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理屈でなく3つの実例で学ぶ「プロダクト・ライフサイクル」(ワープロ、デジカメ編)

よくマーケティングで聞く「プロダクト・ライフサイクル」。そうです、あの、①導入期、②成長期、③成熟期、④衰退期、というサイクルです。理解はしているつもりでいましたが、実際身近な製品で見てみたら、なるほど、と思ったのでメモ。


1、「プロダクト・ライフサイクル」について

プロダクト・ライフサイクルは、マーケティングという学問の黎明期の1950年にジョエル・ディーンが提唱した理論で、製品が市場に投入されてから、寿命を終え衰退するまでのサイクルを体系づけたものです。

概念をグラフにするとこんな感じ(NRI用語解説より)

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NRIの解説がコンパクトで分かりやすかったので詳しくはこちらをご覧ください。


2、実例1つ目。ワードプロセッサ(茹でガエル型?)

昨日がワープロの日、ということで開発経緯などを投稿していますので詳しい情報はこちらをご覧ください。

ここでは、市場投入から退出(?)までの出荷の推移を見てみましょう。

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(出典:ワープロの歴史

1979年に最初の製品が東芝から発売。価格は630万円。
そこから相次ぐ参入もあり、価格低下が起こります。
1983年にシャープから50万円切る製品発売。
1985年に東芝から10万円切る製品発売。

価格競争が一巡化したところで、機能の競争になり、
1987年にカラー対応製品など高機能の製品が投入される。

1989年に271万台で年間販売台数のピーク(累計販売台数1,000万台)
翌年から徐々に出荷台数が下がっていきます。

1989年に何があったのか?

1989年に東芝からダイナブックというA4ノートサイズのパソコンがそれまでの相場の約半分となる20万円を切る価格で発売され、大ヒットする、ということがあったのです。

これが転換点でした。

その後、ワープロはパソコンに対抗するため、パソコンでできる機能を取り込む方向で商品性を進化させていきます。

例えば、表計算ソフトを装備したり、インターネットが閲覧できたり、ということです。

そして、最終的には、Windows搭載ワープロ、というものまで登場します。

しかし、拡張性という点でワープロはパソコンに決定的に負けており、2002年を最後に商品投入はなくなります。


プロダクト・ライフサイクル的には、
☑️ 大幅な製品単価の下落が見られた
☑️ その後の付加価値競争でマーケットも拡大
は教科書どおりですが、
☑️ その後パソコンとの競合になり、ポジション獲得に試行錯誤
☑️ ライフサイクルが短期化した
点はワープロの場合ならでは、でしょうか。

<経営目線での勝負どころ>
☑️ 衰退期でのリソースシフトのタイミング
ワープロ開発のリソースは東芝が転換点となるダイナブックを投入したことからも分かる通り、シフト可能です。
となると、「衰退期」でいかに残りの収益を取り逃さないようにしつつ、伸びる分野であるパソコン事業にリソースをシフトするスピードとタイミングを図る、というのがポイント。


3、実例2つ目。フィルムカメラからデジタルカメラへ(サドンデス型?)

フィルムカメラの市場がいつできたか、というのは定義次第でいろいろあるようですが、1925年に35ミリフィルムを使った「ライカA型」とするのが一般的なようです。
日本ではキャノンの創業が1937年です。

ここでは、デジタルカメラ登場によるフィルムカメラ市場の衰退期をみたいと思います。

日本でのデジカメの最初と言われているのが1995年にカシオが発売したQV-10です。
それまでもデジカメはありましたが、液晶モニターがついて、手に入る値段設定(6.5万円)のものは初めてでした。

ただ、画素数が25万画素、とプリントには耐えられないレベルであったことから一部パソコンの画像として使うニーズに限られました。

ところが、2000年にキャノンから211万画素のIXYが発売になるとプリントしたときのクオリティも問題がなくなったことから一気に普及が始まります。

出荷台数の推移を見ていきましょう。
青がフィルムカメラ(銀塩カメラ)、赤がデジタルカメラ、になります。

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(出典:デジカメ比較レビュー 爆発的に急成長したデジカメ市場の今後

半世紀続いてきた市場がわずか10年経たずにほぼ消滅してしまっています。
デジタルカメラへのシフトがいかに短期間で起こったかが分かります。


プロダクト・ライフサイクル的には、衰退期だけ見てきましたが、
☑️ 決して4つの期は同じ期間とはならない。長く続いた市場もいきなり終わることがある
ということがこのケースの最大の気づきでしょう。

<経営目線での勝負どころ>
☑️ いかに素早く撤退するか
先ほどのワープロと違い、リソースはレンズなど一部を除くと代替が効かない。
また、フィルムメーカーであれば、フィルムの販売、現像という大きなマーケットもありますし、デジカメにはそもそもフィルムというものが不要なわけですから、撤退というのは即事業の廃止につながりますので、簡単ではないでしょう。

その点、富士写真フィルムは非常にうまく事業を転換できたと言えます。
(それは今からみると、であって、当時写真関連事業は2005年から5期連続で赤字、その幅も2009年には300億円という規模になっています。一つ判断を誤ればあるいは、という、かなりの苦難があったものと思われます)


4、実例3つ目、デジカメからスマホへ(共存共栄型?)

