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『熱帯』千一夜物語(アラビアンナイト)を元にした怪奇物語!『夜は短し歩けよ乙女』の森見登美彦が送る長編小説

「ああもう現実逃避したい!」って気分のとき、ありますよね。

そんなときは、ちょっと不思議で現実感のない物語で、日常から離れてみませんか。一緒に頭フニャフニャにしよ。

今回は『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』で人気の森見登美彦さんの『熱帯』をご紹介します。これがね、気づいたら別世界に迷い込んでしまう不思議な作品なのです。

著者も「我ながら呆れるような怪作である」と語った本作。ぜひ、あなたにも奇々怪々な世界観を楽しんでほしい。



謎の本『熱帯』を巡る、森見の冒険の物語


物語は、作家の「森見」がスランプに陥り、読書を始めるところから始まります。この、作者のご本人登場感も、物語にリアルさが出て良い。

で、『千一夜物語』という本を読んでいたとき、『熱帯』という、学生時代に出合った不思議な本のことを思い出します。

古書店で発見して読み始めた本なんだけど、半分ほど読んだところで失くしてしまい、読めずじまいになっていた本なの。

その後もどこにも売ってないし、図書館で調べても、手掛かりはないままだったんだけど。森見は、とある読書会で『熱帯』を手にしている人を発見します。

そこから「わたしも読みました」って人が続々登場するものの、みんな、読み終わる前に、なぜか手元から消えてしまい、読み切った人がいない。で、自分の覚えている内容を出し合うんだけど、謎は深まるばかりで……。

はたして、『熱帯』を完走できる日は来るのか?ハラハラドキドキのお話です。

物語のベースになった『千一夜物語』ってどんなお話?


ちなみに、冒頭で『熱帯』を思い出すきっかけになった『千一夜物語』の内容ってご存じでしょうか?アラビアンナイト、というとピンと来るかしら。

冒頭にざっくり紹介があったのでご紹介しておきます。

その昔、ペルシアにシャハリヤール王という王様がいた。あるきっかけで妻の不貞を知った王様はエゲツナイ女性不信に陥り、夜ごとひとりの処女を連れてこさせては純潔を奪い、翌朝にはその首を刎ねるようになった。

いきなり怖っ!メロスに出てくる王様を彷彿とさせる。これはきっと、メロスのような救世主が現れるに違いない。

そんな恐ろしい所業を見かねて立ち上がったのが大臣の娘シャハラザードである。彼女は父親の反対を押し切ってみずから王のもとに侍(はべ)り、不思議な物語を語り始める。

やっぱり!救世主現る。そんで、そんで?

しかし夜が明けるとシャハラザードは物語を途中でやめてしまうので、その続きが知りたいシャハリヤール王は彼女の首を刎ねることができない。このようにしてシャハラザードは夜ごとの命をつなぎ、わが身と国民を救おうというのである。

ほぇー。頑張れ、シャハラザード!

で、この後にシャハラザードの語った物語が続く、というのが『千一夜物語』みたいです。

『千一夜物語』については、参考文献もいくつか載っていて、ちょっとした知的好奇心もくすぐられるので、二度おいしい。

映画の『ナイトミュージアム』とか、ファンタジーものを見終わった後の、さっぱりして、だけど充実した気分になる読後感。長期休暇にガツン!と読める1冊だと思う。ぜひ。

あ、あとね、単行本を買った方は、カバーを外してみてほしい。とある仕掛けがしてあって、より物語に入り込めます。


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サクッと読みたい方はこちら。不思議な世界観はそのまま、短くて読みやすいので、森見作品デビューの方はこっちのほうがおすすめです。

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