スラヴ諸語について①

こんにちは。キョンです。この記事では、おそらく日本であまり知られていない「スラヴ諸語」について解説して行きたいと思います。

「スラヴ諸語について①」という記事では、現代のスラヴ諸語の現状についてお伝えし、②の記事で、スラヴ諸語に通底する文法の特徴についてお伝えしようと思います。


スラヴ諸語とは

スラヴ諸語(スラヴ系言語)とは、スラヴ人によって話されている(使われている)言語の総称です。スラヴ諸語は、次の3つに下位区分ができます。

① 東スラヴ語群(ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語など)
② 西スラヴ語群(ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、ソルブ語など)
③ 南スラヴ語群(スロヴェニア語、クロアチア語、セルビア語、マケドニア語、ブルガリア語など)

以上の各語群は、スラヴ祖語という大元から分岐してできた言語であります。スラヴ祖語とは、スラヴ民族が東・西・南に分化する以前にスラヴ人によって話されていたとされる言語です。

スラヴ諸語は主に二つの文字を使って表記しています。それはキリル文字とラテン文字です。キリル文字は東方正教会を信仰している国家で使用されており、ラテン文字はカトリックやプロテスタントが多数派を占める国家で使用されています。


東スラヴ諸語

東スラヴ諸群に含まれているのは、ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語、さらにはルシン(ルテニア)語です。これらの言語は、現在キリル文字を用いて表記されています。

ロシア語はロシア連邦や中央アジア諸地域で約2億人に使用されています。また、ロシア語はロシア連邦のみならず、カザフスタンやウズベキスタンといった中央アジアの国々においても、共通語として使用されていますね。

ウクライナ語はウクライナで5000万人に用いられています。ただ、ウクライナ語はウクライナの全土で満遍なく使用されているかといえば、そうではありません。東部ウクライナではウクライナ語の他にロシア語が重要な言語となってきます。比較的ウクライナ語の使用が高いのは、西部ウクライナ(リヴィウやウジホロドなど)なのです。

ベラルーシ語はベラルーシや近隣のポーランドやリトアニアで使用されており、推定900万人に話されています。現在、ベラルーシ語はキリル文字で表記されていますが、かつてはラテン文字によっても表記されていたのです。
ベラルーシ語は消滅の危機に晒されている言語なのです。一国家語がなぜ消滅の危機に瀕しているのかというと、ベラルーシ政府が、ベラルーシ語を重視せずに、ロシア語を重視しているからです。

ルシン語は、カルパチア山脈に住むルシン人によって使用されている言語です。ルシン語には標準語が存在せず、カルパチア・ルシン語とヴォイヴォディナ・ルシン語の2つに分けることができます。前者はカルパチア山脈に住むルシン人によって使用され、後者はヴォイヴォディナ(セルビア)に移住してきたルシン人によって使用されています。

西スラヴ諸語

西スラヴ諸語に含まれているのは、ポーランド語、カシューブ語、チェコ語、スロヴァキア語、ソルブ語です。西スラヴ語群に属している言語は、全てラテン文字で表記されています。これらの言語が話されている地域がカトリックないしプロテスタントを信仰しているからなのです。

ポーランド語はポーランドを中心に約3800万人によって使用されている言語です。ポーランド語は、スラヴ諸語の中で唯一鼻母音を残している言語です。
ポーランド語は、西スラヴ語群の中ではロシア語に最も近いとされています。これは、長きにわたりポーランド語とロシア語(を含む東スラヴ語群の言語)との言語接触の影響であると言われています。

カシューブ語は、ポーランドのバルト海沿岸地域で話されているスラヴ語です。この言語はかつてポーランド語の一方言とされていましたが、現在ではポーランドとは別言語でると多くのスラヴ語学者が認めているところです。これは、かつてバルト海沿岸地域で話されていたスラヴ語の末裔の言語であります。

チェコ語は、チェコ共和国を中心に約1000万人によって使用されています。チェコの領域は、長らくオーストリアの領域に属していたため、チェコ語にはドイツ語からの借用語や、ドイツ語の文法から影響が見られます。

スロヴァキア語はスロヴァキアを中心に500万人によって使用されています。長らくスロヴァキア語は独立した公用語とはみなされていなかったが、1993年のビロード離婚により、晴れてスロヴァキア語は歴史上初めて主権国家の公用語となったのです。

南スラヴ諸語

南スラヴ諸語に含まれているのは、スロヴェニア語、クロアチア語、セルビア語、ボスニア語、モンテネグロ語、マケドニア語とブルガリア語です。
このうちのクロアチア語、セルビア語、ボスニア語、モンテネグロ語に関しては、ユーゴスラヴィア時代に「セルビア・クロアチア語」と呼ばれていたのです。

スロヴェニア語は、スロヴェニアを中心に約240万人によって使用されている。スロヴェニア語は、方言のヴァリエーションが多様なことで知られており、7つの方言があります。また、イタリア北東部やハンガリーの一部でも使用されています。

クロアチア語・セルビア語・ボスニア語・モンテネグロ語は、先述の通り、以前は「セルビア・クロアチア語」と呼ばれていました。このように言語が「増えた」背景には、ユーゴスラヴィアが解体し、構成国が次々に独立していったことがあります。各々の言語は、通翻訳を入れることなく、お互いに意思疎通ができるレベルの言語差異です。クロアチア語とボスニア語はラテン文字によって表記され、セルビア語とモンテネグロ語はキリル文字によって表記されるのが一般的です(ただし、これらの地域でもラテン文字がよく使われています)。

マケドニア語は、スラヴ語の中では比較的最近(1945年)、正書法が整備された言語です。マケドニア語は北マケドニアで使用されており、他のスラヴ語の異なり、格変化の消失や、過去時制が他のスラヴ語と比較して複雑なことが挙げられます。なお、マケドニア語にはトルコ語からの借用語が多く見られます。

ブルガリア語は、ブルガリアで使用されている言語です。話者人口は1000万人程度です。ブルガリア語はマケドニア語と同じ特徴を有しています。格変化の消失や、過去時制の複雑さが一例です。マケドニア語やブルガリア語は、近隣の諸言語(ギリシャ語やルーマニア語)とともに言語連合を組んでいるとされています。

まとめ

以上、スラヴ系言語について簡単に解説してみました。個別言語についてより詳しい情報を得たい方は、どうぞ言語学大辞典や、三谷惠子(2011)『スラヴ語入門』(三省堂)などをご活用ください。



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