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インフラ老朽化問題の解決に成功した星の話

物語の設定

宇宙人が未開の星に移住するという設定で、架空の星に経済と環境の両立を実現する理想社会をつくってみました。

その星に住む移住者たちは、環境問題だけでなく、いま我々が有効な解決策が見つからず困っている様々な課題の克服も試みています。

ここでは、移住者たちがどのようにして難題を解決したのかを続き物で紹介していきます。
ガイド役は、理想社会の創造に携わった移住者が務めます。
では、お楽しみ下さい。

前回の話

前回は、宇宙移民の考えた世界平和を実現するイノベーションを紹介しました。
その記事はこちらです。

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これまで書いた記事の目録はこちら
持続可能な社会のつくり方について書いた記事はこちら
理想社会の設計方法について書いた記事はこちら

今回の話

今回のテーマは公共事業です。

いま私たちの社会では、道路や上下水道、橋など、生活を支えるインフラの老朽化が重大な課題になっています。
インフラの耐用年数は50年と言われますが、高度成長期に全国で一斉に整備された多くのインフラがその時期を迎えているからです。

ところが、我が国は財政難でインフラ老朽化に対して十分な予算を組める状態ではなく、必要な補修が思うように進められていないのが現状です。

このままインフラの老朽化が進めば、私たちは様々なトラブルや事故に見舞われることになるでしょう。
たとえば、水道管が破裂して広範囲で断水になったり、橋が崩落ほうらくして死亡事故が起きたりします。
すでに、笹子トンネルの天井板崩落事故や和歌山市の水管橋崩落事故など、大きな事故が発生しています。

東京都でも水道管の漏洩事故が毎年10件以上発生していますが、都内の水道管をすべて交換するには50年を要することから、都民も水道管の破裂で断水になるリスクにさらされ続けることになります。

また古くて強度が足りない砂防ダムも全国に多数存在しています。
地球温暖化による異常気象の影響で災害が激甚化するなか、老朽化した橋や脆弱ぜいじゃくな砂防ダムが多くあることは大きな被害を招くことになります。

次にあげる架空の世界に暮らす宇宙移民たちは、公共事業のイノベーションを行ってこれらの問題を解決し、誰もが便利で快適、安全に暮らせる社会をつくることに成功しました。

では、どのような方法で難題を克服したのか見ていくことにしましょう。

公共事業はなぜ必要か

私が前に住んでいた星の故郷の国(以降、「私の故郷の国」という表現を使わせていただきます)では、公共事業というと「税金の無駄遣い」と考える人が多く、あまり良いイメージをもたれていませんでした。

でも公共事業は必要です。
公共事業が行われない世界になれば、私たちの生活は非常に不便なものになり、安全に暮らすことができなくなります。

誰もが安全・快適にどこへでも行けるのは、道路や橋というインフラがあるからです。
民間企業がつくった自動車があるだけでは、同じことはできません。

そういうことも、私たちが国や地方自治体などの行政機関を必要とする理由のひとつなのです。
そのためにみんなでお金を出し合い、誰もが等しく恩恵を享受できる社会資本の整備を行政機関に委託しているのです。

以上のような理由で、公共事業のイノベーションは利便性と安全性の公平化を実現するために行われる必要があると考えています。

故郷の国を襲った公共事業の危機

私の故郷の国は、世界一の借金大国でした。
そのせいで公共事業関係費が逼迫ひっぱくする状態が慢性化し、行政機関は納税者の負託ふたくに応えることができなくなりました。
つまり、公共事業の恩恵が公平化する社会を実現したり、未来社会に向けたインフラを構築したりすることができなくなってしまったのです。

それどころか、老朽化したインフラを補修することもままならなくなってしまったのでした。

また安く済まそうとしたせいで、耐久性に劣る部品が使われたり、手抜き工事が行われたりする問題が起きたりもしました。
それで余計な補修を増やすことにもなりました。

予算が不足すれば、堤防など防災や減災のためのインフラを十分に整備することもできなくなります。
私の故郷の国は災害大国でもありました。その上、温暖化による異常気象で、甚大な災害が頻発する事態になっていました。
その被害を小さくできなかったのは、老朽化したインフラの放置と不十分な防災対策にあったと言わざるをえません。

