京都に溢れた祝祭の音楽 ”Homecomings New Neighbors FOUR Won’t You Be My Neighbor? ”Withくるり/ライブレポート
5年ぶりに訪れた京都。
古き良き時代の名残を感じさせる風景は、学生時代に何度となく訪れたときから良い意味で何も変わることなく、鴨川を飛び超えて遠くまで広がっていた。
そんな京都にはるばるやってきたのには理由があって、「Homecomings」が現体制ラストライブとなる2月10日のライブを「くるり」と2マンで行うと発表したからだった。
どちらも京都にルーツを持つバンドであり、それぞれの楽曲に関わることもあった2組が共演するとあっては、その空間に立ち会いたいという思いを抑え切れるはずもなく、気づいたときには遠い東京の地からチケットを購入していた。
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舞台は京都KBSホール。バンドセットの背景は白い幕に覆われたまま、待ちに待ったライブが始まる。
最初に登場したのは、京都立命館大学の音楽サークルで結成され、25年以上も日本の音楽シーンで異彩を放ちながら、それでもなお、新たな音楽を模索しつづけるロックバンド「くるり」。
自身のXで「レア曲や久々の曲をやるかも」と仄めかしていたボーカルの岸田さんがマイクの前に立つと、ストリングスの音ともに聴こえてきたのは、少年に起こった悲劇と、彼を悼む音楽に秘められた未来への希望が高らかに歌われる楽曲『ブレーメン』。
一瞬で、その場の空気を掴んだ音楽は、アウトロに入った途端、スピードを増して、感じいる観客を「くるり」の世界観へと引き込んでいく。
そんな『ブレーメン』に続いて鳴らされたのは、同じくアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』に収録されている『コンチネンタル』。
時に優しく、時に激しく。緩急をつけたドラミングを披露するドラムスのあらきゆうこさんを筆頭に、ロックバンドとしての矜持を示しながらも、どこかゆったりとした雰囲気を醸し出す演奏はくるりにしかできない。
「どーもくるりです」と、岸田さんのあっさりとした自己紹介も束の間、続けて『dancing shoes』、『チアノーゼ』が披露され、先の宣言どおりレア曲が次々と繰りだされていく。
また、合間のMCでは「Homecomingsより平均年齢は3歳くらい上」と冗談を飛ばしつつ「(Homecomingsの演奏は)見てて幸せになる。形容する言葉が見つからないけれど、とにかく紅白に出してあげてください」と、その溺愛っぷりを隠すことなく観客に見せつけていた。
そして「来週からあったかくなるから」という言葉のあとに演奏されたのは、優しく鳴らされたギターの音色が印象的な『春風』。
冒頭に発される想いとは裏腹に、日常の起伏のなかでも、ささいな幸せを抱き寄せようとする歌詞は、岸田さんの移り気な言葉も相まって、春の気配に浮つく今の季節にぴったりの楽曲だった。
ポカポカとした陽気に包まれてもなお、マイペースにHomecomingsメンバーと焼き鳥を食べに行った時のことを話す岸田さん。微笑ましい。
しかし、お次の楽曲ではガラッと雰囲気が変わる。
Homecomingsのボーカル畳野さんをゲストに招き、ディープな夜の世界へと誘うような『琥珀色の街、上海蟹の朝』のイントロを合図に、一夜限りの共演が始まる。
春の陽気に照らされた空間は、岸田さんのラップと畳野さんの透明感のある歌声が入り混じり、いつのまにか夜のネオン街へと変貌していた。
その後は、最新シングルとなる『California coconuts』、『In Your Life』を立て続けに演奏し、今もなお、新たな楽曲を精力的に生み出し続けていることを、その音楽をもって見事に体現。
そして、メンバー紹介を交えながら『everybody feels the same』が始まると、会場のボルテージが一気に跳ね上がるのを肌から実感する。
世界各地の都市が連呼される歌詞のなかで、京都の名前がひときわ強く発されると、観客も一体となってライブを盛りあげていく。
いっそう熱を帯びた会場へ『飴色の部屋』をしっとりと歌い上げると、最後に演奏されたのは、自分も大好きな曲である『Remember me』。
まさに、惜別の歌とも言えるこの曲をラストに持ってきて、慈愛に満ちた歌声で歌い上げた岸田さんの優しさに、ぎゅっと心をわしづかみにされた。
最後はメンバー全員でお辞儀。
音楽のバトンを、同じ京都の地から生まれたバンドに託す。
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「くるり」の後にバトンを手渡されて登場したのは、同じく京都の大学のフォークソング部の先輩後輩で結成された「Homecomings」。
このライブをもってバンドを卒業する、ドラムスの石田さんのラストライブというのもあって、一曲目の選曲に注目が集まるなか、切なさと暖かさをともなう『Songbirds』の繊細なアルペジオが会場にこだました。
淡い初恋を密やかに閉じこめた英詩が、ボーカルの畳野さんの歌声に乗って、聴いた人たちが抱える懐かしい記憶を呼びさます。
