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4月19日 地図大手2社の比較でみる、「自社の強み」の本当に意味。

はたらくおとな向け。普段の仕事と無関係なケーススタティで頭の体操。
普段の仕事を超えて、視野を広げ、ビジネスの頭の体操をするのにぴったり。
考えるための質問例はこちら。

→昭文社が復活するにはどのような方法が考えられるだろうか?


寛政12(1800)年旧暦閏4月19日、伊能忠敬が蝦夷地の測量に出発した「地図の日(最初の一歩の日)」です。

地図。
そういえば、当たり前にカーナビがある世の中ですが、昔は、車に1冊道路地図があったものです。紙の。旅行に行く前にはじっくりとルートを検討するのが好きでした。現在では、カーナビやスマホなどがその代替なのでしょうが、そういった地図市場、どのくらいの規模があるのでしょうか?

矢野経済研究所によると国内の位置情報、地図情報活用ビジネスの市場規模2020年度1,527億円と予測されています。
またこの市場は成長が見込まれ、2025年度には1,905億円の規模になると予測されています(下図)。

この市場は地図だけでなく、位置情報も含めた関連市場です。
今回のテーマ「地図」に絞って見るために、懐かしの(紙の)道路地図の地図大手2社の業績を両社の決算資料で見てみました。

1社は「スーパーマップル」の昭文社、もう1社は「スーパーゼンリン」のゼンリン(今思えば、なぜスーパー?)です。

両社、明暗がはっきりと分かれていることに驚きました。

まず、両社の2021年3月期の決算がこちら。
<昭文社>

<ゼンリン>


つまり、以下の通りすごい差があります。
☑️ 昭文社  売上高 63億円 経常利益 ▲14億円
☑️ ゼンリン 売上高 572億円 経常利益 16億円

もちろん、事業構成も違いますので、単純に比較できません。
参考までに2016年3月期決算は以下の通り。
☑️ 昭文社  売上高 130億円 経常利益 3億円
☑️ ゼンリン 売上高 549億円 経常利益 34億円

つまり、昭文社はこの5年で売上高を51%減らし、ゼンリンは4%増やしています。やはり明暗が分かれているようです。

この原因ですが、両社の事業構成の違いです。

<昭文社>

<ゼンリン>


☑️ 昭文社は出版物がメインのメディア事業が53%、デジタルが中心のソリューション事業が29%
☑️ ゼンリンは地図データベースが85%、一般印刷が4%

つまり出版物中心の昭文社は書籍市場の低迷を受け業績が低迷、ゼンリンは地図データベースで稼ぐモデルを確立して成長、ということです。

と、あとからみればその通りなのですが、昭文社の過去の決算資料を見ていて、もう少し深い原因がわかった気がしましたのでご紹介します。

それは2012年の昭文社の決算資料の以下の部分です。

2012年時点で、「カーナビ」や「スマートフォン」という説明がなされています。つまり、デジタル化、スマホ化には気づいていたのです。実際、2012年時点の電子事業の売上は35億円と今の18億円の2倍近い売上があることが分かります。

一体どこで、何があったのでしょう?

実は昭文社は「まっぷる」という情報雑誌(観光地など別にお店などの情報を載せたガイドブックのようなもの)事業があり1つの柱でした。カーナビやスマホに、その「まっぷる」の店舗や観光案内情報を提供していたのです。地図データではありません。

お気づきの通り、こうした店舗情報や観光案内情報は、Googleやクチコミサイトが伸びたことで、カーナビメーカーもわざわざコストを割いて載せる情報ではなくなります。つまり、自社の強みをそのまま電子化して提供しようとしたところ、そちらではタダで提供するライバルが出現して売り上げが減少してしまったのです。

一方のゼンリンは昔から住宅地図に強みを持っていました。私も銀行員時代の営業では愛用していましたが、一軒一軒の家の形、敷地の形まで詳細に分かるのです。加えて、表札まで確認しているので間違いなく顧客を訪問できるのです。これは地道に社員が足で確認した、ゼンリン独自の情報です。

結果、カーナビの位置情報が精緻化すればするほどより詳細な情報が必要となるニーズにゼンリンしか応えられない、という状況になり売り上げが伸びる循環を築けたと言えます。

自らの強みを活用することは基本中の基本ですが、今の時代、全く違う領域から突然ライバルが出現し、強みでなくなる可能性がある、と、よく言われることの1つの実例、と言えるかもしれません。

→昭文社が復活するにはどのような方法が考えられるだろうか?


最後までお読みいただきありがとうございました。

ちなみに、昭文社ですが、以下の通り持ち株会社に移行しています。
「無料化の波に対抗」という文言は危機感と共に悲壮感を感じます。

一昨年7月から続けています。
以下のマガジンにまとめてありますのでよろしければ。


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