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アトランダム私小説

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鳴海邦彦が思いついた時、衝動的に書き記す私小説。不定期で掲載します。
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アトランダム私小説 「死神」

アトランダム私小説 「死神」

 すでに泥酔状態にも関わらず、さらに飲み狂うカーチス2等兵の暴走を同僚の新兵達は誰も止めることができなかった。

 床にはミラーの空き缶が散乱し、バカルディの空瓶が派手な音を立てて砕け散った。

 突然黒い猛牛の動きが止まった。

 ある一点を凝視したまま微動だに動かない。

 店内はそれまでの喧騒が嘘のような静寂に包まれた。

 カーチス2等兵の視線の先には店のバーカウンターに腰を下ろし、一人静

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「うん? なぜ減速しない? 次のコーナーはこのままのスピードじゃ抜けられないぞ! 」

「無茶だ! いくらなんでも突っ込み過ぎだ! 」

「なに? 抜けた! ば、バカな、あのスピードで突っ込んで抜けただと!」

「お、俺は今とんでもない化け物とバトルをしている。」

アト ランダム私小説「東京S.W.A.T」

 寺嶋はチャンス&ピルキントン社製5×25レンジファインダー付きテレスコープサイトのレンズカバーを外すと、レミントンM700スペシャルのスリングを右腕に巻きつけて肩付けし、ニーリングポジションで銃口を800m離れたターゲットに向けた。

 クロスヘアーで分割されたテレスコープサイト越しの影像にターゲットの頭部が見えた。

 7mmレミントンMagnumの弾道偏差と気温、湿度、風速を計算し、スコープ

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アトランダム私小説「椿ライン伝説1981」

 「な、何が起きてるんだ!」

 速水がバックミラー越しに見たのはまさに信じられない光景だった。

 3コーナーで勝負をつけるどころか、背後に迫るSA22C RX7の丸目2灯リトラクタブルヘッドライトが放つ眩い光芒が凄まじい勢いでポルシェ911SCの背後に迫りつつあった。

 下り13コーナー、入り口の150R中速左コーナーを抜けるとテクニカなS字コーナー、その先には30Rの右ブラインドタイトコー

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アト ランダム私小説「東京S.W.A.T」

アト ランダム私小説「東京S.W.A.T」

 SIG SAUER P229のダブルカーラムマガジンに9mmパラベラム弾を装填する橘の横で、友里子はひたすら眠り続けた。

 早くに父親を亡くした友里子にとって、いつしか橘の存在は父親に近しいものとなっていた。

 この人は何があっても自分を護ってくれる。その全幅の信頼が友里子を心地よい眠りへと誘っていた。

アト ランダム私小説「東京S.W.A.T」

 「お前は自分が何をしてるのかわかっているのか!」

 石上長官は顔面を紅潮させヒステリックに叫んだ。

 「もちろんわかっているさ。」

  橘はかすかに口角を上げ、皮肉っぽく答えた。

 「貴様らは国家の番犬だ! その番犬が飼い主である政治家に牙を剥こうというのか! 身のほどをわきまえろ!」

 激昂し、震える指を橘に向けて糾弾する石上の表情が凍りついた。

 石上の胸には橘が構えるヘッケラー

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アト ランダム私小説「東京S.W.A.T」

アト ランダム私小説「東京S.W.A.T」

 友里子の上に覆いかぶさった橘の背中に9mmパラベラム弾や.45ACP弾の雨が降り注いだ。

 しかし、着弾の衝撃を受けながらもDragon Skinのボディーアーマーは一発の貫通も許さなかった。

 チタンコーティングされた特殊セラミックプレートをうろこ状に配置し、ケブラー繊維とザイテルで構成されたDragon Skinは、着弾した瞬間、弾丸の直進エネルギーはベクトル変換され、その結果自らのエネ

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アトランダム私小説「マークスマン」

アトランダム私小説「マークスマン」

 「なぜ彼が " The surgeon (外科医)" と呼ばれるかわかるか? ジム。」

 「いいえ。なぜです?」

 「彼は常に呼吸を支配する横隔膜・肋間神経がある頸椎第5番を正確に撃ち抜く。例え2km先からでもだ。その手際がまるで熟練の外科医のようだからそう呼ばれているんだよ。」

 「・・・・・・」

 「彼は単なるスナイパーじゃない。そう、正確且つ速やかにターゲットを死の世界にいざなう

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アトランダム私小説「マークスマン」

アトランダム私小説「マークスマン」

「アキュレシー・インターナショナル L115A3のバレルをサコーに変えろだって? なるほど面白い。で、弾丸は.338Lapua Magnum。ターゲットは1マイル先のウサギかい?」

「いや、2km先のサッカーボールだ。」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981」

 ドラマは椿ライン第14コーナーでおきた。橘のPF60ZZ-RにピタッとつかれたTE71レビンは、プレッシャーに負けコーナーの進入速度を誤った。

 椿ライン第14コーナー、間口は広いが、コーナー中盤からRが変わる、いわゆる複合コーナーである。しかも、変則的なRは2段階で変わる。このコーナーを制するには、唯一存在する最速ラインを針の穴に糸を通すように正確にトレースする超精密なドライビングテクニック

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アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 "椿ライン"は"神奈川県道75号湯河原箱根仙石原線"、奥湯河原温泉郷の入り口から大観山山頂を経て芦ノ湖湖畔の箱根関所南交差点に至る約18.5kmの一部区間の愛称である。

 奥湯河原から大観山付近の標高1,015メートルの最高地点までの区間は標高差約750メートル。そのほとんどが中・高速コーナーから超低速ヘアピンコーナー、コーナリングの途中でRが変化する変則複合コーナーなど、様々なコーナーで構成

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アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 サイドバイサイドの攻防戦。どちらも引かない。ともに4速全開。

 12A 6800回転、G180WE 6500回転。

 ロングストレートエンドに待ち構える30Rの右タイトへピンコーナー。
橘は僅かに残ったスロットルペダルの踏み代を一気に床まで踏み込んだ。

 G180WEの咆哮は悲鳴へと変わり、タコメーターの針はレッドゾーンの7500回転まで跳ね上がった。

 サイドバイサイドの拮抗が破られ、

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アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 ロングストレートエンドから続く30Rのタイトヘアピンコーナーに備え、先行するSA22Cが僅かに左に寄った。

 橘はその瞬間を見逃さなかった。

 PF60ZZ-Rのステアリングを僅かに右に切るとスロットルペダルを踏み込んでSA22Cのスリップストリームから離脱、そのまま一気に対向車線に躍り出た。

 2台のマシンは共に4速全開、サイドバイサイドの状態を保ちながら、ストレートエンドでばっくりと口

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アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

アトランダム私小説「椿ライン伝説1981(仮)」

 椿ラインは、大観山頂上近くになるとやや長目のストレートが幾つか点在する。

 その一つ、逆バンクのパラボラコーナーを過ぎ、短いストレートの次に来る右90Rを立ち上がった直後から始まる緩くベンドしたロングストレート。
テクニカルコーナーでしのぎを削ったバトルは、ここからパワーバトルへと様相を変える。

 12A VS G180WE、グロス130PS(推定実馬力≒115PS)同士のストレート対バン勝

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