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低コストで最強の防災力を得ることに成功した星の話

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。

その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。

ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。
ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。
では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、宇宙移民の考えた公共事業の無駄を最小化するイノベーションを紹介しました。
その記事はこちらです。

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これまで書いた記事の目録はこちら
持続可能な社会のつくり方について書いた記事はこちら
理想社会の設計方法について書いた記事はこちら

今回の話

今回のテーマは防災です。

前回の話では、防災対策のイノベーションも公共事業の無駄削減に効果的な手段になると述べました。
高い費用をかけてつくった公共インフラや公共施設が災害で被害を受けて補修や作り直しをしなければならなくなるのは、税金の無駄遣いになるからです。

しかも日本は国の借金が巨額になっています。
少子高齢化でますます財政が厳しくなっていく中、無駄な公共事業に予算を使う余裕はないはずです。

ところが、政府の2021年度決算を見ると、国の公共事業関係予算の繰越額が2年連続で4兆円を超えているという杜撰ずさんな財政運営が行われている実態が明らかになりました。

また政府は国土強靭化を進めると言いながら、原発増設に方針転換して原子力災害リスクを高めたり、豪雨災害の激甚化・頻発化に影響を与える火力発電からの脱却を積極的に進めたりしないなど、矛盾した政治を行っています。

防災力の強化と財政の健全化は二律背反にあるので両立が困難ですが、この難題を克服する防災イノベーションを発明しなければ持続可能な社会はつくれません。
これから語る宇宙移民が考えた防災イノベーションでは、低コストで防災力を強化できる秘策を紹介していきます。

それでは、その驚きの秘策を見ていくことにしましょう。

激甚化する自然災害に苦しめられた故郷の国

私が前に住んでいた星の故郷の国は、毎年のように甚大な自然災害に見舞われるようになり、国も国民も疲弊していました。

激甚化・頻発化した災害は、豪雨災害です。
豪雨災害が増加した背景には、温暖化による異常気象が影響していると言われていました。

また私の故郷の国は地震が多い島国でした。
そのため数十年おきに大地震に襲われ、多くの人命と財産が失われる甚大な被害を受けていました。

防災イノベーションが必要な理由

今となっては遅いですが、私の故郷の国は防災イノベーションを行うべきでした。
そう考える理由は、激甚化する気象災害や切迫していた巨大地震に対して、以前と同じ防災力では通用しなくなっていたからでした。

私の故郷の国は以下のような問題を抱えていたことで、防災力が高くありませんでした。

大都会が抱えていた問題

■ 埋立地の上に都市をつくっていた
私の故郷の国の首都は都市を拡大するために、浅瀬を埋め立てて土地を増やしていました。
しかし埋立地は大地震があると液状化現象が発生し、建物や道路、ライフラインなどに大きな被害をもたらしてしまいます。

■ 都市が高密度であった
首都は立錐りっすいの余地がないほど建物が立ち並んでおり、小さな車でないと入れないような狭い道路や、車の進入が不可能な路地がたくさんありました。

特に問題だったのは、木造住宅が密集した地域でした。
老朽化した木造住宅は倒壊しやすく、延焼を起こすリスクがあります。
さらに、老朽化した木造住宅には高齢者が住んでいるケースが多く、避難が遅れるという問題もありました。

救急車や消防車が入れない道路が多いと、消火活動や救助が思うようにできなくなります。
また狭い道路が渋滞でふさがれてしまうと、消火活動や救助だけでなく、避難もスムーズにできなくなってしまいます。

■ 高層ビルが多くあった
高層ビルが多くあることが、首都の抱えていた最大の問題といえます。
高層ビルの問題は、避難・救助・消火がしにくいということです。
また高層ビルには、割れたガラスやがれ落ちた外壁タイル、看板などの落下物が避難者に直撃する危険があります。

高層建築物の中でも、高層マンションが特に危険でした。
他の集合住宅よりも住民が多い分、火災が発生するリスクが高くなるからです。

避難をするにも、エレベーターが止まれば高層階の住民は避難が困難になります。
高層階は救助や消火もしにくいので、避難がスームズにできないと死傷者が増えてしまいます。
また同時火災が多く発生していれば人手不足になり、すぐに救助や消火に来てもらえなくなる可能性もあります。

マンションに住んでいる人の数に対して避難所が圧倒的に足りてない問題もありました。
火災や液状化などで住めなくなるマンションがたくさん発生した時には、仮設住宅も足らなくなりました。
負傷者が多く出ると医療施設も医療従事者も不足して、救える命が救えなくなるケースも増えました。

