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車イスのパリ日記

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脚が不自由なデザイナーがパリで暮らすようになったいきさつと日々について書いています。
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車イスで海外移住した理由 1

車イスで海外移住した理由 1

「ウサいるの!? Où ça (ウサ)? (どこに?)」

離陸に向けて滑走路をゆっくりと移動する機内で、さっきからずっとこちらに背を向けたまま窓の外に眼を凝らしている彼女。
シャルル・ド・ゴール空港にウサギが居るという映画の話を思い出して、うしろ頭に声をかけると、振り向いた彼女は泣いていた。

脳天気なことを言ってしまったぼくはビックリして、
「どうしたの!?」
と尋ねると、

「帰りたくないな

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車イスで海外移住した理由 2

車イスで海外移住した理由 2

東京に戻ると、フランス出張の思い出を反芻する暇もなく元の仕事漬け生活が待っていた。
その後もフランスとは何かと縁はあったものの、日々の生活に追われてパリに行く話もそれっきり出ないまま、慌ただしく3年が過ぎた。

それは忘れもしない、2001年1月3日のことだ。
その日、部屋に入って来るなり彼女は、思い詰めた表情でそれまで胸の内に秘めていた決意を、初めてぼくに宣言した。

「わたしはあなたとパリに住

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趣味と就職

趣味と就職

妻の三年越しの念願を叶えるべくフランス移住を決めるも諸々手続きに半年かかり、実際に引っ越す頃には2001年の秋になろうとしていた。

シャルル・ド・ゴール空港に着いてとりあえず新しい勤め先に電話すると、社長のヤンが迎えに向かってくれているとのこと。空港ロビーで待っていると、程なくフランス人としては大柄なヤンが満面の笑顔で現れた。

ぼくたちをフランスに呼んでくれたヤンと知り合ったのはパリ留学時代に

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フランスの会社でカルチャーショック

フランスの会社でカルチャーショック

こうしてパリでの仕事生活がスタートした。
会社へはアパートから彼女に車イスを押してもらって徒歩12〜15分くらい。

911の直後だったため、オフィスビルへの出入りは警戒厳重で、屈強そうな警備員が睨みを効かせていた。
なぜなら、もしもニューヨークと同様のテロでパリが狙われるとしたらターゲットはここだよねと誰もが思う、モンパルナスタワーと繋がったオフィスビルだったからで、建築規制の厳しいパリ市内で数

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