『最後の雨雲』
ライトの光で道を照らし、集合場所へと向かう。道中で空を見上げると、雨雲が空を覆った。暗い世界を更に暗闇へと導いた。
集合場所に到着し、順番に宇宙船へと乗り込んだ。僕達はこれから火星へ向かう。地球は死んだ。科学と引き換えに進んだ環境破壊によって、この星に住み続けるのは困難だと判断したからだ。
宇宙船の窓から外を眺めた。地球の最後の景色だ。
外では雨が降っていた。雨は汚染されすぎた大気を吸収し、黒く膨らんで大粒となり、どろりと落ちてゆく。ボタボタと地上を黒く染め上げる。
宇宙船は成層圏を抜け中間圏に突入した。何も覆っていない空を、僕は初めてみた。
僕の頬を何かの液体が流れた。それはどろりと床に落ちた。隣で同僚が言った。
「お前、目からオイルが漏れているぞ」
僕は手で拭った。
窓から見下ろしても、黒い幕に覆われた地上は、もう見えない。
今も雨は降っているのだろう。
何もいなくなった世界を、雨だけが知っている。
サポートしていただきました費用は小説やイラストを書く資料等に活用させていただきます。