月町さおり
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シリーズ小説です。基本1話完結型。 1話以外は、今のところ以前の小説を書き直したものです。
夫婦の休みが被った日はデートをする日と決めている。 私は接客業施設のスタッフで、かつ人員不足なものだから、土日祝は全く休めない。 私の夫は、結婚する前は平日休みも割と多めの仕事だったのだが、会社の改革だかで土日休みが中心になりつつある。それでも有給や土日の宿直明けは平日も休みになる。 夫は行きたい場所がない。趣味がジョギングと筋トレとゲームいう人。そのため、行き先は私が決めて良いよとなっている。 もちろん、体調が悪いときは家で過ごすこともある。 先週月曜日
真昼間に浜辺を歩いていると、一人の老人が声をかけてきた。 「よそ者か。まだ海を見ていくか?」 「できれば、もう少し」 老人は目を細めた。「海を見るなら、『ピ』に十分気をつけなさい」 「それは何ですか?」 老人は何も言わずに何処かへ行ってしまった。 老人の言った『ピ』とは何だろう。何かの略か? ピラルク、ピラニア……どちらもこんなところにいるはずない。そうなると訛りだろうか。本当は『ひ』か『び』だった名称が次第に変わったか。じゃあもしかして『火』、他には……。 「お
X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 庭で育てているベビーリーフを、今晩サラダにでもしようと思っていたら「よしなさい」と声がした。声の方には能面を被った小人がいた。「半夏雨には毒気が混ざる。七夕まで待ちなさい」そう言って消えた。疲れて幻覚でも見たのだろうか。言う通りにしてみよう。少し分けたら、また来てくれるだろうか。 『収穫時の訪問者』 古い銭湯があった。番台にいた婆さんに「誘惑に気をつけて」と言われた。女湯を覗く顔にでも見えたのか。男湯は俺一人。
私の勤める保育園では、夏休み前に学芸会の行事がある。内容は七夕伝説だ。それぞれ役が決まり、練習を始める。 一瞬の余所見の隙に、突如子ども達から悲鳴が上がった。白鳥役の子が馬乗りになって、織姫役の子の襟を掴み叫んでいた。 「貴方でしょ、貴方が連れて行ったのでしょう!」 織姫役の子は大泣きだ。すぐに引き剥がし、幸い双方とも怪我はなかった。その場は副担任に任せ、白鳥役の子を別室に呼び出した。 「どうしてあんなことをしたの?」 「わたしは織女なのです」 「織姫役がやりたかった
ある男が銭湯へとやってきた。 「人生をやり直せると聞いたのですが」 「その通りですが、先に進まなくて良いのですか?」 「いいのです。先の未来に希望なんてないのですから」 「仕方ありませんね。こちらへどうぞ」 男は一つの湯船に案内された。湯船には青の長方形に白字で矢印が書かれた看板が掲げられていた。 「これは?」 「お客様、自動車の免許は?」 「ありますが」 「ペーパードライバーですか?」 「いいえ」 「ご存じない?」 「……『一方通行』の交通標識ですか?」 「ええ。こちら
X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 猫が集会に行く準備をしている。「そういえば犬の集会って聞かないな」「そりゃ今じゃ、野良犬は少なくなりましたからね。集会かけるのは大体が野良なんでさぁ。野犬がいた頃なんて酷かったですぜ。よくドンパチやったもんです」「何か楽しそう」 猫が出かけた。仲間を呼ぶため、まずは遠吠えだワン! 『犬の集会』 池の中からオタマジャクシが顔を出し復讐を手伝ってくれと言った。「何への復讐ですか?」「私達の父が殺されました。きっとヤゴ
X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 空と海が逆転してしまったので、漁師はパイロットの免許が必要になったし、高級魚をとるためには宇宙飛行士の免許が必要になった。潜水艦にプロペラがついたし、ダイビングの資格代で世界旅行を三周出来る。天気予報のマークには魚だとか鳥だとかが描かれるようになったし、空に身投げする人が増えた。 『空と海が逆転してしまったので』 毎晩サキュバスに悩まされていることを、エクソシストである妻に告白した。妻は嫌悪しつつも祓いの儀式をし
X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 月明かりに照らされての家路。今日の夕食は月見カレーにしよう。しかし冷蔵庫には卵が一つもない。仕方がないので、夜空の満月を取ってきて、卵の代わりにした。帰ってきた妻が卵になった月を食べながら「美味しいね」と笑顔を作る。テレビのニュースが騒がしいけれど、そんなことはどうでも良かった。 『月身カレー』 ケセランパセランを捕まえて、牛乳瓶で飼っていたのだけれど、お姉ちゃんが「蒲公英だよ」と意地悪を言う。どうやら本当で、