私の故郷の国は、復興費用が増えたことで余計に財政難になり、ますます公共事業関係費が削減される悪循環が生じてしまいました。

その影響で、公共施設である病院や学校なども統廃合されていきました。
人口の少ない地方では公共交通も衰退していたので、クルマが使えない高齢者が不自由になったり、学校へ子供を送迎する親の負担が増えたりしました。

にもかかわらず、税負担や利用料金だけはあがるので、何のために税金を払っているのかわからなくなるようでした。
おまけに物価も上昇する一方でしたので、収入が増えていない国民の生活は次第に苦しくなっていきました。

こうなると仕事の少ない地方では食べていかれなくなります。
その結果、地方からの人口流出に一層拍車がかかって、自治体消滅に追い込まれる地方自治体が急速に拡大していきました。

そんな状態の私の故郷の国は、まるでお金ばかりがかかって危険な整備不良のオンボロ車のようでした。
これでは国民を幸福な未来に運ぶことはできません。

危機を招いた原因

インフラの老朽化に適切に対応できなくなるなどの公共事業が抱える問題は、行政機関の財政難が原因で発生したと述べました。

では、何が原因で財政難になったのでしょう。
様々な原因が背景にありましたが、私たちはそのなかでも次の2つの問題が公共事業関係費の不足を招く大きな原因になったと考えました。

  •  積極的な公共事業政策の失敗

  • 少子高齢化の進行

次は、この2つの問題が財政難の原因になった理由を説明しましょう。

積極的な公共事業政策の失敗

積極的な公共事業政策とは、インフラや公共施設の整備がある程度進んでいるにも関わらず、新たなインフラや公共施設を積極的につくる政策です。
当然そのような事を行うと、多くの無駄を生みます。

私の故郷の国がそのようなおかしな政策を行った理由は、不景気に苦しむ地方経済を助けるためでした。

どうして積極的な公共事業政策が景気浮揚に効果的かと言うと、仕事がなくって困っている地域に仕事をつくってやれるからです。
そして仕事が増えれば人手が必要になるので、失業問題も改善します。

公共事業の仕事が増えて潤うのは建設業だけではありません。
建設業で働く人たちが豊かになってたくさん消費をしてくれれば、他の職種も利益を増やせるからです。

また交通網や都市基盤が整備されれば産業誘致もしやすくなり、さらに職場を増やすことができます。

それで景気が回復すれば税収も増え、みんなが幸せになれるというシナリオを考えたのでした。

しかし現実はその通りにならず、景気は低迷したままで、国の借金が増えただけでした。

失敗の原因は、効果があがりにくい状態で積極的な公共投資を行ったからでした。

インフラや公共施設がある程度進んだ状態とは、人に置き換えれば満腹に近い状態です。
満腹に近い状態では、次から次へと料理を出されても、空腹のときのようにモリモリ食べられなくなります。
そして満腹を超えれば一切受け付けられず、それ以降運ばれてくる料理は全部無駄になってしまいます。

必要以上のインフラや公共施設をたくさんつくったことで、私の故郷の国はこれと同じようなことになってしまったのでした。

また景気回復を目的にした公共事業政策には、簡単に方向転換できなくなるという困った性質があります。
たとえれば、依存症のような状態に陥ってしまうのです。

方向転換がしにくくなる理由は2つあります。

ひとつは、公共投資を急激に削減してしまうと、多くの雇用を奪うことになるからです。
つまり建設業を中心に倒産件数が激増し、大量の失業者を出してしまうということです。

公共事業で雇用を増やして地方経済を下支えする政策は、公共事業への依存体質を強めてしまうことになります。
建設業に依存しなければやっていかれない産業構造にしておきながら、いきなり公共事業を削減する方針に変えられてしまうと、地域経済は大きなダメージを負うことになります。

