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時が止まればいい~読書note-5(2022年8月)~

いつの間にか、庭で蝉に代わって鈴虫が鳴いている。今年の夏は暑かったなぁ。5月に事故って以来、むち打ち症で身体も言うことを聞かず、夏休みは何処にも出かけなかった。交通事故に遭ったら宝くじを買え、との誰の教えかわからない都市伝説を信じて買いまくったが、全く当たらず。

でも、何年も何十回も申し込んで当たらなかった「山下達郎」のライブチケットが、なんと当たったのだ!! 9/13高崎芸術劇場、とうに夏の終わりは過ぎた頃だが、生で「さよなら夏の日」を聴いて、我が今年の夏は終わる。


1.アンマーとぼくら / 有川 浩(著)

今クールの朝ドラは、脚本の酷さに呆れながらも、沖縄が好きなので見続けている。たまたま見たTVの旅番組で、「果報バンタ」を紹介していて、確かこういった観光地が出てくる小説買ってあったな、と思って積読コーナーから引っ張り出し読む。(「果報(かふう)」は「幸せ」、「バンタ」は「崖」や「岬」という意味。宮城島にある沖縄屈指の絶景スポット。)

有川浩さんは「空飛ぶ広報室」以来のファンだが、自分も好きなかりゆし58の名曲「アンマ―」(沖縄方言でお母さんという意味)に着想を得たとのこと。主人公のリョウが休暇で沖縄に帰ってきて、親孝行のため「おかあさん」と3日間島内を観光する。「おかあさん」は実の母が亡くなった後、父が再婚した相手、育ての母。父も亡くなり、その父と「おかあさん」との三人で過ごした沖縄での日々を、観光地を巡りながら思い出す。

単純に想い出を振り返るだけでなく、いわゆる「タイムスリップもの」的な展開もあり、親子の愛情、葛藤が多元的に綴られている。血縁関係あるなしにかかわらず、親子というものは深い愛情で結ばれているが、なかなか改めて感謝の言葉は言えぬものだと。我がアンマーには、感謝の言葉を一度も伝えることなく、天に旅立たれてしまったし。

息子にとって母親という存在は、言い方悪いが「ウザい」存在である。子どもの頃はいわゆる教育ママだったので、「勉強しろ」とうるさかったり、大学から家を出て一人暮らししてからは「ちゃんと食べてる?」とか頻繁に電話してきたり。地元に帰って来てからは、自分の息子達(孫)の育て方について、ああだこうだ口出してきたりと。だから、母に面と向かって「ありがとう」って一度も言ったことなかったんだよね。

森英恵さんの訃報を聞き、31年前、初任給で「ハナエモリ」のスカーフを買ってプレゼントしたら喜んでくれたのを思い出した。天国で大好きな彼女に会えたかな。


2.タイム・スリップ芥川賞 / 菊池 良(著)

今年上半期の芥川賞・直木賞が発表になった時に、以前こんな本買ってたなぁと思い出し、読んでみる。昔、誰か偉い人の講演で、「毎年の芥川賞・直木賞受賞作だけは、買って読むようにしている。」と聴いて、自分もそうしようと思ったが、全然読んでないなぁ。読んだのは一番新しくて(受賞年順で)、芥川賞が6年前の村田沙耶香さんの「コンビニ人間」、直木賞が5年前の門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」か。

著者は、あの「文豪・カップ焼きそば」の人だ。タイトルを見ればわかるが、文字通り「タイムスリップもの」。1冊も小説を読んだことのない少年が、文学好きな博士と一緒にタイム・マシンに乗って、歴代芥川賞受賞作家に会いに行く話。その芥川賞受賞作品が書かれた時代の空気を知ることができ、審査員の選考コメントも載っていて、なぜその作品が選ばれたかがわかる。小説は時代を映す鏡か。

失礼ながら、第3章で「日本近代文学の完成」とまで謳う、中上健次さんの作品を一つも読んだことなかった。同時代(少しあと?)だと村上龍さんの方に行ってしまったからなぁ。今度読んでみるか、最新の受賞作と併せて。「おいしいごはんが食べられますように」、この前本屋で手に取って見たら面白そうだったもんなぁ。

そう、この本の中の博士の言葉を借りれば、「すべての読書好きは、本を読むことで夜を乗り越えている」のだ。でも、自分が読書好きになったのは社会人になってからなんだよなぁ。タイムマシンで学生時代に戻って当時の自分に会えたら、もっと本読め!って伝えたい。


3.それでも空は青い / 萩原 浩(著)

とにかく事故以来、心が重かった。心が重いと身体も重くなる。何もする気になれず、何も考える気にもなれず。このままじゃいかんと思って、本屋で「読めば心が軽くなる短編集」「元気がもらえる感動作」との帯が目に入り購入。大好きな萩原浩さんなら、その白々しい宣伝文句も間違いないんじゃないかと。

プロ野球選手になった同級生を亡くした野球を諦められない男の話、高校時代のマドンナ目当てで同窓会に参加した冴えない男とそのマドンナの隠された秘密の話、7つ年上でバツイチ子持ちの看護師を好きになってしまったバーテンダーがその壁を乗り越えようとする話、ホラ吹きと揶揄される祖父ちゃんが孫にキャッチボールを通して戦争や人生を語る話、等々7つの短編が収められている。

ちょうど8/15の終戦記念日に読んだからか、最後の「人生はパイナップル」が特にグッと来た。戦前甲子園にも出たのに軍隊で手榴弾を沢山投げさせられ肩を壊した祖父、「人生はパイナップルだ。芯は捨てられ輪の中はからっぽだ。」と友達付き合いが下手で家に閉じこもっている孫にキャッチボールをしながら語る。祖父にとってパイナップルは、あの憎き手榴弾の形に似たものであり、戦時中の台湾のパイナップル畑で助けた女の子との甘く酸っぱい初恋の思い出でもあり。