■ 地下構造物が多くあった
地下鉄や地下街、アンダーパスなど地下構造物がたくさんあるのも問題でした。
地下構造物には、浸水や陥没など様々な被害が発生するリスクがあります。

■ 住宅と工場が混在していた
これは都会に限ったことではなかったですが、住宅と工場が混在している問題もありました。

住宅と工場が近いと、自然災害で工場が爆発事故を起こせば、周囲の住宅に被害が及んだり、安全に避難できなくなったりしてしまいます。

■ 近所との付き合いが希薄であった
災害時は、近所の助け合いが必要になります。
しかし大都会では隣に住んでいる人の顔も知らないケースが珍しくなかったため、近所にいる災害弱者の避難を助けることができず、災害で命を落とす人を増やしてしまいました。

田舎が抱えていた問題

■ 土砂災害の増加
私の故郷の国の国土面積の約7割は中山間地域で、そこに暮らす人々はがけ崩れや土石流、地すべりなどの土砂災害に遭うリスクにさらされていました。
土砂災害は、豪雨災害や台風、地震などの自然災害で発生します。

私の故郷の国で土砂災害が増えたのは、豪雨災害が激甚化・頻発化しただけでなく、里山の放置や里山にメガソーラー(発電規模が1,000kW以上の大規模な太陽光発電所)を設置したことで土砂災害が発生しやすくなっていたこともありました。

■ 人口減少
田舎で人口減少が進む一番の理由は、若い世代が仕事を求めて都会へ移住してしまうことです。
その結果、高齢化率が非常に高くなり、田舎は災害弱者だらけになってしまうのです。
またそのせいで消防団もなり手がなくなり、高齢者を災害から守れなくなっていました。

人口減少による自治体の財政難は、避難所も減少させてしまいます。
少子化で避難所になる学校が統廃合になったり、市町村合併で公民館も統廃合になったり、老朽化しても立て直す予算がないので公民館が廃館になったりするからです。

また財政難になると、災害危険箇所の整備が進まなくなったり、公共インフラの老朽化問題に対応できなくなったりしてしまいます。

さらには医療機関も衰退して、災害で重傷者が出ても対応できなくなってしまいます。

個人が抱えていた問題

個人の抱えていた問題は、防災力の格差が大きかったことです。

たとえば、災害に強い高性能住宅はすべての人が買えるわけではありません。
火災保険に加え、地震保険に加入できる人も限られています。

生活が苦しい人は耐震性の低い古い木造住宅や団地、アパートなどに住んでいるケースが多くありました。
つまり格差社会が防災力格差も生んでいたのです。

防災訓練の問題

防災訓練も地域や職場によって温度差がありました。
地震や風水害など災害の具体的な被害を想定した防災訓練をしっかり行っている地域があれば、毎回同じ内容の形骸化した防災訓練が行われ、参加者も集まらない地域もありました。

人口規模が小さい自治体ほど、災害を想定した防災訓練を実施していませんでした。
専門知識をもった防災担当の職員がいないなど人員不足の問題が、それができない理由になっていました。
また職員の数が少ないと、実際に大規模な災害が発生して職員も被災した場合、自治体が機能しなくなってしまいます。

個人においても防災知識や災害に対する備えに大きな格差がありました。
災害に十分な備えができているのはほんの一部で、ほとんどの人は備えができていませんでした。
防災訓練の参加や災害に対する備えができない理由の多くは、「仕事が忙しく、防災にかける時間がつくれない」でした。

防災イノベーションに失敗した故郷の国の結末

防災イノベーションを成功するには、次の2点も成功する必要があります。

  • 財政健全化

  • 温暖化防止

なぜなら、財政難になれば高い防災力を維持することができなくなりますし、温暖化が進めば気象災害が激甚化・頻発化してしまうからです。

しかし私の故郷の国は世界一の借金大国であり、防災力の強化と財政の健全化のどちらも成功させるのは不可能に近い状態にありました。

しかも前述したように改善すべき課題があまりにも多く、国の力だけではどうすることもできない問題も多くあったため、防災イノベーションを成功させることができませんでした。

