神代さわ

職業はシナリオライター。定住所を持たず、全国を渡り歩くアドレスホッパーでもあります。 …

神代さわ

職業はシナリオライター。定住所を持たず、全国を渡り歩くアドレスホッパーでもあります。 イルカと食べ物が大好き。旅行に行くと必ず水族館に行きます。

マガジン

  • 毎日ちょっとずつ連載する小説「青のかなた」

    毎日ちょっとずつ連載する、パラオと沖縄が舞台の小説です。お疲れ社会人の主人公は、南国・パラオでの滞在でどう変化していくのか。ほんとうの「私の人生」とは? 対話を通して心を繋げ、愛情を深めていく人たちの物語です。

  • 旅する日記

    主人公は家なしのシナリオライター。仕事をしながら日本全国を旅する様子を描きます。旅先で出会った人たちとの交流や、失敗、そして成長(?)。テレワークが急速に進んでいる昨今、アラサー女子がアドレスホッパーになるとこういう生活が待っているよ! という参考になれば幸いです。

最近の記事

毎日連載する小説「青のかなた」 第6回

(6)  窓が二つあるのも開放的だ。思南から事前に部屋の写真は見せてもらっていたけれど、実際に見て安心した。光のように自宅で仕事をするクリエイターにとっては、その部屋が自分に合うかどうかが何よりも大事だった。窮屈な部屋では創作なんてできやしない。  スーツケースはレイが部屋まで運んできてくれた。 「ありがとう。助かりました」  光が言うと、レイは「いいえ」と微笑んだ。 「パラオは日本とは環境も気候も違うから、来たばかりの頃はみんな体調を崩しやすいんです。今夜はゆっくり

    • 毎日連載する小説「青のかなた」 第5回

      (5)  中から「はーい」と声がして、扉が開いた。現れたのはアジア系の男性だ。百八十センチ以上ありそうな長身に、エプロンを着けている。 「レイ、ありがと。助かったよー!」  くせのある日本語で言ったあと、彼は光を見た。 「光さん、こんばんは! 思南(スーナン)です」  出発前にメールのやりとりはしていたが、顔を見るのはこれがはじめてだ。想像していたよりもずっと柔和な顔立ちをしている。つぶらな目は少し垂れ気味で、笑うといっそうやさしげになった。額にかかる程度まで伸ばし

      • 毎日連載する小説「青のかなた」 第4回

        (4) 「そのようです。パラオの風景なんて、写真や動画でいくらでも見られるっていうのに、どうしてそうなるのか……」  と言いつつも、はるの頼みを断れなかったのは光の方だ。小学校の頃から大人になるまでの期間、光はほとんど祖父母に育ててもらった。幼い頃からそばにいてくれたはるの頼みを、どうしても無下にできなかったのだ。  運転席のレイは何か考えるような顔をしていたが、やがて「うーん」と口を開いた。 「もしかしたら、おばあさんは単純にパラオの景色を描いた絵が欲しいっていうわけ

        • 毎日連載する小説「青のかなた」 第3回

          (3)  軽いものだけれど、縦が八十センチ、横が百二十センチとばかみたいに大きいので、自宅から成田空港まで運ぶのがとにかく大変だった。 「あれは、キャンバスです」光は言った。 「キャンバスって……絵を描くための?」 「はい」 「ああ……光さん、確か画家さんなんですよね。スーが言ってました」 「画家というか、イラストレーターです。今は、ソーシャルゲーム……スマートフォンで遊ぶゲームに使うイラストを描く仕事をしてます」 「ゲームのイラスト……マリオみたいなの描いてるってことで

        毎日連載する小説「青のかなた」 第6回

        マガジン

        • 毎日ちょっとずつ連載する小説「青のかなた」
          7本
        • 旅する日記
          10本

        記事

          毎日連載する小説「青のかなた」 第2回

          (2)  あまりに自然な仕草なので、うっかり肩に提げていたカルトンバッグまで渡してしまいそうになり、慌てて持ち直す。 「これは大丈夫です。自分で運びます」  レイは「そうですか」大して気に留めるふうもなく歩き出した。しばらくスーツケースをゴロゴロ鳴らしながら進んだあと、一台の車の前で足を止めた。マツダのデミオ。ちょっとくたびれているが、銀色と水色を足して割ったような色合いがかわいい。これがレイの車らしかった。  荷物を後部座席に置いて車に乗り込むと、レイはすぐに車を発進

