新人Ｔの献身

入社してきた新人Ｔは
とてもチャラい男だった。

仕事の質問をしたかと思えば

『どうすれば楽できるか』
『サボれるか』
『ズルできるか』
『異性との出会いは多いか』等

到底やる気があるとは思えない
職場での評価は最悪の新人だった。

そんなある日、Ｔと外回りをしていると

「うぁっ！うぁ〜っ！」

と、Ｔが突然叫び、走り出した。

「どうした？！Ｔ！」
と声をかけたがＴは振り返りもせず

車がビュンビュン行き交う
５差路の交差点の中へ入っていった。

「自殺？！」
「なんで？！」
「急に？！」

呆気に取られていると
Ｔは行き交う車を大きなアクションで制止し
交差点の真ん中で何かを持ち上げた。

えっ？！猫？

Ｔは子猫を抱きかかえていた。

交差点の真ん中で
身動きが取れなくなっていた子猫を
Ｔは見つけ、助けに飛び込んだのだった。

少し遅れて男性がもう一人来たが
子猫を抱き上げたＴを見て
〝お任せします〟というようなジェスチャーを見せ、戻っていった。

Ｔは素早く向こう側の歩道へ移動すると
子猫を放し、事なきを得た。

戻ってきたＴに
「やるじゃん」というと
「だって可哀想じゃないですか」とＴ。

職場にこの話を持ち帰ると
Ｔのイメージは一変した。

あのチャラさはチャラさで愛嬌があるねと
暖かい目で見られるようになった。

ズルいぞＴ。

たった１つの出来事で
自分を何一つ変えることなく
周りの印象を変えてしまうなんて…

あの時、交差点に猫がいると教えてくれれば

らぎらぎが走って
らぎらぎが助けて
らぎらぎが英雄になっ…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…

まっ、いっか。