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「父親がどういうものか知らないんだ」ある英語講師の家族観

6歳で父親を亡くした、私の英語講師の物語。私は毎朝セブ島にあるオンライン英会話学校の先生から英語のレッスンを受けています。兄弟のかわりに父親代わりとしてふるまっていた彼が、どんなふうに生活していたのかを話してくれました。

長男であり、きょうだいだちの父親として生きてきた

彼は、現在6人兄弟です。彼の妹2人は父親が同じ。妹たちのあとに生まれた弟と妹2人は異父きょうだいになります。彼の母親は、彼の父親が亡くなった1年半後に再婚し、彼には義父ができました。

「僕はきょうだいたちに、ミルクを飲ませたり、遊んであげたり、勉強を教えたりしてたよ。ママは家のこともしなければいけないし、マッサージやネイリストとして仕事もしていたから、とても忙しかったんだ。

僕は、きょうだいにテレビばかり見てたらダメだよ。勉強するよといって教えていたから、そういうときは‟お兄ちゃん、厳しいからイヤ”と妹たちにいわれていた。でも、彼女たちが成長して学校でいい成績が取れるようになった今は、感謝されているけどね。

彼は人一倍学習に対して熱心で、まるで教育パパのよう。

「ママは忙しいから、僕の世話はあまりしてくれなかった。だから、全部自分でやったんだ。うちは貧しかったから、勉強していい大学を出て、いい就職先を見つけて、そしてたくさんお金をかせがなければいけない。もし、それができたら、家族は貧乏な生活から脱出できてみんな幸せに暮らせる。だから勉強することは大事なんだよ。

うちは父親が早くに亡くなったから、僕は父親がどんなふうにふるまうのかをしらない。だから友達に聞いたり、レストランに行ってほかの家族の父親がどんなふうに家族に接しているのかを見て、たぶん父親だったらこんなふうにふるまうだろうということを想像してる」

もしも、父親が生きていたら父親にいろんなことをしてあげたかった

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彼は長男でありながら、自然と父親としての役割も背負って生きてきたのだと思う。

「今、自分で仕事をしてお金を稼げるようになったけど、僕は、父親がいないから彼に何もしてあげられない。父親と一緒にレストランに行って食事をしたり、プレゼントを買ってあげたり、歌を一緒に歌ったりできない……。父親との記憶はほとんどないし、父親がどういうものかわからない。

でも、もし僕が結婚して子どもがいたら、きっと今と同じように子どもには勉強をさせるよ。テレビやゲームの時間を制限して、勉強を教える。

でも、僕は女性と結婚するか男性と結婚するかわからない。知っていると思うけど、フィリピンでもタイでも同性婚は難しいからね」

結婚するなら男性、女性、どっち?パンセクシャルな彼の回答は?

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彼は、パンセクシャル(両性愛者)なので、男女どちらも愛せる。私が見ている限りでは、彼はどちらかというと男性のことを好きになるほうが多いんじゃないかと思うけど、まだ彼は若いから、男性女性、どちらをパートナーに選ぶかはわかりません。

「僕はまだ21歳だから、結婚を考える年じゃない。今は自分の仕事を最優先して考えているよ。25歳くらいになったら結婚について考え始め、30歳くらいでできたらいいなと思う。自分自身の家族がほしいから、結婚はしたいんだ」

家族愛の強いフィリピン人の中でも、彼は人一倍家族への愛情が深い

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フィリピンの人は、家族愛がとても強いと思います。それはこれまでに聞いてきたほかの英語講師たちの話から聞いていても思うし、これまでの生い立ちを聞いていても、家族愛が強くなるのは当然だと思います。

そんな家族愛が強い中でも、彼の家族への愛情は人一倍強いようです。それは彼がお父さんを亡くしているからというのもあるし、ステップファミリーで大変な思いをしてきたからというのもあります。また、彼自身の性格も、人への愛情が深いのだと思います。

今は、セブ島でもロックダウンされて、先生たちは海辺の学校から1歩も外に出ることなく過ごしています。また、離れた島に住む彼の家族も、買い物に行くときにしか外出できていないようです。そのため、多くの先生たちがナーバスになっています。

彼は「ここでの生活は楽しいよ。食事も無償提供してもらえるし、友達もいる。プールもジムもあって、仕事も続けられる。CEOにとても感謝している」とよく話しています。そうはいいつつも、やっぱり離れて暮らす家族のことが心配なようで、先週、今週と家族の話が多くなっています。

コロナが蔓延していて、ニュースでたくさんの人が亡くなったり、家族と離れ離れになったという話を聞き、彼はいつも以上に家族のことが気がかりなのでしょう。でも、亡くなったお父さんからしたら、彼が父親のことを思いだしてくれたことはよかったのかもしれません。

長男であり、父親であり、そして英語の先生でもある

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「今週はいろいろ話したね。来週は文法のレッスンをしよう。あなたにとってもう文法は難しくないでしょ? 1年間ずっとやってきて、たくさん学んだよね。それに会話にも応用できるようになってきた。文法は習ったらすぐに会話で使ってみるのが上達するコツだよ。カランのレッスンもがんばって。文法とカランメソッドの授業を続けたら、もっと話すのがうまくなるから。がんばろうね」

時々笑顔になりつつも、ずっとシリアスな表情をして話していた彼が一変。気分を変えて翌週に向けての学習アドバイスをくれました。今週は、朝と夜の2回レッスンを受けているので、がんばって練習します!

今は日本もフィリピンも本当に大変な時で、だからこそ家族について、自分の生き方について、考える時間が必要なのだと思います。






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