプライベート医療サービスとは全く違うし、保険が不要ってのが中々衝撃的だった。アイルランドには親が医師なので、よく同僚に頼んで診てもらったり、たまに医療費もタダにしてくれたりして、医師の子としてはちょっとした特権があった。親に頼っていたばかりだったので、イギリスで病気になったらどうすればいいのかとイマイチ分からなかった。プライベートも一応あるけど、高額で特定のサービスしか提供しないらしい(例:救急科はプライベートにはないので、急性疾患の場合はNHSの病院へ行く必要があるなど)

NHSは一応私の雇用主なので、この情報源が豊かな職場のおかげで問題なくGPに登録して薬を処方してもらえた。NHSを利用するために、まずはGPに登録する必要がある。そうすればNHS番号を貰って、病院やGPの他に救急外来、NHSアプリなど様々なサービスを使えるようになる。

そして、すべてがアプリやオンラインになっているので、予約や処方箋のリクエスト、自分の血液検査やスキャンの結果や外来の書類の確認などをNHSアプリや公式サイトで行える。

でも、初めてGPへかかった時、受診が終わったら財布を持ち受付員でぼうっと待っていた。「終わったら帰っていいよ」と言われ、「え!医療費は?」と聞いたら待合室の患者たちに笑われたという恥ずかしいエピソードがあった。お金や健康保険証を出さずに帰ることに慣れるまで時間がかかったけど、イギリス人にとっては普通だね。

持病の治療の他に前癌病変の手術を受けたことがあるので、イギリスでは無料で治療を受けられることが恩恵のようにすごくありがたく思っている。アメリカやアイルランドだったら医療費がきっと莫大なレベルに達していたはず。医療保険も安いものじゃないし。

確かに慢性疾患や軽病、待機的手術などの待ち時間はとても長いけど、胸痛や怪我のような急性疾患、重症化するリスカが高い病気や癌のことを割と素早く対応してくれる。プライベートに比べて不便なところが多々あってもメリットも少なくはない。

そうは言っても、実は私も最初に多くの外国人と同じようにNHSに対してたくさんの不満を抱いていたんだ。でも、医師と患者の両方の立場を経験した上、みんなが平等に医療サービスを利用できるってのがイギリスの医療制度の一つの良いところなんじゃないかなと思うようになった。

運転免許の取得

ダブリンに住んでいた時にマニュアル車のレッスンを受けていたけど、運転しなくて生活ができる都会なので、試験まで挑戦をしなかった。東京やロンドンのように地下鉄はないけど、都会にしては小さくて歩きやすいし、路面電車とバスサービスも充実している。

でも、免許なしでイギリスへやってきた私はかなり困っていた覚えがある。ロンドンと違って当時働いていた街のブラックプールには電車どころかバスも少なく、夜勤明けやら暴風の中やら、大変な自転車帰りの日々を送っていた。

それに、あまりにも治安の悪い街なので、病院の駐車場で両方のタイヤが誰かにパンクされたことがあって、自転車を家まで引きずるのに40分ぐらいかかった。「本当に最悪だな、やはり免許を取らなきゃ」と、強い決意で運転レッスンを受け始め、実技試験を3回目でようやく合格できた!

運転免許を取れただけでそんなに喜ぶものなのか?と思っているのでしょうか?

でも、実はイギリスの運転免許を取得するのが中々難しい。なぜかというと、ほぼパーフェクトではないとダメなぐらい、実技試験は相当難易度が高いから。合格率は街によるけど、ロンドンのような路線が複雑で交通渋滞の多いところの合格率は4〜5割ぐらいだけ。私が受けたブラックプールは46%らしい。大半の方が落ちるってことだね。田舎の割合を見ると6〜7割のところがあって、場所が違うだけでそんなに差があるんだと不思議に思った。

そのため、わざと簡単そうな外部や小さいな町まで足を運ぶ人がいると聞いたけど、自分の街で運転するつもりなら別のところで練習しても意味がないのでは。

私は合格するために、5ヶ月間インストラクターと一緒に週に4時間ぐらい練習したり運転免許の教科書を読んだりしていた。親と一緒に練習する人が多いけど、私の親は別の国に住んでいるので、先生と一緒にバリバリと練習しまくっていた。1回目で合格した人は一人しか知らないので、しっかりと準備する必要があると思う。

家探し

大学生の時は最初に寮に住んでいたけど、酔っ払っているパーティ好きさんばかりだったので、2年目から友達と一緒に住んでいた。一人暮らしや弟と住む時期もあったけど、私を含めて人数が最も二人だけだった。