こうした事態になるのを恐れて、簡単に方向転換できなくなってしまうのです。

もう一つの理由は、政治家と業界と官僚の癒着が生じるようになるからです。
積極的な公共投資によって建設業が大きな力をもつようになると、その組織票で当選できている政治家は、建設業界に嫌われる政策を立てられなくなります。
また官僚も、公共事業が削減されて天下り先が減ってしまうのは困ると考えるようになります。

こうした悪い関係が生じてしまうので、公共事業の本来の目的から外れたことをするのは問題なのです。

さらに問題なのは、積極的な公共事業政策が地域を効率の悪いつくりにしてしまうことです。
新規の公共事業を行うために公共事業が行われていない場所を探して、無節操に開発を進めていくのがその原因です。

私の故郷の国は際限なく郊外化が進められた結果、新興住宅地が無秩序に点在する地域になってしまいました。

またその影響で、中心市街地が衰退し、効果のない再開発が繰り返される無駄を増やすことにもなってしまいました。

そのような膨大な維持コストが発生する構造の地域にしてしまったことも、インフラの老朽化に対応できなくなる事態を招いてしまったのでした。

少子高齢化の進行

私の故郷の国は世界で最も少子高齢化の進んだ国でした。

少子高齢化が深刻になると起こる問題は、税収減でインフラや公共施設を維持するのが困難になるということです。
少子高齢化で税収が減少する理由は、税金を多く納められない高齢者の数が増えてしまうのと、少子化になると人口が減少してしまうからです。

また高齢者が多くなると、税金が使われている医療や年金、介護などの支出が増え、ますます公共事業関係費に使えるお金が減ってしまいます。

さらに、水道や高速道などの有料のインフラは、人口が減ると利用客も減ることになるので、利用料収入も減少してしまいます。

この問題は地方ほど深刻でした。
若い世代の流出が止まらないことで、高齢化率がとんでもなく高くなってしまったからでした。

故郷の国がとった解決策

積極的な財政出動を行った結果、私の故郷の国は大赤字になってしまいました。

そこで政府は財政再建のために、どのような公共事業政策を考えたか。次はそれを紹介しましょう。

公共事業の削減

私の故郷の国の政府が最初に行ったのは、無駄な公共事業をやめることで公共事業関係費の削減をすることでした。

しかし無駄な公共事業を仕分けするのは簡単ではありません。
相当うまくやらないと、公共事業で大切にしなければならない公平性と安全性を損なうことになってしまいます。

無駄を判断するのに、どういう視点を持つかが重要になります。
よく使われる視点は、次の3つです。

  • 過剰でないか

  • 費用対効果が高いか

  • 使用頻度が高いか

まず過剰で判断する公共事業削減は、上記の3つの視点のなかで最も使いやすいでしょう。
その地域の人口規模に釣り合わない規模の公共事業は、誰の目にも無駄だと判断できるからです。

しかし人口は変動します。
過剰と判断して縮小したものの、人口が急増したので前の規模に戻す工事を行うことになっては、「穴を掘って埋める」公共事業と同じになってしまいます。

次に費用対効果で判断する公共事業ですが、これは公平性を損なうリスクが高いので非常に難しくなります。
たとえば、交通量の多い都会の道路は費用対効果が高いから良くって、交通量の少ない田舎の道路は費用対効果が低いから良くないということになってしまうからです。

費用対効果の判断は、立場によって大きく変わるものです。
次にあげるたとえは公共事業ではありませんが、たとえば高層マンションの1階に住む人と最上階に住む人とでは、エレベーターの必要性は大きく変わります。

それと同じで、都会に住む人には田舎の道路が無駄な公共事業に見えても、田舎の人にとっては都会の人が暮らしている地域の道路と同じくらい日常生活になくてはならないものなのです。

税金は、どこに住む人でも同じように払っています。
ならば、田舎に住む人も同じように便利で安全に暮らせる公共事業の充実を求める権利があるはずです。

使用頻度を視点にするのも、判断を誤ると大変なことになります。

たとえば、道路と防災対策のための公共事業です。
使用頻度で評価すると、道路は使用頻度が高いから良くって、大津波に備えた巨大な防波堤は百年に一度あるかどうかわからないから無駄だという話になってしまいます。

