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2024年5月の記事一覧
〔ショートショート〕長袖で会う日の話 1
子供の頃、祖母の家に行くのが楽しみで仕方がなかった。それは小学生時代の夏休みの恒例だった。自宅から二時間半くらいの田舎町。車から見えるのは、退屈な田園風景ばかりが続く道のりだった。「もうすぐ着くぞ」と、眠ってしまった私を起こす父の声が車の運転席から聞こえる。寝ぼけ眼で見えるのは、いつも決まって同じ場所だった。道が大きく曲がる。そのカーブの先には大きな橋が架かっていた。
「十円橋」。父は、橋の名
〔ショートショート〕海が太陽を吸った日の色のような
誰しも、ターコイズ色の靴を履くべき日がある。それはブルーでもグリーンでも構わない。だけど、来たるべきその日の為に準備しておくに越したことはない。そして、それは突発的かつ直感的にやってくる。いわば天気雨のように。したがって、それを晴天の空の下でただじっと待っているだけのような非効率的なことは馬鹿げているから、そんなに神経質になる必要はない。直前になれば自ずと分かるから。それが、彼にとっては今日だっ
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