最後にご紹介するのは、フィルムカメラを駆逐したデジカメに忍び寄るスマホ、です。

販売台数の推移を見てみましょう。

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(出典:CIPA(カメラ映像機器工業会))

グラフ中、水色の折線グラフがコンパクトカメラ(フィルムもデジタルも含む)の出荷台数です。2008年に1.1億台(この時点では、ほぼ全量がデジカメです)にまで爆発的に市場が拡大しましたが、2010年のピークから一気に落ち込み、2019年にはピークの10分の1にまで減っていることが分かります。

なにがこの変化を起こしたか、というと、点線で示されているスマホです。

ワープロと同じようにその機能も含みより幅広いことができる新たな商品に市場を奪われたことになります。

ところが、棒グラフを見ていただくと、いわゆる一眼レフとそのレンズは、デジカメ登場前のほぼ2倍になっています(このグラフもフィルムとデジタルの合計です)。

その部分だけ取り出し、台数ではなく金額で見たのがこちら。

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(出典:CIPA(カメラ映像機器工業会))

いかがでしょう?

ピークからは落ち込んだものの、現時点でも、デジカメ登場前の2倍の市場となっています。

つまり、強力なライバルであるスマホの登場により、コンパクトカメラは代替され市場がほぼ消滅した。

しかし、写真を撮る人の裾野が広がったことにより、より高画質やこだわりを持った人がレンズ交換式カメラを購入する流れができ、商品群の上級移行が可能だったメーカーについてはマーケット拡大の恩恵を受けている、と言えます。


プロダクト・ライフサイクル的には、
☑️ 成熟期に入り、ニッチをうまく見出している
と考えるべきか、
☑️ ミラーレスという新市場を作り出し、新たな成長期に入っている
と考えるべきか、まだ途中、というところでしょうか。

<経営目線での勝負どころ>
☑️ 単に衰退期と判断せず、完全に代替されるコンパクトカメラ市場からは撤退しつつ、スマホからの移行組のニーズに合わせた上級シフトをできるかどうか。
☑️ あるいは、スマホがさらに高機能、高画質化することで、踏みとどまっているように見えるのは今だけで、早期に撤退、あるいは、完全プロ向けの極ロットでも採算が取れるモデルへ変革、が必要と考えるか。
☑️ スマホが水平分業の製品であることをチャンスと捉え、部品メーカーとして、スマホへカメラ関連部品を提供する事業にシフトする。


5、まとめ

いかがでしたでしょうか?

従来からビジネスモデルの賞味期限に興味がありいろいろな市場を見てきたのですが、今回は個別の商品3種類を見てみました。
個人的には大変興味深かったです。

学びとしては、

☑️ プロダクト・ライフサイクルといっても当然ながらプロダクトによって状況は様々。
 →成長期には失敗しても良いが衰退期の判断の誤りは最悪倒産もあり得る
☑️ 画期的新商品の市場は20年程度でさらに画期的な新商品の登場で無くなる可能性がある
 →ピークに合わせて追加投資すると損失が膨らむ可能性がある一方で、しないことによる競争脱落のリスクもある。
☑️ 次世代に引き継がれる「遺産」がある
 →ワープロで言えば、変換ノウハウをソフトとして供給
 →デジカメで言えば、カメラセンサーをスマホに対して部品として供給
☑️ 新商品が既存商品に対して完全に代替可能な場合と、上級シフト可能な場合とがある
 →後者であれば、すばやい事業シフトで生き残り、成長が可能

というところでしょうか。

事業の参入タイミングと退出タイミングは事業単体で見たときのトータルの利益最大化はもちろん、事業ポートフォリオとして、工場や人材といったリソースをどのように投入、あるいは、異動させていくのか、という点においても非常に難しい問題なので、こうしたケーススタディを見ていくことが必要だと感じました。

とは言え、後でみてあれこれ言うのは簡単ですが、渦中に当事者としてこうした判断を行うのはかなり難しいだろうと思います。

だからこそ、事例で頭の体操、大事ですね。


最後までお読みいただきありがとうございました。

マニアックすぎる内容ですが、お役に立つところがあったら嬉しいです。

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