「全力で走れ」という趣旨を、「機銃に追われているつもりで走れ」という表現をする人物は、今やほとんど残っていないだろう。そして、あと数年でそんな戦争体験を語れる人は完全にいなくなる。少しでも、この祖父ちゃんみたいな話を聞いておきたい。


4.人体模型の夜 / 中島らも(著)

今年の3月、22年前に神奈川の鶴見から足利市に引っ越してきた時に行方不明になっていた蔵書の段ボールが、会社の物置部屋で見つかった。漱石に三島にW村上等々、ラインナップを見ると、もう1箱くらいありそうだ。あの頃好きだった、仏教にのめり込む前の五木寛之の「朱夏の女たち」「雨の日には車をみがいて」「フランチェスカの鐘」等がないので。

1990年代後半の蔵書を日干し

その中にこの本があり、全く読んだ記憶がなく、装丁が素敵だったので、後で読もうと思って取り出しておいた。裏表紙をめくると、前の会社のヨット部の同期の女の子(仮名:Yさん)から95年の誕生日プレゼントにもらったと書いてあった。んーっ、記憶にない。

1995年の誕生日翌日の日付とプレゼントでもらった記述

中島らもさんの本は、一昨年読んだ「今夜、すべてのバーで」以来。全く予備知識なしに読んでみたら、なんとホラー短編集だった。人体の色々な部位を題材にした12個の別々の話。グロい、怖すぎ、シュール、でもちょこっとホッコリ、らもワールド全開の短編の数々。どれもゾッとするのだが、一つだけ「健脚行-43号線の怪」という競輪選手の兄を交通事故で亡くした弟の話だけが、一服の清涼剤という感じで好きだなぁ。

しかし、Yさんは何で誕生日プレゼントにこの本をセレクトしたのだろう。気が合う同期の子だった。ヨットの練習や飲み会の時に俺が本好きだって話もしてたし、好みもセンスも合うなぁと思ってたから、中島らもだったのか。一緒にディンギーに乗った時にほのかに漂う彼女の香水の香りが好きだった。多分、お互い気になる存在だったとは思う。

でも、告る勇気は無かった。相手はフェリス出のお嬢様だし、当時の俺はキャバクラにドハマりだったし、そして何より、いつ潰れてもおかしくないヨット部の主将としては、部の運営(出来るだけ多くの部員を集め、ヨットを楽しんでもらって辞めさせないこと。ヨットは維持費がめちゃくちゃかかるため、活動が疎かになれば、人事部は直ぐ廃部って言い出すので)が最優先だったし。部内恋愛など弱小組織が崩れる一番の要因だし、ましてや主将がなんて… まぁ、その後、今の妻がヨット部に入ってきて、付き合うようになるんだけど⁉

今思うと、ヨットに乗ってた時ってホント楽しかったなぁ。同じ自然相手だけど大学時代の山登りとも一味違って、やっぱ社会人になって日頃仕事で辛い思いをしているから(入社後3年間は関連会社へ出向、本社に戻った4-5年目は「丸の内一の嫌われ者」と言われる上司に仕えて…)、ヨットで風を切って海の上を走っているとそれを全て忘れられるというか。このまま、ずっと葉山の海にいたい、って毎週思ってた。第2の青春だったなぁ。本も歌と同じで、自分の思い出と共に生きているんだね。

前の会社の弱小ヨット部


5.変愛小説集 日本作家編 / 岸本佐知子(編)

上の中島らもさんのホラー短編集を読んだら、このまま普通の本は読みたくないなぁ、などと妙な気分になり、先々月読んだ「変愛小説集」の日本作家編を買ってたことを思い出して読む。前作は翻訳者の岸本佐知子さんが海外の変愛小説を集めて翻訳したアンソロジーだったが、今回は岸本さんが懇意の日本の作家さん達に書き下ろしをお願いした11の変愛物語。

人間を工場で製造するようになったシュールな未来を描く「形見」(川上弘美)、発明王ゼベット爺さんがとんだ仕掛けを組み込んだフランス人形の話で文章のテンポが最高な「逆毛のトメ」(深堀骨)、世界中の電球を交換してきた男と口から風景を吐き出す病気の女による生と死と永遠を考えさせられる物語「梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる」(吉田篤弘)等々、前作の「愛情の強烈さ&異常さ」を描いた作品よりも、「新たな愛の形」が描かれたものが多い。

極めつけは、三人による恋愛がメジャーとなりつつある世界線の「トリプル」(村田沙耶香)。男女二人ではなく三人での恋愛、KISS、SEX… まぁ、今の世でも一夫多妻制の国もあるので、ありえない話でもない。でも、恋愛に付き物の「独占欲」や「嫉妬心」とどう折り合いをつけるのだろう。好きな人を独り占めしたい、好きな人が他の人といちゃいちゃしたら妬いちゃう、そういった感情が愛を深めたり、相手をより愛おしく思うようになるのでは、と思うのは古びた思考か。やっぱ、世の中全体が「草食系」になっていくのかなぁ。

まぁ、自分は青春という「夏」を経験して、妻と出会い、「変愛」ではなく普通に恋愛し、大人になっていった。そして、今や秋風が沁みる独り身… 時は止まらないのだ。いや、まだ精神的にお子ちゃんのままだから、妻に呆れられて見捨てられたのか!? 我が「さよなら夏の日」はいつ?


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