しかしその万が一のことが起これば、大惨事になります。
それで生じた損失・復興費用と万が一に備えてやった防災対策の費用を比較すれば、どちらが無駄であるかは明白です。

だからといって、公平性や万全な安全性を求めると、全体の質を下げてしまう可能性があります。
予算が限られているので、公平性と完璧を両立するのは非常に難しいのです。

財政再建のために公共事業を削っていかなければならない状態を車の購入に置き換えてみると、予算オーバーになるからと安全装備でも快適装備でも徹底的に削って、最低限の機能しかついていない車を選ぶようなものです。

私の故郷の国の国民は、そういうただ走ればいいだけの危険な車に乗っているようなものでした。

民営化

民営化とは、行政機関が行っていた事業を民間企業が行う事業に変えることです。

民営化の目的は、赤字になる原因を減らすことにあります。
くだけた言い方をすれば、手に負えないお荷物事業を民間に押しつけて、行政機関の財政が健全化しやすくなる体質に変えようする戦略です。

おまけに民営化すれば、民営化した企業から他の民間企業と同じように法人税をとることが可能になるので、赤字が減って収入も増やせる一石二鳥になります。

しかし国民はそれと反対に、行政機関が運営していた頃と同じ恩恵を受けることができなくなってしまいます。
なぜなら民間企業は行政機関と違い、国民全体の生活を守る責任を負わなくてもよい立場であるからです。

行政機関が運営する事業が赤字経営になるのは、独占の弊害で経営努力が足らないせいだという面もあるでしょうが、一番の理由は採算に合わない地域である過疎地の住民も見捨てるわけにはいかないという行政機関に課せられた責務があるからです。
つまり不効率になるのを受け入れざるをえないということです。

それに対し民間企業が相手にするのは、お金を払ってくれる客だけです。
税収がなく、借金を約束どおりに返済しなければならない民間企業は、稼げる事業に集中しなければ存続することができません。

となれば、採算の合わない地域から迅速に撤退するのが合理的な判断になります。
そうなると、見捨てられる地域が増えますし、合理化でリストラされる従業員も多く出してしまいます。

確かに、民営化することで料金が安くなるメリットがあるかもしれません。
しかしその裏には、多くの犠牲があるのです。

また競争にさらされることで生産性が向上するといっても、民間企業には勝ち組もいれば負け組もいます。
成功している勝ち組企業だけを引き合いに出して、民営化すれば生産性が向上するというのは公平ではありません。

国民負担増加

積極的な公共投資の失敗で巨額な債務残高を抱えることになった私の故郷の国は、増税や年金の減額、高速道路料金の値上げなど国民にツケを回すことで財政を健全化しようとしました。

しかし国民負担を重くしすぎたせいで、消費が落ち込んでますます不景気になり、それが原因で倒産や失業者を増やしてしまいました。

また余計に子供を増やしにくい環境にしてしまい、少子化をさらに進行させることにもなりました。

インフラや公共施設の料金を値上げしたことも、利用者を減らすことになっただけでなく、生産性を低下させることにもなり、景気悪化の後押しになってしまいました。

その結果、税収は激減。公的扶助に頼らなければ暮らせなくなる国民を増やすことになり、結局政府は自分の首を絞めることになったのでした。

公共事業イノベーションの成功へのアプローチ

繰り返しになりますが、公共事業で大切にしなければならないことは、誰もが便利・快適・安全に暮らせる社会をつくることです。
つまり一部の人だけが公共事業の恩恵を享受できる社会では駄目だということです。

しかしその目標だけを達成しても、公共事業のイノベーションに成功したとはいえません。
次の2つの課題も成功しないと、せっかくつくったその理想都市は持続可能にならないからです。

  • 財政の持続可能性

  •  環境の持続可能性

もちろん、この2つの課題と公共事業の公平性を両立することは簡単ではありません。
安全性能に優れたフル装備の車のような都市を全国に展開すれば、コストがかかりすぎて財政難になってしまうからです。
それに公共事業を拡大することは、環境破壊を進めることになりかねません。

私たちはこの難題を解決するために、次のようなアプローチを考えました。

成功の秘策を見つけたぞ!

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