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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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#新撰組

綾瀬新撰組「御用金の行方」

綾瀬新撰組「御用金の行方」

1977年8月、群馬県伊勢崎市連取本町に建つ古いアパート平和荘。私立J大学商学部2年の福良慶喜の部屋。室内には福良と友人の国立G大学文学部2年の異能清春、隣県の埼玉県本庄市にあるA女子短大文学部の日向千夏の3人が同人誌『探偵挿話』の打ち合わせをしている。3人は福良の唯一の家具であるコタツをテーブル代わりにして座っている。

福良が編集長を務める「探偵挿話」は、異能と日向にその他の投稿者たちが書いた

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綾瀬新撰組「猪苗代湖」

綾瀬新撰組「猪苗代湖」

まだ明けきらぬ早暁、土方は予定通りに斎藤一、島田魁、久米部正親をつれて福良から猪苗代湖岸に出た。斎藤たちは福良の農民から借りた大八車にたくさんの竹竿を積んでいる。

小栗上野介から預かった御用金は、江戸の五兵衛新田に駐屯していた時に小菅の銭座で溶かして棒状に加工し、長さ三尺ほどに切り詰めた百本ほどの竹竿の節をくり貫いてその中に仕込んである。それを大八車に積んで、近藤や土方らと分れて会津に先行させた

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新撰組異聞「幽霊」4

新撰組異聞「幽霊」4

2日後…。

「原田、近藤さんの部屋まで一緒に来てくれ」
「は…」どういった風の吹き回しだろう…と思いながら土方のあとについていく。
近藤の部屋の前まで来ると「近藤さん、ちょいといいかい」と土方が声をかけた。
「歳三か、どうした。ああ、原田も一緒か、ふたりとも入りな」と手招きした。
土方が先に部屋に入って近藤の前に座りながら「ふう」とため息をついた。
「どうした」
「あの幽霊のことさ」
「常陸で殺

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新撰組異聞「幽霊」3

新撰組異聞「幽霊」3

「芹沢が故郷で殺した女の霊が、常陸からわざわざ京までやってくるもんですかね」と言いながら沖田が笑った。

「俺たちが清川(八郎)や山岡(鉄舟)と、江戸から中山道を京まで歩いてきた時に一緒にくっついて来たんだろうさ」珍しく土方が冗談を言って笑った。土方は躁鬱が激しい。

「幽霊は疲れないんですかね」

「足がねぇから疲れねぇだろう」と言って土方が笑った。今日はよほど機嫌がいいらしい。

すると沖田が

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新撰組異聞「幽霊」2

新撰組異聞「幽霊」2

出入り業者の格好で久しぶりに顔を出した山崎焏は、興味深いことを近藤と土方に伝えた。それは彼が探っている尊攘過激派の動きではなくて、芹沢鴨のことだった。それを伝えると山崎は、すぐに前川邸の勝手口から姿を消した。山崎は隊員の身辺調査も行なっている。尊攘派の密偵が入り込む可能性が大きくなったからだ。

山崎が去って、しばらくして、土方は沖田と原田佐之助を呼んで、その内容を伝えた。

「沖田、原田…面白れ

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新撰組異聞「幽霊」1

新撰組異聞「幽霊」1

以前Facebookに書いたものを修正しながらアップしていきます。全部で20回ぐらいになります。これを書いた後に浅田次郎さんが「輪違屋糸里」を書いていたことがわかって凄く驚きました。素人の僕が考えることなんて、プロの方たちがとっくの昔に書いているもんなんです。勉強になりました。

1.

「それで、お前は見たのか、女の幽霊を…」

近藤勇は、なぜか自分の背後を振り返り見ながら言った。沖田総司から幽

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新撰組

新撰組

僕はいつものように夢を見ていた。夢を見ていたというのは僕の主観であり、客観的に見れば、夢遊病であったり、認知症における徘徊であったりするのだが、夢の中に存在する今の時点では、いずれかはわからない。

僕は新撰組の土方歳三と歩いていた。僕はチューリップハットを被り、Gパンにダンガリーシャツという70年代のような格好をしていて、土方は襟なしのシャツに戎服(じゅうふく)を着こみ、そのうえにマントを羽織っ

