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映画感想『ザ・ウォッチャーズ』#ネタバレ

 早速、「ザ・ウォッチャーズ」を見てきました。とても良い作品でしたので気になっている方は、鑑賞後に読んでいただけたら幸いです。

※ここよりネタバレを含みます。

 最初に言いたいのは、これはホラー作品なのですが、その枠に収まらず有意義な映画体験をできる作品だという事です。つねに緊迫したホラー映画というわけではないのですが、物語のテンポがいいのか飽きずに最後までもっていってくれます。映像に関しても、森に迷い込む怖さを表現しながらも登場人物たちを大げさに疲弊させない。目を背けたくなるシーンは少なく、そのおかげで「この場所はなんだろう」と考えながら見る余裕が生まれていたのが、わたしには合っていました。
 ここからは、少し映画の流れにそっていきます。
 主人公はどこか孤独を感じる女性。かつらやメイクで普段の自分ではない誰かになりきってBARに行く、そんな少し変わった人物です。彼女は後ろめたい過去があり、それを解消するように他人になりすまし自分を誤魔化しながら生活しています。ある日、知人からの頼まれごとの途中で「森」に迷い込んでしまいます。
 このあたりで既に、ホラー的なアプローチと主人公の過去からくる心情、2つの視点が気になる物語になっており入り込みやすかったです。映像も落ち着いた雰囲気があり好印象です。いかにもパニックホラーといったチープさが無く、このへんで尻の位置を直し、少し前のめりに座りなおしました。
 そして、まずは「森」を脱出できないというホラー部分が展開されます。それから、次第に明かされていくウォッチャーズの正体と、この森からどうやって抜け出そうかという部分へと移り、しっかりと相手は何なのか、どういった目的なのかが明かされます。
 最後に「森」を出たあと、もうひと盛り上がりあるのがホラー部分の締めくくりとなっていて、その後エピローグとして、主人公が自分に向き合い物語が終わっていきます。

 個人的に面白いと感じたのは、「見る」ということを多角的に扱っているように感じた点です。はじめ主人公は鏡の前で偽りの自分を作ることで、自分のストレスから解放されようとしています。それから、鏡に写った自分の姿から自分の内面を見ています。また、「森」の怪物たちは閉じ込めた人間を観察して何かを得ようとします。ほかにも、主人公は双子の姉と対峙することで現実を見つめる。さらには、わたしたち観客はその瓜二つの2人(同じ役者さんが二役してるので当たり前なのですが)を見て姉妹の気持ちを想像していることでしょう。そして、そんな2人の所に駆け寄ってくる姉の息子は、主人公にクレヨンで描いた似顔絵をプレゼントします。その子供が楽しく描いた似顔絵は、それもまた「見る」ことで生み出されたものです。そんな多種多様な「見る」を表現していることが、ルッキズムなどと言われる現代において監督が何か投げかけようとしている気がして、面白いです。
 SNSの利用でバランスを見失う人も多い昨今です。しかもそれは世界中の意見のように受け取れますが、本当はそのアプリ利用者の、それもそのうちの一部の意見でしかないことに気が付かない。一方で、その意見を受け取る側が“世界中の意見”と感じるのも、嘘ではなく事実だということが人間世界の面白いところです。わたしだって子供の頃は“学校”や“地域”というのが、この世界の全てだと疑わずに生きてきました。時が過ぎれば、そうではないことに気が付く。寧ろ、その世界とは遠いところにいます。人によっては望んでその世界に行く人も、運悪く迷い込む人もいます。それがこの映画の「森」に込められている、そんな気持ちでエンドロールの余韻に浸っていました。

 映画を楽しむポイントは人それぞれ、そのときの気分なんかも関係してくるかと思いますが、個人的にわたしが「いい映画だった」と言いたくなるポイントがあります。それは、作り手の意思や仕掛けを感じることです。わたしにとってはストーリーどうこうよりも、「何かしら仕掛けてきているな」というのを感じとって、勝手にそれらのポイントをつなげ合わせる。それでエンドロールがゆっくり流れる中で、その自分勝手な考察のようなものをなんとか言葉にしようと考えることが、一番映画を楽しめた状態といえるでしょう。この映画は、その体験まで持っていってくれる希少な作品でした。
 ホラー映画自体があまり得意ではないので、そういった意味でもマイルドなホラー要素が丁度良かったのかもしれませんね。涼しくなるようなものではなかったですが、大満足でした。
 どうしても映画館でという作品でもないような気はしますが、物語の大きな要素の「森」というものの巨大さを感じるには、やはり映画館のスクリーンのほうがいいような気はします。
 気になっている方は是非。わたしはオススメできる映画です。

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