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なんで「薬はじめてガイド」を作ったの?(2)

「発達障害の当事者とまわりの人のための薬はじめてガイド」中の人1号、仲田が薬はじめてガイドを作ろうと思った理由、2日目です。
「なんでこんなパンフレットを作ったの?」とよく聞かれるので、そのアンサーを書いてみました。1日目はこちら

3)疲れてても、医療系の学校に行ってなくても、助けてくれる家族や友達がいなくても、なんとかなる社会を作りたい

「薬はじめてガイド」の1章の内容の一部は、大学の「薬理学」関連の授業で習うことを、関係ありそうなところだけ簡単にして説明したものです。日本の大学進学率は現代でも約50%程度、その中で医療系、心理学系の専攻に進む人はさらにごく一部です。ほとんどの人は学校では習うことがない、でも納得して薬を飲むうえでは知っておいてほしい知識です。
もちろん、お医者さんや薬剤師さんの指示を守れば、知らなくても特に問題なく服薬できるのですが、背景を理解して納得できないとなかなか動けないのが私たちのサガというもの。

薬や精神科医療について、専門家の書いた本はありますが、正直一般の人向けとしては内容が難しいなと感じます。基本的なリテラシーがあるかモチベーションが高く、文章を読む体力・気力がある人向けですね。それももちろんそういう人に向けて細かく正確な知識を広めることもとても重要なのですが、服薬アドヒアランス(※服薬ルールを守り、医療者とコミュニケーションをとりながら薬を安全に活用すること)の向上がより必要なのは、服薬ルールなどにそもそも関心がない人なのではないでしょうか。

特に若い人では服薬アドヒアランスが低い傾向があることが報告されています(上野ら、日健教誌,2014; 22(1):13-29)が、興味深いのは若いことだけでなく、アレルギー歴があることも、服薬アドヒアランスを下げる因子として報告している研究があることです。
私の体感としても、過去に薬の副作用や病院でつらい思い経験した人は、医療にたいする信頼感や、服薬に対するモチベーションが低めだなあと感じることが多いです。まあ、そりゃあそうですよね。

発達障害があると、定型発達の人とは体質が違うこともあり、つらい経験をしがちなのかもしれない、と思うことがあります。たとえば自閉症スペクトラム症(ASD)の子供はアレルギーのある確率が高い(※発達障害があるから必ずアレルギーがある、またはアレルギーがあるから発達障害だというわけではありません)というアメリカの調査もあります。
理由は人によって違うけど、色々あって服薬ルールを守ったり積極的にお医者さんとコミュニケーションをとるモチベーションが下がりがちな私たち。
でも、現代の医学は日進月歩なのです。もし、発達障害の薬が合う体質だったら、次はうまくいく可能性もあります。薬をうまく使って困りごとを減らすチャンスを逃さないですむ人が増えたらいいなあという気持ちを込めてパンフレットを書きました(後述しますが、服薬は必ずしもファーストチョイスではないこともあります。ご自身の主治医とよく相談してください!)。

そもそも、発達障害があると疲れがちな人も多いです。私も、病院に行って疲れた日や、鬱気味のときは難しい本や論文を読むことは全くできません。たとえ読み上げがあっても、音声で聞くのはもっと苦手です(※私の場合です)。困りの渦中にいる当事者のためには、やはり簡単な言葉で短くまとめた情報源が必要だと感じていました。

自分で読めなくても、読むのが得意な人や知識のある人に教えてもらえばいい、と思うかもしれません。でも、本の内容をかみ砕いて教えてくれる知り合いなんて、そんなに都合よくいるものでしょうか。
発達障害をもちながらうまくやっている同世代の手記を読むと自分自身や家族が医療・福祉関係者だったり、心理学や医療・生物系の学問を学んだことがある、というエピソードをよく見ます。確かに研究の世界にいると、両親のどちらかが医療関係者や研究者という家庭で育った人は一定数いる印象です。では、専門家コミュニティの外で育った人々は、どうなるのでしょうか?それから、家族との関係がよくない人や、人間関係自体が苦手な人は?

実は、発達障害自体の理解促進や支援コツを簡単な言葉でまとめたパンフレットは、もうすでにあるのです。各都道府県のホームページをご覧ください。多くの都道府県では発達障害に関する啓発パンフレットがダウンロードできるようになっています。
でも、それらのほとんどは、障害のない(定型発達の)家族、特に親御さんや先生、上司など、本人より立場や年代が上の人に向けて書かれており、当事者が読むことは前提とされていないように見えます。
私たち発達障害や精神疾患をもつ当事者が主体的に意思決定を行うことが全く想定されていないことを目の当たりにして、とても悲しく感じました。ほかの人には同じ思いをしてほしくないと思います。

また、関係の良い家族がいたとしても、元気だともサポートに専念できる状況だとも限りません。私が育った家の大人たちもおそらく発達障害の傾向があり、生活のなかで困りごとを抱えながら一生懸命暮らしていました。子供の私からは、私よりも(当時は発達障害の診断はありませんでしたが)、彼らにこそ助けが必要なように見えました。障害のない元気で余力のある大人が、障害のある子どもを助けてあげる、それによって障害のある子どもが困らずに生活できるようになる、という、既存の障害児者サポートの前提は、そもそも私にはマッチしていませんでした。

疲れて、具合が悪くて、難しい文章が読めない、読みたくない。
専門知識がない、学校に行っていなかった、勉強をする元気がない。
本当に医療を信じていいのかよくわからない。
人と仲良くなるのが難しい。人間関係を維持する余力がない。
過去に怖い思いをして、他人に相談するのが怖い。

私たち発達障害者はそういう状況に置かれがちで、そして安全な医療情報はそうなった時こそ必要だと思うのです。
まだ、WebサイトやSNSでの配布が主ですが、頑張って検索しなくても、検索に必要な知識がなくてもパンフレットに出会える人が少しでも増えるように、これから紙のパンフレット冊子の設置場所は、増やしていきたいと考えています。

今日の参考文献

発達障害の専門ではなく、薬理学一般の参考書ですが、マンガつきで解説してあり、もっと薬そのものについて詳しく知りたい人にはおすすめ。

レビー小体型認知症の著者、薬物過敏性のエピソードが読める。

助けが必要な人ほど声を上げられない、という本。

<つづく>

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