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土方と亀姫 挿話「翁島」

土方と亀姫 挿話「翁島」

47年前…父が購入したモーターボートに乗って猪苗代湖にある翁島の周辺を旋回していたら、水深の浅いところに沈んでいる神社の鳥居や道祖神のようなものがたくさん見えた。

「翁島辺りには昔の村が沈んでっから、ボートのスクリュー引っかけだりして危ねぇがら行ぐなよ」と従兄が言った言葉で、好奇心が湧いて島まで来てみたのだった。実際に見てみると、それらは湖底に沈んだ村人たちの死臭のようなものが感じられてかなり不

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土方と亀姫 玖

土方と亀姫 玖

「坂本だけではない。西郷も悪魔に魂を売ったゆえ、月照と海中に身を投げた際に助かったのじゃ」
「西郷も…悪魔に魂を売った奴は他にもおるのですか」
「おる。それが誰かはわからぬが、この先、そなたがこの戦いで生き残ってみれば、それが誰かはわかるであろう」
「人は死ぬのが怖い。怖いゆえに魂を売って悪魔の僕になろうとも生き残りたいものじゃ」
「魂がなくなるということは死ぬということではないのですか」
「表向

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土方と亀姫 捌

土方と亀姫 捌

「あやつが長崎の海軍伝習所に入門した際(安政2年)に悪魔に魂を売ったと姉から聞いた」
「まことでございますか」
「まことじゃ。あやつは安政以降に起きた事変の大半に関わっておる。桜田門の外で彦根の井伊が水戸や薩摩の者に斬られた(安政7年)のもあやつが裏で糸を引いていたのじゃ。そのときあやつは知らぬ顔をして咸臨丸でメリケンに渡っておる。他にもいろいろあやつによって起きた事変は数えきれぬほどじゃ」
「海

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土方と亀姫 柒

土方と亀姫 柒

朱の盆もまた亀姫と同じく、猪苗代氏から藩祖の保科正之を経て、今の藩主である松平容保まで代々仕えてきた妖怪なのだった。

保科正之とは二代将軍徳川秀忠の庶子(御落胤)である。正之の母・静は、秀忠の乳母に仕えたが、その際に秀忠に見そめられて関係を結び、慶長16年(1611)に正之を産んだ。将軍職を継げる庶子ゆえに命を狙われる可能性が高いため、秘匿されて江戸城北の丸に邸を与えられていた武田信玄の娘・見性

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土方と亀姫 陸

土方と亀姫 陸

*プロットもなしに感覚だけでテキトーに書いているので辻褄が合わないこともあると思われます。真面目に読むのはおやめ下さい(笑)。

「朱の盆…」

「んだっぺ」

「変な名前の化け物だな」斉藤が笑った。

すると、朱の盆が斉藤を睨んだように見えた。朱の盆の目は大山椒魚の目のように小さいからわからない。ただ彼の紅い身体は怒りに満ちて、さらに朱の色を増した。

「食ってやる」朱の盆は畳を這うように亀姫の

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土方と亀姫 参

土方と亀姫 参

「ふふふ、情けないのう。そなたらは京での戦いに負け、江戸に逃げ帰ったと思うや、甲州でも負けた。近藤を見殺しにし、その後も負け続け、この会津でも負け戦か。ほんに情けないのう」
土方は落ち着いていた。もしかすると猪苗代城の高橋権大夫の姫君かもしれないからだ。高橋は会津藩士で猪苗代城代をつとめていた。
「これは手厳しい。確かに負け戦続きで誠に情けのうござる。して、失礼とは思いまするが、高橋権大夫様の娘御

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土方と亀姫 弐

土方と亀姫 弐

「何者だっ!」斉藤が愛刀の鬼神丸国重を抜いて土方の前に出た。

鬼神丸国重は、摂州(現・大阪府池田市)の刀匠、池田鬼神丸不動国重が天和2年(1682)に作刀した業物で、刀長は2尺3寸1分(約67センチ)。

土方も和泉守兼定の鯉口を切って身構えた。和泉守兼定は、関(現・岐阜県関市)の刀匠兼定のことで、4代目以降は会津藩の祖、保科正之が会津に連れ帰り、お抱え鍛冶とした。土方の刀は11代目の会津兼定が

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