その後は、映画「愛がなんだ」の主題歌ともなった『Cakes』、アニメ「放課後インソムニア」のED曲としても起用された『ラプス』が続けて披露される。
畳野さんの歌声は儚いのに、消えてなくならない。
霧散せずに空間を漂っていて、光を当てるとくっきり目の前に現れる。
そんな不思議な歌声に心地よく包まれていると、「Homecomingsです。短い時間ですが、よろしくお願いします」と畳野さんの声が響いた。
初期のEPから『PAINFULL』、浮遊感のある音に埋没する『LIGHTS』が続けて演奏されると、会場はすっかりポップなサウンドで埋め尽くされていく。
その後、MCでギターの福富さんは、地元である京都、何よりもKBS京都ホールで演奏できる喜びを夢見心地のように語っていた。
さらには、小さいとき、音楽を始める前から聞いているアーティストであるくるりと一緒にライブができるワクワクと興奮をこれでもかと打ち明け、こちらまで嬉しくなってしまうくらいに目を輝かせていたのが印象的だった。
ひとしきり「くるり愛」を語りおえた後は、そんな「くるり」の岸田さんがストリングスとピアノのサウンドアレンジで参加した楽曲『光の庭と魚の夢』が演奏される。
性別を誰かに当てはめることなく、パートナーシップを大事にするという自分たちの思いを込めて制作された楽曲は、暖かな光となって会場に降り注ぐ。
「京都の部室で始まったバンドが10年も続くとは思わなかった」と語るように、確かに積み重ねられた日々の分だけ、Homecomingsが思い描いた色に染められた、色とりどりの音楽が鳴らされていく。
離れゆく関係性に一筋の希望の光がさす『euphoria/ユーフォリア』、暗い夜のもと迷いながらも朝の光に手を伸ばす『Here』、見えないけれど確かに隔てられた線を超えて、ともに戦う意思を示す『Shadow Boxer』。
社会にはびこる差別や分断、それに対する不安や苦悩を抱える人々に、隣人として寄り添いつつも、内省した想いを明確なメッセージとして発信する。
簡単にできることでは決してなくて、作詞を手がける福富さんの並々ならぬ覚悟を感じるからこそ、聴き手も一つ一つの言葉を正面から受けとめることができる。
そして、「大好きな曲をやります」という言葉のあとに鳴り響いたのは、なんと「くるり」の名曲『ハローグッバイ』。
愛とリスペクトが存分に込められたカバー曲は、幻想的なコーラスと混ざりあって、遠くどこまでも響いていく。
さらに、新曲がお披露目されたあとは「ペンキをこぼしたような夜」から始まる歌詞が印象的な『Blue Hour』を経て、2023年のHomecomingsを代表する楽曲となった『US/アス』が最後に演奏される。
彼らの新たなアンセムとなった楽曲は、疾走感のあるメロディに乗せて、曲が途切れるその瞬間まで、言葉を辿りながら追いかけたくなる魅力をまとっている。
ラストの曲を終えて舞台を後にするメンバー。
しかし、彼らが去ったあともアンコールは鳴り止まない。
そして、少ししてから帰ってきたメンバーが
最後にアンコールに応える曲として選んだのは『I Want You Back』だった。
爽快にドラムが打ち鳴らされると、バンドセットの背景を覆っていた白い幕が開き、今まで隠されていたステンドグラスが露わになる。
色とりどりの光が煌々と照らし出すステージで、メンバーたちの思いの丈をそのまま言葉にしたかのような歌詞が宙を舞う時間は、いつまでも続いてほしいと思うくらい、かけがえのない瞬間だった。
◇
現体制のラストライブとは思えないくらい、最後までホムカミらしいセットリストだったので、アンコールの『I Want You Back』に込められた想いが、より色濃く写しだされていた気がする。
そして、寂しさを埋め尽くすほど喜びと未来への希望が散りばめられたライブは、またこの地で相思相愛の2組のライブが観たいと思わせるには充分すぎるほど、素晴らしい時間だった。
もちろん、長年続いてきたものが変わってしまうことへの戸惑いに、すぐに慣れることはないのかもしれない。
それでも、この日、KBS京都ホールで鳴らされたのは、寂しさを忘れてしまうほど楽しさに満ち溢れた、紛れもない祝祭の音楽だった。
【くるり セットリスト】
1.ブレーメン
2.コンチネンタル
3.dancing shoes
4.チアノーゼ
5.春風
6.琥珀色の街、上海蟹の朝
7.California coconuts
8.In Your Life
9.everybody feels the same
10.飴色の部屋
11.Remember me
【Homecomings セットリスト】
1.Songbirds
2.Cakes
3.ラプス
4.PAINFULL
5.LIGHTS
6.光の庭と魚の夢
7.euphoria/ユーフォリア
8.Here
9.Shadow Boxer
10.ハローグッバイ
11.Moon Shaped(新曲)
12.Blue Hour
13.US/アス
アンコール
14.I Want You Back
ダブルアンコール
15.HURTS
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