マガジンのカバー画像

単発の小説

69
単発の短編小説・ショートショートはこちらにまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

『海のピ』

 真昼間に浜辺を歩いていると、一人の老人が声をかけてきた。 「よそ者か。まだ海を見ていく…

7

隙間からあの日の君が見えた気がした《140字小説:2024年7月分①》

X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 庭で育てているベビーリーフを、今…

『彦星誘拐』

 私の勤める保育園では、夏休み前に学芸会の行事がある。内容は七夕伝説だ。それぞれ役が決ま…

月町さおり
2週間前
9

『一方通行風呂』

 ある男が銭湯へとやってきた。 「人生をやり直せると聞いたのですが」 「その通りですが、先…

月町さおり
3週間前
10

まだ閉じないでと願いながら《140字小説:2024年6月分②》

X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 猫が集会に行く準備をしている。「…

月町さおり
3週間前
3

丸くしすぎて底が抜けないようにね《140字小説:2024年6月分①》

X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 空と海が逆転してしまったので、漁…

月町さおり
4週間前
5

それで穴に落ちて死んだとしても《140字小説:2024年5月分》

 X(旧ツイッター)で書いた140字小説をまとめたものです。 月明かりに照らされての家路。今日の夕食は月見カレーにしよう。しかし冷蔵庫には卵が一つもない。仕方がないので、夜空の満月を取ってきて、卵の代わりにした。帰ってきた妻が卵になった月を食べながら「美味しいね」と笑顔を作る。テレビのニュースが騒がしいけれど、そんなことはどうでも良かった。 『月身カレー』 ケセランパセランを捕まえて、牛乳瓶で飼っていたのだけれど、お姉ちゃんが「蒲公英だよ」と意地悪を言う。どうやら本当で、

『鴛鴦の憂鬱』

 ある日、鴛鴦の雄が窓から訪ねてきた。 「番を探しております!」 「ここは人間の相談所で…

月町さおり
2か月前
8

『本の虫』

 気がつくと部屋中に雪が降り積もったかのような光景。しかしそんな風情のあるものではない。…

17

『同僚の馴れ初め話』

「嫁さんとはどうやって知り合ったの?」  飲み屋のカウンターで、既婚の同僚に何の気もなし…

14

『招いた幸せ』

 初詣の長い列に並んでいると、後ろに並んでいた中年の男が声をかけてきた。 「少しいいです…

15

『特別な公演』

 K氏はここ数日、パソコンの文字カーソルが点滅するのを眺めるだけの日々を送っている。早い…

43

『最後の雨雲』

 ライトの光で道を照らし、集合場所へと向かう。道中で空を見上げると、雨雲が空を覆った。暗…

15

『君に贈る火星の』

『やあ、荷物は届いたかい?』 『ええ。これはワインかしら』 『火星産の特別なね。それで、前に話したことだけど……』 『もちろん、いいわ』 『本当に?』 『貴方と一緒なら月でも火星でも、ついていく。決まっているでしょう?』 『ありがとう!それならそのワインを飲んでくれるかな。火星に住むには火星産のものを口にすることが条件なんだ』 『分かったわ』  女はワインをグラス注ぎ、それを飲み干した。 『香りはいいけれど、何の味もしないのね』 『ああ。でもそのうち幸福な気分になれるはずさ』