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雨の日をたのしく 第1172話・6.6

「そうか、これだな」私はついに見つけた。さっそくネットで販売していた服を購入する。そして数日後にその服が無事に到着した。さっそく私はそれを開けてみる。「これ、これからなら始められるわ」
 そこにあるのは女性用のある制服であった。白い上着と青いスカート、そしてそのスカートに合わせた青いネクタイがついている。ではなぜ私がこの服をネットで購入したのか、それは私が憧れていたコスプレイヤーになるためだったから。

 以前から私はよくアニメなどのキャラクターになりきっているコスプレイヤーにあこがれていた。各々が好きなキャラクターのいでたちになり、そしてそのキャラクターになりきって撮影を行っている。「私もあんな変身してアニメのキャラになりきってみたい」いつしかそう思うようになっていた。

 だが私にとってはある大きな壁がある。それは「恥ずかしさ」だ。基本的に私は恥ずかしがりやで、人前で発表するのが大の苦手である。だから壇上に立つと非常に緊張して声が上ずったりした。だけどそういうやらねばならぬ場合は仕方なくやってはいるが、普段から好んでやりたいとは思わない。

「だけど、恥じらいを捨てなければ」私はコスプレイヤーになるために、「恥ずかしさ」という壁をいつか乗り越えなければと思っていた。そんな矢先にネットで販売していた制服を見つけたのだ。
「まずこれを着て街を歩いてみよう。そうすればいつかアニメのキャラクターも」
 そう思って購入した制服。もちろん私の今の職業とは無縁のものであるが、無縁であるから余計に気になったのかもしれない。

「今日は、一日中雨ね。ちょうどいいわ」私は梅雨空で朝から雨が降りしきるこの日、ついにこの服を着て外出すると決断した。雨の日にわざわざ出かける理由は、恥ずかしがり屋の私にとって、着たこともない制服姿で青空が広がっている晴れた街を歩くことなどできない。とても恥ずかしくて一歩たりとも歩けないだろう。だが、雨の日であればみんな傘をさすし、レインコートを着用する。視界が雨で見えにくい。この三拍子そろったこの日こそ、私がコスプレイヤーとしての第一歩を踏み出すまたとない日なのだ。

「あの駅のトイレで着替えるわ」私は紙袋に制服を入れると家を出た。ある駅のトイレで着替えてから町歩きを楽しもうという魂胆だ。
「さ、着替えるわ」駅に到着して、さっそくトイレに入った私は着替えようとしたが、突然襲ってくる全身からの恐怖心に全身が震える。
「や、やっぱり恥ずかしい」私は一瞬止めようと思ったが、ここは思い切って頑張ることにした。でなければ一生コスプレを楽しむことなどできないと考えたからだ。

「だめ、先に」私は着替える前に先に用を足した。それから改めて着替えを開始。私は服を脱ぐ時も内心心臓の動きが耳元まで聞こえているのがわかる。そしてついに制服を着た。この服自体に袖を通したのは今回が二回目だ。一度目は自分の部屋出来てみた。その時、鏡を見たときに私はサイズがちょうどでホッとしたのと、まるで自分ではない不思議な感覚を味わえたのが楽しかったのだ。「今度は外で来てみよう」と、決心したのを覚えている。そしてついにその時が来た。

「よし、これで着替えが終わったわ」無事に制服に着替えた私は、トイレを出る。
 すぐに駅の外に出て傘をさす。「これなら緊張しないわ」ちょうど雨脚が強くなり、雨の音が激しく聞こえる。多くの人は雨をよけようと必死になって駅の屋根を目指していた。中には傘を忘れたのか、ずぶぬれになりながら走っている人もいる。

 私はそんな人たちとは無縁に傘をさして街を歩く。その間、激しい雨との格闘になったためか、私の「恥ずかしさ」を感じる余裕はない。制服姿のまま街を歩く。みんな自分のことで精いっぱいなのか、だれも私のことを気付かない。

「そろそろ帰ろうかな」私は20分くらい雨の街中を歩いたが、風が吹き、傘を掻い潜って侵入してきた雨水によって少し濡れたこともあり、コスプレデビューを止めることにした。
 雨は一向に止むことはなく、さすがに私も濡れているのを感じながら駅に向かう。駅に向かって傘をたためばトイレに一直線。こうしてトイレに入ると私は、ようやく気持ちが落ち着いたのか大きくため息をつく。

「さ、着替えよっと」こうして私は制服を脱ぎ、私服に着替えて外に出る。
「20分くらいだけだったけど楽しかった。これなら少しずつ慣れていくわ」私は手ごたえを感じた。今度は晴れた日に、この制服姿で堂々と町歩きをする。そうすればコスプレイヤーとなってアニメの衣装を買えるに違いない。やがてコスプレの撮影会のようなイベントにも参加できるだろう。

「でも、アニメのコスプレの時にも」私は帰り際、止むことのない雨を車窓から眺めながら、初めてアニメのコスプレを着るときは雨の日にしようとすでに頭の中に思い浮かべるのだった。

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シリーズ 日々掌編短編小説 1172/1000
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