          毎日連載する小説「青のかなた」 第2回

          毎日連載する小説「青のかなた」 第1回

          (1)  空港を出て、一番最初に目に入ったのはマンタだった。  出入り口を出てすぐのところに雨よけの屋根がついており、その裏側一面に絵が描かれているのだ。青い海と、その中をゆったりと漂うマンタの絵。  パラオはスキューバダイビングの聖地と言われていて、マンタに会うためにわざわざ潜りに来る人もいるらしい。特に、今は十一月になったばかり。東京は冬を迎える頃だけれど、パラオはちょうど雨期が終わり、滞在のベストシーズンである乾季に変わる頃だ。空港を出てすぐにパラオの人気者であるマ

          毎日連載する小説「青のかなた」 第1回

          沖縄に一年間住んで書き上げた小説を、毎日2ページずつ公開することにした

          こんにちは。ライターの神代(くましろ)です。 去年、沖縄に移住して小説を書き上げたことを記事にして以来の更新です。 あの記事の公開後、いろんなところから反響がありました。日本中を旅してみたりイラストを習ってみたり沖縄に移住してみたり、ふらふら生きているように見られがち(というか実際ふらふらしていますが)な私でしたが、あの記事を読んでもらうだけで私がこれまで何をしてきたのか、この先何をしていきたいのか、そしてどういうスタンスで作品を作ってきたのかが伝わるので、書いて本当によかっ

          沖縄に一年間住んで書き上げた小説を、毎日2ページずつ公開することにした

          はじめての沖縄暮らしと、創作活動について

             こんにちは。ライターの神代(くましろ)です。  去年、ADDress卒業記をアップして以来の久しぶりの投稿ですが、実は2022年8月から2023年6月まで十ヶ月のあいだ沖縄で暮らしたので、そのことについて書こうと思います。  沖縄暮らしについてというよりは、そこでの創作活動について。  別の記事で書いたかもしれませんが、わたしの生まれは北海道で、真冬の早朝にはまつ毛と鼻毛と鼻水が凍り付くような極寒の土地で育ちました。全国をふらふら旅していたこともあったとはいえ、「

          はじめての沖縄暮らしと、創作活動について

          全国住み放題サービス「ADDress」を1年使ったらこうなった〜ADDress卒業レポート〜

          こんにちは。はじめての方は、はじめまして。ライターの神代(くましろ)と申します。 生口島以来、「旅する日記」をまったく更新しなくなってすみません。 更新しなくなったことで、ADDress生活をやめてしまったかとお思いの方もいらっしゃると思うのですが、実はやめたわけではなく、 きっちり1年間、ADDress生活を満喫しました!! 生口島のあとに滞在した場所は、だいたいこんな感じ。 大洗(茨城) 三崎(神奈川) 藤沢(神奈川) 蒲原(静岡) 用宗(静岡) 上野 また京都 奈

          全国住み放題サービス「ADDress」を1年使ったらこうなった〜ADDress卒業レポート〜

          旅する日記⑧広島県生口島の日本茶とビキニ

           福山でマリコさんと別れたあと、わたしは同じ広島県の生口島に来た。ここにもADDressと提携しているゲストハウスがあると聞いたので、一度訪れたいと思っていたのだ。  予定が定まらず、予約のときにけっこう迷惑をかけてしまったのだけれど、ゲストハウスのオーナーであるご夫妻はやさしく迎えてくれ、わたしにいろんな話を聞かせてくれた。  ご夫妻はかつて世界一周をしたことがあるそうだ。それも、赤ちゃんだった息子さんも連れてというから驚いた。  世界を見てきた人たちが、自分の暮らす場所と