その結果、気象災害の激甚化・頻発化がより一層進む悪循環に陥り、私の故郷の国は凋落ちょうらくしていきました。

温暖化防止に失敗した理由

温暖化防止に失敗した理由は3つあります。

1つ目は、グローバル競争が過熱化したからです。
温暖化が進む原因は、経済活動にあります。
しかしそれがわかっていても、どの国も経済を大きくすることを競い合うグローバル競争から降りようとはしませんでした。
そのようなことをすれば他国に利益を奪われるだけで損をしてしまうと考えたからです。
その結果、経済のメタボ化が進み、環境問題が大きくなってしまったのでした。

2つ目は、世界人口が増えたからでした。
世界人口が増えればエネルギーの使用量が増え、それに伴い温暖化に大きな影響を及ぼす温室効果ガスの排出量も増えてしまいます。
それに加え、グローバル経済で贅沢な暮らしをする人が増えたことも、エネルギー使用量の増加に影響を与えていました。

3つ目は、戦争が起きたからでした。
戦争は、故郷の星が15年以内に温室効果ガスの排出を実質ゼロにしないと温暖化を止められなくなるというほど切迫していた時に起きました。
そのせいで脱炭素社会実現に向けての各国の計画が大幅に狂い、タイムリミットに間に合わなくなってしまったのでした。

また世界人口が増えているにも関わらず、温暖化の影響で安全に住める場所が減っていったことも、領土拡大を目的とした戦争を誘発することになってしまいました。

土地不足は、温暖化を進める要因にもなりました。
土地不足を解消するために森林破壊が進んだり、メガソーラーなどの再生可能エネルギーを設置する場所をつくる余裕がなくなったり、原子力発電が戦争の標的にされるリスクが高まったことで火力発電に回帰する国が増えてしまったりしたからです。

温暖化と世界人口の増加は、食料を奪い合う戦争も招いてしまいました。

温暖化が進むと食糧難になる理由は2つあります。
ひとつは、異常気象で農作物収穫量と漁獲量が減少してしまうこと。
もうひとつは、前述した土地不足が農地面積も減少させてしまうことです。

それに対し、世界人口の増加が止まらなかったことで、故郷の星は深刻な食糧危機になってしまったのでした。

さらに、化石燃料に依存するエネルギー政策になったことも資源枯渇を早めることになってしまい、これも戦争を激化させる油になったのでした。

防災力の低下を招いた理由

■ 国の防災力が低下した理由
気象災害の激甚化・頻発化や戦争が激化したことで、私の故郷の国の防災力は低下しました。
復旧・復興に充てる予算に追われ、巨額の財政赤字に苦しむ政府には、防災力を強化する予算やインフラ老朽化に対応する予算をつくる余裕が失われてしまったからです。

また戦争激化で軍事費が膨らんだことも、防災対策に使える予算を減らすことになりました。

この他、私の故郷の国が世界で最も少子高齢化が進んでいて人口減少が激しかったことも、財政悪化を進める大きな原因になっていました。

国民の防災力が低下した理由
国民の防災力も低下しました。
国と同様に家計が苦しくなったことで、防災にお金をかけることができなくなってしまったからです。

家計を悪化させたのは、収入の減少と支出の増加のダブルパンチです。

収入の減少は災害や戦争で、倒産や賃金の低下が増えたからです。
また国家財政の悪化で年金額が激減したことも、生活苦にあえぐ高齢者を増やすことになりました。

出費の増加は、物価や水道光熱費の激しい上昇、増税や社会保険料の値上げなどです。
これが青天井であったため、食べていかれなくなる国民が増加してしまったのでした。

私の故郷の国は他国より物価上昇のダメージが大きかったですが、その原因は資源も食料も他国に大きく依存していたことにありました。

そのせいで、被災すると生活再建ができなくなる国民が激増しました。
食べるのに精一杯の一般庶民の財力では、住宅の建て替えで二重ローンを背負うのは難しくなってしまったのです。

また気象災害の激甚化で災害リスクの低い場所が少なくなり、その結果、安全な場所の地価が高騰、さらに物価高と人材不足で住宅価格も激しく上昇したことで、一般庶民は安全な場所に移住して災害に強い住宅をつくるのが難しくなってしまったのでした。

立ち直れなくなった故郷の国

私の故郷の国を存亡の機に追い込むとどめになったのは、首都を襲った大地震です。

私の故郷の国は首都に政治・経済など国の高次中枢機能の大部分が集中していたため、首都が壊滅状態になったことで立ち直れなくなってしまったのでした。

防災イノベーションを成功に導く5つの課題

私たちは防災イノベーションを成功させるために、次の5つの課題に取り組むことにしました。

成功の秘策をみつけたぞ!

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