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政宗!松島へ ~都道府県シリーズその5 宮城~

「政宗君、仙台に来てどう」松島美咲にそう言われ、あえて冷静を保ちながら、内心不安定なのは伊達政宗。駅前の仙台朝市にある名物のずんだ餅をじっくり食べていた。
「もういいよ!ていうかこの後はお前の所に行くからな」彼は仙台を拠点にした有名な戦国武将と同姓同名である。この伊達家とは無縁であるが、同じ苗字の父親がこの武将の大ファン。ついに自分の息子に禁断の「政宗」とつけてしまったのだ。

 それは政宗にとって、苦難の始まりである。当然子供から常にそのことがネタになり、なじられるきっかけにもなった。あだ名は「独眼竜」をはじめ「仙台」「殿」とかそういうものならまだしも、「片目」とかいうものまでいる。みんなの前では笑顔で応じるも、内心不快で仕方がない。ときには傷を負うこともあり、彼にとって同姓同名の戦国武将のことは少しトラウマでもあった。

 そんな政宗を心配してくれたのが、今の恋人・美咲。ふたりとも埼玉の所沢出身なのに、苗字名前から宮城の関係者のように言われてきた。そんなふたりがgotoトラベルを使って、初めて仙台旅行を敢行。1泊2日で仙台と松島を回ることにしていた。

「しかし、美咲ちゃん。俺たちにとっては一度は行っておくところは間違いない」「そうよ。昨日初日に青葉城の政宗像を見たり、墓所の瑞鳳殿を見たりしたとき、結構政宗君真剣だったじゃない」美咲に突っ込まれ、苦笑いを浮かべる政宗。ずんだ餅の最後の日と口を平らげた。

「まあな。でも彼とは赤の他人だし。向こうは有名人だから、これまで避けてたけど、やっぱ仙台に来たら気になるよ。やっぱ他人のような気しなかったもん」

「政宗君食べた。つぎ行きましょうか」
「おう。そうだ、今までは俺のばっかだったけど、これからはお前のな。あとどうでも良いがここ『朝市』って書いているけど、夕方までやっているらしいな」

 美咲は先に席を立ち、伝票を手にした。「もう仙台朝市のことはどうでもいいから、早く。行くわよ」といって先に歩く。慌てて政宗がついていった。
 仙台朝市から松島に向かう仙石線の始発駅、青葉通り駅はすぐ近くだ。駅に到着して電車に乗り込む。「おい、松島って日本三景らしいな」
「あとは宮島と天橋立。いつか行きたいわ」席に座ってからも初めて見る松島のことが気にあるふたり。

 いつしか電車は動き出し、仙台駅から東に向かう。気が付けば仙台市を離れ、多賀城、塩釜と続いていく。このあたりからいよいよ海が見えてきた。そして東北本線が並行して走っている区間。しかし、なぜかお互いの駅の接点がない。
 おなじJRとは思えない駅の配置は不可解だ。とはいえいわゆる「乗り鉄」ではないふたりはそのようなことより、目の前に広がる海が気になって仕方がない。

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「着いたわよ」美咲がいうように電車は松島海岸駅に到着する。「仙台と違って自然の風景はいいなあ。まるで美咲みたいだ」「え、どういうこと?」「なんというか大らかなんだ。俺は戦国武将と同じ名前でついつい落ち込む小さな男だけど、美咲ちゃんはいつもやさしく俺を包んでくれる」
「まあ、何?急にお世辞っぽいこと言って、そんなのいいから早く行こ!」

 美咲にせかされるように政宗はついていった。駅の先に広がる松島グリーン広場と言う大きな公園を右手に見ながら進んででいく。ここには松島博物館、松島遊覧船乗り場など見どころが豊富。
「あとで瑞巌寺も行こうね。政宗由来の」「ここもか、本当にどこでも俺と同じ名前の... ...」気にはなるものの、負担になるその名前。政宗はため息をつく。

 ふたりが松島で最初に向かったのは福浦橋であった。「私の苗字と同じ松島に来るんだったら、絶対行きたかったところなの」「へえそうなんだ」
 福浦橋は赤い橋である。同様の橋が松島に3か所あるがこの橋が最も長い。全長は252メートルあり、徒歩だけで対岸の福浦島とを結んでいる。また有料の橋でもあった。橋の入り口を撮影すると、ふたりは仲良く橋を渡っていく。

「対岸まで来た」「ところで、この橋ってであい橋と言う名前なの」「ほう、出会いか。と言うことはこの景観との出会いだな」
「でももうひとつのうわさがあるんだけど。言っていい」ここで真顔になる美咲。
「何?気になるな」「この橋をカップルで渡ると別れるという伝説があるの。縁切りの橋っていうらしいわ」ここで政宗の顔色が瞬時に変わる。

「おい、美咲待て、俺お前と別れるの嫌だよ!なんでこんなところに連れてくる!」ところが、ここで美咲は急に口元と緩める。「アハ!政宗君らしいリアクションね。それって実はデマなの」
「え?」
「本当は、まったく逆で、絆(きずな)の橋と呼ばれているほどで、良縁との出会いの橋。悪い縁を切るという意味では駅の近く渡月橋だし、あと真ん中にある五大堂の透かし橋にいけば、結ばれるらしいよ」

「おい、そこ行かないか?俺やっぱり美咲以外は考えられないよ」相変わらず真顔の政宗。「政宗君。ありがとう。私もそうよ」というと美咲は政宗の手を握った。
「ねえ、政宗君」「何?」
「ちょっとおもしろいこと思いついたんだ・やっていい」
「何するんだ。縁云々の話ならもうやめよう」
「違う、ちょっとね」

 そう言うと、美咲は持っていた筆ペンを取り出す。スケッチブックに何か書き始めた。

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「なに、これ俺と同じ武将のことじゃないか」「そう、なるわね。先月創作墨字って言うのをネットで見つけたの。見てて楽しそうだから、でちょっと遊んでみようとおもってね。見よう見まねで書いちゃった。読み方は『だてまさむね』で決まりかな。あ、政宗君的には微妙?」
「うーん、漢字の一部違うから『どくめりゅうせいしゅう』でも良くないか。よし、なら!」「え?」「俺にも書かせてくれないか。その創作墨字っていうのを」

 美咲は一瞬驚いたが、すぐに筆ペンとスケッチブックを政宗に手渡す。政宗はすぐに書き始め、あっという間に書き上げた。

松島

「何これ!そのまま『まつしま』じゃん」「俺のと同じようなものだろ。島を嶋にアレンジしただけでも良しとしないか」

「いいわよ。お互いの創作楽しかった。じゃあ次はどこ行こう」と言って甘えた声を出す美咲。政宗はそんな可愛い美咲を見て笑顔になりながら、スマホで近くのスポットを探すのだった。


こちらの企画に参加してみました。

おまけ:レイアウトが変わったようですね。

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多分上が、元トロフィーで下が元クラッカーと思いますが、逆になっているように見えますし。とにかくいろんなバリエーションが増えたんでしょうね。

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こちらもよろしくお願いします。

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シリーズ 日々掌編短編小説 315

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