イギリスに来たばかりの時に財布の状態が厳しかったので、とりあえずシェアハウスに住んでみようと思っていたけど、騒がしくてゴミや掃除もみんなに放置され、結局合わなかった。東京や大阪でシェアハウスに何度も住んで楽しい経験ばかりだったので、ちょっとがっかりしていたかも。

日本では、家事の分担はもちろん、一緒に祭りやご飯へ出かけたり、料理したりして幸せな思い出ばかりだった。そして、シェアハウスで出会った友達と今でもメッセージのやり取りしているし、日本へ行く度に遊びに行くので、日本のシェアハウスが私にとっては本当に貴重な体験だった。

シェアハウスってやはり運次第だろうか。選ぶ時にしっかりと住人について大家さんにでも聞いてみるか、知り合いや同僚と一緒に家を借りた方がきっと安心するんじゃないかな。

給料は安定したところ、アパートを借りてようやく一人暮らしができた。でも現在、アパートを見つけるのが非常に難しいと聞いている。マンチェスターへ引っ越してきた時、見つかるまでなんと二ヶ月間ぐらいかかった!

不動産が賃貸サイトにアパートを載せると5分以内に誰かに取られてしまうことが多いので、見に行かないで賃貸する人が増えてきたかもしれない。動画だけで決める人も少なくはないと聞いている。

Right Move、Zooplaや Open Rentというサイトがメインなんだけど、シェアハウスを探しているなら、Spare Roomがよく使われている。他には住んでいる街や職場のFacebookのグループでも賃貸アパートを見つけらる。私は主に一番人気のRight Moveを使っていたけど、根気が必須。

友達作り

元々内向的で自分から会話を切り出したりするタイプではないので、友達を作るのに苦労していた覚えがある。それに、大学に比べて社会人として新しい友達を作るのって中々大変なんじゃないかな。同僚との仲は良かったけど、同じ大学や地元の人達が多かったので、人見知りの部外者として入り込むのにちょっと気が引けた。

そして、病院特有かどうかは分からないけど、NHSでは暗黙な階級制度がある。同じ階級の医師と友達になれるけど、医長さんとかは無理っぽい。それに、医師と看護師の間にちょっとした摩擦があったりするので、友達になりにくいというか、気楽に接する雰囲気ではないと感じていた。特に女医は看護師に嫌われやすいと聞いたこともある。。。イケメン男性の外科医に比べたらね。

私は整形外科でローテーションした時、イケメン医師が二人いたんだけど、回診の時に看護師たちから殺意満々の視線を何度も感じたような気がする。気のせいだろうと思っていたけど、医長さんに相談してみたら「女医って看護師さんにとっては恋の敵なんだから仕方ない」だと言われた。まさかと思っていたけど、本当にそうなのかな。同僚の女医たちにも聞いてみたら、そうみたいだね。残念ながら、私は独身のまだだけどね(笑)。

気が合った人たちを考えてみると、アニメやゲーム好きな人達が多いような気がする。初めての友達が職場の同僚だったけど、遊戯王とかドラゴンボールなどが好きで、そのレアな共通点で友人になったわけ。

金銭管理とイギリスの

実は医師になるまで、ちゃんとした仕事をやった事がなかった。医学部の勉強に集中させるために親からお小遣いを貰っていたので、洋服とかお出かけなのにお金を適当に使っていた。家計簿や予算もなく、金銭感覚がおかしかったと言ったら過言ではない。そういうわけで、新しい国だけではなく違う通貨にも慣れるのが想像以上に大変だった。

所得税や年金から請求書まで色々な事に圧倒されていたけど、YouTubeやポッドキャストのおかげで最低限のことを把握できたし、節約方法についてもネットで色々調べていた。外食はイギリスを含めて欧米ではめっちゃ高いので、自炊するだけでお金をかなり節約できる。金銭や経済の知識はまだ浅いが、お金を乱暴に使っていた学生時代に比べたら結構マシになったと思う。

一番参考になったのがMoney Supermarketというイギリス特有のサイト。
英語だけなんだけど、イギリスのクレジットカードやローン比較、おすすめのネット、電気やスマホプランなど、情報豊富ですごく便利。そして、近藤真里の書籍のおかげで不要なものをあまり買わないようにしているけど、ミニマリストの弟に比べてたら物が全然多い。


新しい環境に置かれると誰でも多少苦労するだろうけど、周りに頼ったりネットで調べたりすることで、よりスムーズに生活ができるはず。

何より、一時的な滞在だけでもきっと新たな発見のある経験になると思うので、もしイギリスに興味があればぜひ旅行だけでもいらしてください!

留学や就活も大歓迎!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!



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