ある日、鴛鴦の雄が窓から訪ねてきた。 「番を探しております!」 「ここは人間の相談所ですよ」と断るが、 「いいじゃないですか! いいじゃないですか!」と聞かない。 仕方がないので話を聞くことにした。 鴛鴦は最近『オシドリ夫婦』という言葉があることを知った。 「仲睦まじい夫婦を例えていうのでしょう。何とも素晴らしい。このような素敵なことがあるでしょうか!」 「そうですね」 「しかし実際の自分たちは繁殖期毎に都度パートナーを変えているのです。何たることでしょうか。こ
気がつくと部屋中に雪が降り積もったかのような光景。しかしそんな風情のあるものではない。丸めた紙の屑が散らばっているだけ。 ボツにした自作小説が書かれた紙。書き起こすも、これでは駄目だと握り潰し、床に放る。繰り返すうちにこの有様。 受賞したい。どんな小さな公募でも良い。自身の作品を認めてほしい。そんな心中をため息とともに吐き出す。 足りないのはインプットだと、自身でそう常々感じている。今月末締め切りのコンテストへの応募は見送り、他の優秀な作品から学ぶことに時間を割くべき
煙草の煙って、よく見ると青色なんです。葉や巻紙が燃えた後の微かい粒子に、短波長の光を散乱するからだそうです。空が青く見えるのと同じ原理。 煙が体内に入ると、水蒸気が混ざって白くなるんだそうです。これは雲と同じ原理。 肺の中で、雲を作っている。自分の中に空があるんです。なんだかそれって、とても素敵じゃないですか?知っていましたか?先輩。 「それが、君が煙草を始めた理由?」 先輩、驚いています?ずっと先輩に「煙草をやめろ」って。そう言ってきましたから。 「百害あっ
本村志郎は寒空の下にいた。 上着も羽織らずに、部屋着のスウェットだけだ。 2月の冷たい風が、肌に突き刺さる。 朝の天気予報では気温がマイナスを表示していたことを志郎は思い出した。 他よりすこしだけ標高の高い志郎の町は、空がいくら晴れていようと、風に乗って山からの雪が舞う。そんな田舎町だ。 そもそも、志郎はこんな長く外にいるつもりではなかった。すぐに家に引っ込むつもりであった。 しかし志郎は話を聞く。 隣に腰掛ける老婦人に。 「──なぜ、旦那さんのお葬式に出ない
以前、友人と泊まりの旅行に行ったときのことだ。 「お前、夜中に歯軋りしているぞ」と友人に言われた。「俺、それで夜中に目が覚めたくらいだぜ」 話を聞く限り、結構酷い歯軋りのようだ。 気になってネットで調べると、歯軋りを放置することで歯がすり減り、噛み合わせが悪くなるとか、顎関節に影響が出るとか。結構危なそうだ。 次の週に歯医者にかかった。幸い歯のすり減りも噛み合わせも問題なく、顎関節も問題ないと診断された。ただこのまま続くと、そういった症状も出てくる可能性があるとのこと
映画のファーストデーだったが近くの映画館は観たいのがないし、かといって観たい映画はゴリゴリの都内でしかやっていないで、大人しく家にいることにした。 というかいい加減、積み上がった本や雑誌、書類やアイデア書き殴ったメモやルーズリーフの整理と掃除をしなければならない。 本を段毎に取り出してエアーダスターで塵を払いながら、ペラペラと捲っていく。 本当に稀に、白胡麻ぐらいの小さな虫がいる。 紙魚なんですけれども。 本物を見るまでは紙魚って、本の『染み』のことを格好よく
ついこの前正月を迎えたと思っていたら、もう月末がやってきている。 やらなきゃいけないことはあるのに、仕事から帰ったらコタツに根を張って、スクロールしても更新することがない状態まで、ただ画面を見ている日々が続いていた。 本棚には読んでいない本が埃を被って整列して、適当に積み重ねた雑誌やノートが机の上を占拠している。 夜気づいたら時計の短針が3を過ぎていて、そこから入浴準備に入る。寝る頃には外で鳥が鳴いていて、起きるのは出社1時間前くらい。 前は朝食を必ず食べていたのに
「嫁さんとはどうやって知り合ったの?」 飲み屋のカウンターで、既婚の同僚に何の気もなしに話題を振った。 「高校のときの、後輩」同僚は少し歯切れの悪そうに言った。 「高校から?長いなぁ」 「まあ……」 「嫁さんのどこが良かったの?」 俺がそう聞くと、同僚は顔をしかめながら答えた。 「どこも良いところはないし、俺は、別に好きでもない」 俺はおもわず苦笑し、「何か家庭の事情とか?」と聞いた。 「いや、違う」 「じゃあ……」 「高校のとき、彼女に呼び出された。よくある告白のため