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午前2時のカウントダウン

「あれ、除夜の鐘?」圭が驚くのは無理がない。彼が京都に住んでいるとはいえ、ここは中心部ではないから伝統的な寺院は無い。ここは洛西とか西山とよばれた、少し離れた新興住宅地なのだ。
 とはいえ少し歩けばあることはある。だがとても除夜の鐘が聞こえるような場所ではない。ではなぜ聞こえたのか? 不審そうに圭が音のするほうを見ると、妻のベトナム出身のホアが、除夜の鐘のライブ映像を見ていた。

「ホアちゃん、そうか除夜の鐘の映像を見ていたのか」「うん、もうすぐ年越しね」「ああ、カウントダウン。えっとあ、あと1分」
 それを知った圭は慌てて、117番の電話をかけてスピーカーから時報を鳴らす。「ただいま午前0時をお知らせします」とのアナウンスが部屋に響くようにスピーカーで聞こえるようにセット。高音で秒を告げるカウントを聞くと、やがてそのときが来た。

「ホアちゃん、2021年明けましておめでとう!」ところがホアの反応が悪い。「どうしたの?」「圭さん、せめて1時間後にしない」「え?どういうこと」

 ホアは淡々と答える。「だって私の生まれ故郷のベトナムは時差が2時間。だから間を取って1時間後が良くない」
 ホアがあまりにも変なことを言う。慣れているとはいえ戸惑う圭。「あ、ああそういうことね。でもそれなら2時間待つよ」「え?いいの」「だって1時間後だったら中国の新年だよ。ホアちゃんが嫌いな」
「え、まあ、あの国は日本とベトナムの間にあるから仕方ないじゃん」ホアは不愛想に返事する。

「だから、2時間待とう。といってもその間何しようか」「ネットしてたらすぐに過ぎるんじゃない」とホア。そっけなく返事したら、そのまま振り帰りパソコンの前で何か操作し始めた。
「まあ、そうだけどなんだかなあ」圭はどうも納得できない。ホアに対して最大限の妥協をしたつもりだ。スマホを見るとすでに世間ではSNSを中心に「あけましておめでとうございます」というキーワードが多数流れているのに、2時間お預けとは不思議で仕方がない。

「なんとなく気分が削ぎれるなこの2時間」ホアは楽しそうにネットを見ているが圭は不満が募る。
 仕方がないからとひとりでキッチンに行くと、日本酒の一升瓶を取りだした。「酒でも飲んで待つとするか」といってグラスに日本酒を注ぐ。
 そしてホアに聞かれないように頭の中で「2021年おめでとうございます」とつぶやくと、コップの酒を飲む。口当たりから辛さを感じる日本酒の味。 
 喉にと通ればその場所が熱くなる。普段は晩酌をせず、正月だからと買った酒。飲みなれないためか、飲んだ後は体全体が火照る。
「このまま飲んでいたら2時間持たないな」圭はそれを警戒した。とはいえやることが中途半端で落ち着かない。仕方なく座って時間を立つのを待つ。

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「圭さん!」圭はいつの間にか眠っていた。ホアの大声で目が覚める。「あれ、寝てたみたい」「早く起きて!もうすぐ午前2時よ」
「あ、そうかベトナムのカウントダウンか」すでにホアはグラスの4分の1ほど圭が飲んでいたのと同じ日本酒を入れていて笑顔になっている。それを見た圭も慌てて酒を注ぐ。

「さて、あ、あと1分だ」「はい、圭さん準備OK」こうして時間が刻一刻と過ぎていく。再び117を押して時報を確認する。「ただいま午前2時ちょうどをお知らせします」とのアナウンス。2時間前と同じ高めのカウント音。そしてふたりは声を出す。「バー(ba:3) ハイ(hai:2) モッ(một:1)chúc mừng năm mới.(あけましておめでとうございます)!」と、ベトナム語で新年を祝う。そのまま酒の入ったグラスを傾けて口に含んだふたりであった。


2021年の目標「年賀状を兼ねて」

 新年あけましておめでとうございます。今年も昨年同様、ほぼ毎日掌編短編小説を執筆していきたいと思います。

 昨年1年間この小説を執筆するようになって、はっきり言えることは自らの小説の創作能力が上がったように思います。継続は力なりと言いますが、それは本当の事なのだろうと。

 そしてもうひとつこれは今年の創作の目標です。実は昨年暮れまで私の中でわからないキーワードがありました。それは掌編小説と短編小説とショートショートの違い。調べても明確な定義がわからず人やサイトによって考えがバラバラ。大まかなイメージがわかってもピンときませんでした。

 その中でも短編小説は長編小説とを分ける意味で、おおよそ2万文字以下の小説で使っていることがわかってきました。その上が中編で10万超えると長編のような意識です。そしてその短編の中に「掌編小説」と「ショートショート」が入っているようで、そんなことを考えていると次の記事を見つけました。

 みこちゃんのこの記事は純文学と大衆文学についての記述です。これを読んで私はなんとなくわかりました。おそらくは純文学が掌編小説で大衆文学がショートショートではないかと。

 それをまとめて表にしてみました。

純文学と大衆文学比較

 人によって「これは違う」と言うのもあるのかもしれませんが、みこちゃんとのコメントのやり取りでおおよそこんな認識で間違いないと結論付けました。

 私はどちらのスタイルでも書けるとのことですが、今年もし新しいチャレンジをするなら、掌編小説の特徴を持ったショートショートというハイブリッドな短編小説を書けたら面白いいかなと持っています。
※しっかりしたストーリーがありながら情景とかがわかるようなもの。

 以上、年賀状の代わりとさせていただきました。本年もよろしくお願いします。


こちらもよろしくお願いします。

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シリーズ 日々掌編短編小説 346

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