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土方と亀姫 弐

「何者だっ!」斉藤が愛刀の鬼神丸国重を抜いて土方の前に出た。

鬼神丸国重は、摂州(現・大阪府池田市)の刀匠、池田鬼神丸不動国重が天和2年(1682)に作刀した業物で、刀長は2尺3寸1分(約67センチ)。

土方も和泉守兼定の鯉口を切って身構えた。和泉守兼定は、関(現・岐阜県関市)の刀匠兼定のことで、4代目以降は会津藩の祖、保科正之が会津に連れ帰り、お抱え鍛冶とした。土方の刀は11代目の会津兼定が作刀したものだ。刀長は2尺3寸1分6厘(約70センチ)。

「その刀は、そなたたちが殺した者の血で呪われておるのじゃ。刀だけではない。呪われた血はお主たちの中に染み込みんで、苦しみの後に死ぬのを待っておるのじゃ」

「何奴っ!」斉藤が叫んだ。

「それでも武士か? わらわの気配に気づかぬとはのぅ。先刻からそなたたちの後ろにおるわ」土方と斉藤は振り返って見て驚いた。そこにはいつの間にか漆黒の闇のような黒の小袖に血のような深紅の打掛けを着た年若い女が立っていた。幼子のような顔つきだが背丈は5尺5寸(約165センチ)ほどある大柄な女だった。

「うわっ!」斉藤が驚いて腰を抜かした。

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