FINLANDSが言葉にする「愛」という感情
「FINLANDS」の曲は、凍てつく寒さの中でも、透き通るような冬の夜でも、静寂の中を切り裂いて耳に届いてくる。そんな力が宿っている気がする。
「FINLANDS」とは、Gt.Voの塩入冬湖さんが作詞作曲を務める、日本のロックバンド。
ライブの際は季節を問わず、コートを着用しながら演奏する姿が印象的で、暑さをものともせず飄々と歌い上げる姿は、見ている者に強烈なインパクトを残す。
そして何と言っても「FINLANDS」を「FINLANDS」たらしめているのは、Vo.塩入冬湖さんの鋭い切先のように耳を突き抜ける歌声に他ならない。
コケティッシュな響きを残しつつ、ひび割れた氷柱のように繊細なその声から放たられる唄は、一度聴いたら決して忘れられない魅力を秘めている。
そんな「FINLANDS」のVo.塩入冬湖さんが紡ぐ歌詞が好きだと感じたのは、彼女が作詞作曲を手がけた「adieu」というバンドの「よるのあと」という曲の歌詞を聴いた時だった。
このフレーズにおいて「呪い」ではなく、あえて「呪い」という言葉を使うことで、曲の雰囲気はがらりと変化している。
言葉の選び方ひとつで曲の印象は変わると自分は思っているけれど、このフレーズはまさにそれを体現していて、その言葉をあえて選ぶ感性に自分は惹かれたのだ。
今回は、そんな塩入さんが綴る歌詞について
様々な楽曲とともに紹介したいと思う。
歌詞の中を飛び交う言葉が深く脳裏に刻まれる
塩入さんが綴る歌詞は
心の奥深くまで穿った跡を残す。
そう思ってしまうほど、彼女の曲には特徴的な言葉の組み合わせが散りばめられていて、頭のとっかかりに引っかかっては、印象深く頭の中に刻み込まれていく。
それぞれの言葉は普遍でありふれているのに、塩入さんが歌詞につなぎ合わせて、あやふやにも見えるストーリーに閉じ込めると、途端に亀裂が入ったかのように、言葉が特段、尖ったものに生まれ変わっていく。
ストーリーに沿った言葉ではないのに、彼女に手にかかれば、そのどれもが「FINLANDS」の色を帯びていくのだ。
ちなみに、この「恋の前」という楽曲は、結婚詐欺をテーマにしたものだと、自身のnoteで語っていた。
それを頭に入れて、もう一度歌詞を聴いてみると、どの言葉も不穏な雰囲気が漂ってくるから不思議だ。
「現実」と「幻想」を行ったり来たりするストーリー
また、塩入さんが創る楽曲を聴いていると、全く正反対の世界線が入り混じっているかの様に錯覚させられる時がある。
「現実」と「幻想」を行ったり来たりしているかのような、不思議な感覚に陥るこの歌詞は「ウィークエンド」という楽曲のサビ前で歌われている。
振り子の揺めきのように、不安定な感情に振り回されながら進んでいくこの楽曲は、サビに入るとそれまでの鬱々とした感情が爆発したかのように言葉が紡がれる。
認められたい感情が支配する幻想と、認められない感情が溢れる現実が交差することで、奇妙に思えるストーリーに取り憑かれたかのように見入ってしまう。
また、個人的に「メトロ」という楽曲が好きなのだけれど、この曲でも「電車」という言葉をキーワードに幻想と現実を彷徨っている。
幻想的な言葉と現実的な言葉。
遠いところに浮かんでいる言葉と近くに転がっている言葉。
この曲では、その境目が恐ろしいほどに曖昧で、滑らかに歌詞の中で混ざり合っていくことで、身近にあるけど手に届きそうで届かない、そんな浮遊感のあるストーリーに仕上がっているのかもしれない。
「愛」を起因として様々な感情が溢れていく
そして「FINLANDS」の歌詞を見ていると
必ずと言っていいほど目に付く言葉がある。
それが
「愛」という言葉。
「FINLANDS」の楽曲では、様々な角度から、あらゆる側面から、捉えようのない「愛」という存在を描いている。
あなたと同じ体温になりたい。
それが悲しい結末へ向かおうとも、一つの愛の形なのだと。
この「HEAT」という楽曲でも
当然「愛」という言葉が歌詞に含まれている。
描かれているのは
普通の「愛」ではないのかもしれない。
そもそも「愛」に
普通の「愛」などないのかもしれない。
拗れたり、ほつれたり、絡まったり、こんがらがったり、そうやって複雑に入り組んだ「愛」を、誰もがきちんと解して説明をつけようとする。解した「愛」に言葉を足して、ストーリーにする。
でも、塩入さんは頭の中で拗れて、ほつれて、絡まって、こんがらがった「愛」を、決して解さないで言葉にしている様な気がするのだ。
そして、それは自身の中で消化できていない感情を歌にしているという訳ではなくて、複雑に入り組んだ「愛」をそのまま表現できるほどの言葉が、彼女の頭の中には溢れている。
一見、理解が追いつかないものだとしても、その歌詞は彼女のありのままの感情が現れた言葉の羅列であり、歌にのせて歌われる「愛」に付随する様々な感情の置き場となっていると、そう思わせられた。
最後に
「FINLANDS」が放つ音楽は、ドロドロとした「愛」に気づく暇など与えないくらい、鋭くまっすぐ心を射抜いてくる。つまり、最高にかっこいい。
そして、ひたすらその格好良さを堪能した後に
塩入冬湖さんが綴る歌詞をじっくりと聴いて欲しい。
すっかり忘れていた、目を逸らしたかった、言いようのなかった、そんな様々な形をした「愛」が言葉となって、歌詞に落ちているから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?