          旅する日記⑧広島県生口島の日本茶とビキニ

          旅する日記⑦広島県尾道市のカレーと酔っ払い

           二週間に及ぶ京都での旅を終えたわたしは、新幹線で広島県へ移動した。向かうは瀬戸内海に面した街、尾道。  尾道にもADDressの拠点がひとつある。会員屈指の人気拠点と聞き、一度訪れたいと思っていたのだ。  重いバックパックを背負ってなんとか尾道拠点に辿り着くと、カレーの匂いとともにマリコさんが出迎えてくれた。小田原で会って以来二週間ぶりの再会だ。わたしたちは思わずハグをした。   普段は基本的に一人で旅をしているのだけれど、尾道の旅ではマリコさんがわたしの相棒だ。彼女も尾

          旅する日記⑦広島県尾道市のカレーと酔っ払い

          旅する日記⑥京都の爆走自転車とフルーツパフェ

           暑さがようやくやわらいだ十月、わたしは京都に来た。  アドレスホッパーになってから二ヶ月。千葉や神奈川などをうろうろしていたわたしだけれど、ようやく思い切って関東の外に出たのだった。京都を訪れるのはこれが生まれてはじめてなので、かなりどきどきしている。  京都に着いて最初の宿は「九条湯」。もとは銭湯だった建物を改装してゲストハウスにしたらしい。隣はバー兼ワーキングスペースになっていて、そちらの方は内装がほとんど銭湯だったときのままになっている。荷ほどきが住んだあと、わた

          旅する日記⑥京都の爆走自転車とフルーツパフェ

          旅する日記⑤横浜中華街の占いとチャイ

           ――9月。  わたしがアドレスホッパーになって一月が過ぎた。  旅をしていないと出会えなかった景色や食べ物、人との交流。毎日が刺激的でとても楽しい。  楽しい、のだけれど……  鶴巻温泉を出てから、わたしは2週間ほど東京で過ごした。ADDressと提携している北品川のゲストハウスに宿泊して、久しぶりに毎日オフィスへ通った。この半年はすっかりテレワークが当たり前になっていて本当はオフィスに行く必要なんてなかったのだけれど、このところ仕事で書いているシナリオの進みが悪く、オ

          旅する日記⑤横浜中華街の占いとチャイ

          旅する日記④神奈川県秦野市鶴巻温泉のショッキングピンクな人々

           後ろ髪を引かれる思いで小田原をあとにしたわたしは、同じ小田急線沿いにある鶴巻温泉駅に来た。ここにもADDressの拠点があり、一週間ほど過ごす予定になっている。  その日のわたしの宿は「ADDress鶴巻温泉A邸」。裏に住んでいらっしゃる大家さんのご両親が生活していた家で、日当たりのいい縁側が素敵な日本家屋だ。  わたしが使う寝室の隣にはワークスペース兼リビングになっている広い和室があって、昼間はそこで仕事をして過ごした。その和室にはたまちゃんさんという女性と、スズキさん

          旅する日記④神奈川県秦野市鶴巻温泉のショッキングピンクな人々

          旅する日記③神奈川県小田原市のビーチクリーンと着衣水泳

           御宿を出て東京に戻ったわたしは、久しぶりに出社して同僚たちに会ったあと、北鎌倉にあるADDressの拠点で過ごした。  和室がとても素敵な北鎌倉の拠点で一週間のんびりしたあと向かったのは、同じ神奈川県の小田原市だ。それまでいた御宿や北鎌倉に比べるとなかなかの都会である。駅の近くには某激安の殿堂もある。  わたしが四日滞在する予定の「ADDress小田原A邸」は海岸のすぐそば、「かまぼこ通り」にあった。ぱっと見は普通の住宅街なのだけれど、よく見ると老舗のかまぼこ屋さんが点在し

          旅する日記③神奈川県小田原市のビーチクリーンと着衣水泳

          旅する日記②千葉県御宿町のスーツケースと夜の海

           アドレスホッピング三日目にして、やってしまった。  旅人の失敗の代表格「ロストバゲージ」というやつを。  一宮に泊まった翌日、わたしは同じ外房線の御宿町に滞在する予定だった。電車が御宿駅に到着し、ホームに降りたときに、帽子を電車の座席に忘れてきたことに気づいた。わたしは重いスーツケースをいったんその場所に置き、車内に戻った。  あとは想像通りである。帽子を取り戻し、再度ホームに出ようとしたわたしの目の前で、扉が閉まったのである。  電車の扉というのは、エレベーターのそれ

          旅する日記②千葉県御宿町のスーツケースと夜の海