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パッタイと裸で踊る女【紀行編Vol.1】

プラトニック紀行文。

「自分探しの旅」という言葉を嘲笑してたぼくが、ネオンが光るタイの歌舞伎町で「自分を少しみつけた話」

・・

目の前で、裸の女性が30人くらいで踊っている。

え?え?え?
昨日、調布の吉野家で、地球の歩き方【タイ編】を読み込んでいた僕は脳みそが混乱した。ここはバンコクの歓楽街。日本で言うところの歌舞伎町といったところだろうか。

自分で、航空券を買って
自分の足でここに来ておきながら
「なんで、俺ここにいるの?」
と1人で笑ってしまってる。

‥‥僕は部活をしていた頃から、女性の前で上着を着替えるのがとても恥ずかしい。例えば部室がもうパンパンで入れずにグラウンドの隅でユニフォームから制服に着替えたりする時だ。その時に女子生徒が50Mくらい先にいたとして
「セクハラかも」
「アピールしてきてると思われるかも」「後でキモいって陰口言われるかも」

って思う。なので、素早く着替える。

しまいには乳首を見られなかったらセーフという謎価値観があり、乳首を見られずに着替える方法などを編み出していた。

女性が男性に対して思うのは当然のことだか、この逆現象は我ながら少し恥ずかしかった。

なので今この目の前で裸で踊る女性を見て「エロいな」という気持ちと共に「メンタル強えな」という気持ちもあった。そして、あまりにも普段の生活とかけ離れた光景に、世界は広いなーとめちゃくちゃ気分が高揚していた。

‥遡ること、3週間前。

「せんちゃん、タイは飯は美味いし、みんな親切だし、繁華街では裸で踊る女の子で溢れている!」

明大前の餃子屋で僕の親友は熱弁してくる。

(‥‥うーん、オレ英語話せないし、日本から出た事ないしなぁ。)

「しかも物価が安い!5万あれば行ける!まじで楽しいから!オレはどうしてもせんちゃんに、タイに行ってほしい!」

せんちゃん。
僕のアダ名。

「センスのいい男」という理由で、彼に名付けられた。

彼以外に僕をせんちゃんと呼ぶものはいない。

僕は高校卒業後に福岡から遥々上京してきた。昔から大好きだった、テレビ、ラジオに関わる仕事がしたいという思いで、メディア系の専門学校に入学した。深夜ラジオや、ほとんど誰も見てないコアなお笑い番組などが好きな連中が一定数いて、そういう子たちと自然の仲良くなっていた。

その中でも、夏になると甚兵衛と、下駄を履いてくるという間違ったトガリ方をしてる面白い男がいた。

それが今目の前で、タイの素晴らしさを演説してる男だ。
ちなみに後々、甚兵衛と下駄を履いて登校してた理由を聞いたら
恥ずかしそうに
「周りとは一味違う男というブランディングをしたかった。」
と言っていた。

彼は僕と違って、ひょうきんで周りを巻き込む能力がある。
映像制作ゼミで、僕の発表の番が回ってきた時、彼は持ち前の人当たりのよさと社交性で、「せんちゃんはマジでセンスがあるから乞うご期待です。まじで。」とガチトーンで他のゼミ生を巻き込んで紹介し始めた時は、心臓が締め付けられ緊張で目の前が灰色になった。

「それじゃあ、発表をどうぞ!」
(‥殺そう)

僕は彼の人間性が羨ましいなぁ、と思ってた。1人でフラッと海外旅行に行って友達を作るような男だ。
(これくらい人とラフにコミュニケーションとれるようになりたいな)

まぁ、そいつが僕にこう言うわけです。

“せんちゃん、タイに1人旅に行け"

僕にとっては疑問だった。まず1人旅って楽しいかな。。
5日フルでバイトしたら得れるお金で海外旅行なんてできるのか。あと僕は日本から出たことがない。英語も話せない。いや英語じゃないか。タイってタイ語?
いや、英語でもいけるのか?

そんなレベルだ。

ただ興味はあった。
彼のプレゼンに惹かれていた事もあるのだが、その時ちょうど僕が大好きなオードリーの若林さんがラジオで、キューバへ1人旅をした話をしていた。
若林さんというと、「人見知り芸人」「女の子苦手芸人」などでアメトークに出演していた。レギュラーのラジオ番組「オールナイトニッポン」を僕は毎週聴いていたので、とても勝手に若林さんに対してシンパシーを感じていた。

なので、その話を聞いた時めちゃくちゃ意外だった。

若林さんが1人旅‥?
海外1人旅は「自分探しの旅」とか言ってカッコつけてるやつの自慢だろ、と思っていたのだが、とても興味が湧いてしまった。

結論から言うと冒頭に裸の女性の前にいたわけですから、タイに1人で行ったわけです。

ピザ屋のデリバリーで稼いだ3万5千円で航空券を買い、右手に地球の歩き方を携えてタイ行ったのだ。LCCという格安航空を使えばこのくらいの値段で行けてしまう。すごい世界だ。

餃子屋の熱弁から、この間はおよそ3週間。パスポート取得も含めてたら、最短くらいだと思う。
この時、自分を変えたい!などとは思っていなかった。ただの好奇心。

前日、家の近くの吉野家で牛丼を食べながら、ずーーーっと地球の歩き方を見ていた。
帰り道も、お風呂入ってる時も、歯磨きしてる時も。

(明日の今頃はタイにいるのか‥‥)

あまり、実感がないまま僕は眠りについた‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

朝起きると、目覚ましをかけ忘れていた事実に気付くのに、かなりの時間を要した。時が止まったようだった。

‥‥‥‥‥(フライト時間すぎてるなぁ)

ー 続く ー  

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