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旅する日記⑤横浜中華街の占いとチャイ

 ――9月。
 わたしがアドレスホッパーになって一月が過ぎた。

 旅をしていないと出会えなかった景色や食べ物、人との交流。毎日が刺激的でとても楽しい。
 楽しい、のだけれど……

 鶴巻温泉を出てから、わたしは2週間ほど東京で過ごした。ADDressと提携している北品川のゲストハウスに宿泊して、久しぶりに毎日オフィスへ通った。この半年はすっかりテレワークが当たり前になっていて本当はオフィスに行く必要なんてなかったのだけれど、このところ仕事で書いているシナリオの進みが悪く、オフィスに行けば仕事スイッチみたいなものがオンになって書けるかなと思ったのだ。
 けれど、これがまったく書けなかった。
 
 おまけにあまりよくない仕事の知らせも届き、げんなりしながら東京を出た。次の行き先は横浜市中華街。今月から新しく入会した「Hafh」というサービスを利用して、中華街にあるゲストハウスに三泊する予定だった。

 オリエンタルな雰囲気が好きなので、中華街は上京したての頃からのお気に入りスポットだ。エビチリまんとか、杏仁ソフトクリームとか、大鶏排とか、おいしいものがたくさんあるのもたまらない。
 宿泊しているゲストハウスの一階がカフェになっているので、そこで仕事をしたり、お昼休みには近くの店にエビチリを食べに行ったりして過ごした。いままでふらっと遊びに来るだけだった中華街に、数日滞在するというのもなかなか面白い。早朝と深夜の誰もいない中華街も見られたし、近くにある元町ショッピングストリートも異国情緒があって素敵だ。

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 仕事が休みの日曜日には占いの店に行ってみた。そこにはわたしのお気に入りの占い師さんがいて、この3年くらい毎年、年に一度だけ占ってもらっている。
 占いの結果をすべて信じているわけではないのだけれど、その占い師さんの言葉はとても力強くて元気がもらえるし、エレガントな美人(ここ大事)なので、たまに会いたくなるのだ。ちなみにペンネームも彼女に選んでもらった。

 会うのは1年ぶりだったけれど、占い師さんはわたしのことをなんとなく覚えてくれたようで、すぐに手相を見てくれた。

「最近、ちゃんと眠れてる? いまは脳が常にオンの状態になってるのよ。たまにちゃんとオフにして休ませたほうがいいんじゃないかしら」
(なんか、思い当たるかも?)

「今の仕事、お金は入ってくるけど、愛は入ってこないみたいね。チームのみんながプロダクトに愛情を持ってないんじゃない?」
(思い当たるかも!)

「あなたはとにかくマンネリな環境がダメな人なのよ。今の仕事にも飽きてきてるでしょ」
(思い当たるよ!!)

 わたしはアドレスホッパーとして各地を転々として生活していることも話した。

「いまはとにかく体と頭が疲れてるから、気に入ったところがあればそこに住んでみてもいいんじゃない?」
「はい……」

 占いのお店を出るとき、20歳くらいの女の子のお客さんが目に入った。好きな人との相性を占ってもらっているみたいだ。
 そうだよなあ、と思った。女子がこういうところに占いに来るとき、結婚とか、彼氏との相性とか、そういうことを相談に来てもいいのに、わたしはいつも仕事のことや、自分のキャリアの築きかたの話しかしてこなかった。なんと可愛げのないことか。
 物書きとして大成したいという夢を持つのはいいけれど、シナリオライターじゃない、ただの「わたし」のことを少しないがしろにしていたのかもしれない。

 中華街を出る日、素敵なカフェを見つけた。台湾映画に出てきそうなおしゃれなお店で、ドリンクがワンコインで飲める。わたしはチャイを頼んだけれど、甘くて変なクセがなく、おいしかった。
 座席には電源もあるので書き物もできる。おまけに雑貨屋さんの2階にあって目立たないせいか、お客さんが少なくて静かだ。

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 こういうお店でなら、なんだかゆったりした気持ちで過ごせそうだ。このときは急ぎの仕事に追われていたので、次はもっとのんびりできるときに訪れよう。

 次の行き先は、ふたたびの小田原。ひと月ぶりにヒライさんたちに会うのが楽しみだ。お土産はフォーチュンクッキーにしよう。

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横浜中華街の旅のおとも:
「謝甜記 弐号店」の海鮮おかゆと「CHILLULU」のパンケーキ(トッピングはレモン)


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