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歴史のパラレルワールド本能寺

「じいちゃん、どうしたの?」大学生の大樹は大好きな祖父・茂にメッセージで、部屋に呼び出された。「おう、悪いな。ちょっと大樹に見せたいものがあるんじゃ」と言って茂はスマホを大樹に見せる。

「これは、何、小説?」大樹の質問に茂は小さくうなづく。
「そう、歴史小説を考えてみたんじゃ。公開する前に大樹に読んでもらおうって感想を聞いておきたい。それで大樹の反応を見てどうするか決めようと思う」

「ああ、そういうことか」

「遠慮はいらん。とりあえず読んだ感想が欲しい。それで大樹が納得すればネット上で公開しようと思っておる」
「わかった、じゃあ読んでみるよ」そういうと大樹は茂のスマホの中に表示されている小説の原稿を読み始める。

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 天正10年6月2日早朝。ここは京都・本能寺である。家臣の明智光秀による謀反により、織田信長は突然迎えたピンチのさなか。
「おのれ、光秀め。この第六天魔王・信長に弓を引くとは! このような奴は八つ裂きでは物足りぬ。手足を切断して丸一日苦しみを与えようモノを。だが不意を突かれた。軍勢が全く足りぬ」
「信長様、奥へ!」「蘭丸か、よし少しでも可能性に賭けてみよう」森蘭丸に案内されるように信長は奥の部屋に向かう。
「とりあえずわずかな手勢ですが、信長様のために最後まで」「ああ、ようやってくれておる。しかし残念であった。天下統一まであとわずかと言うときに、くっ」
 信長は普段見せることのない涙を蘭丸の前で見せる。そして最期の瞬間までの間、今までの生い立ちや戦ってきたことを頭の中で回想した。

「そこにおるもの何奴!」ところが信長は目の前の畳に殺気を感じとり、回想は突然中断。そして怒鳴りつける。すると畳が浮き上がり、そこから黒装束の男が現れた。

「私はイズと申すものでございます」「伊豆?さては光秀の手のものか」そういうと信長は刀に手をかける。「違います、私は信長様の命を救いたく、ただいま本能寺からの抜け道を用意したのでござります」
 イズと名乗る男は冷静に語る。驚いたのは信長と蘭丸。

「ぬ、抜け道じゃと」「は、左様でございます」
 だがイズが語っている間にも、すぐ近くまで光秀の手のものが迫ってきたようだ。戦いの最中に出るお互いの怒号、刀同士がぶつかる金属音が響く。そして障子に大量の血が弾け飛び、赤く染まった。

「お急ぎください。まずはこちらへ」イズに促される信長。「是非もない」と言って、イズについていくように畳の中に入る。蘭丸も続くが、その際に部屋に灯されていた燭台をわざと倒し、畳に延焼させた。

「こちらです」「なんじゃこれは」 畳の下は空洞が広がっている。そしてイズに案内された場所を見て、信長は驚いた。大きな金属でできた蛇腹のチューブのようなものがずっと斜めに、地中深くのほうに続いている。見たこともない光景。「貴様、いったい何奴!目的はなんじゃ」「信長様。詳細はあとで申し上げます。とりあえず安全なところまで急ぎましょう」
 イズに言われた信長は、蘭丸とともにチューブのトンネルの奥に向かって走り抜けた。

 このとき、先ほどまで信長がいた本能寺の奥の間から出火。と同時に信長側の手勢は全滅。信長の遺体こそ発見できなかったが、燃え広がる本能寺を見て信長の死を確信したのは光秀である。「これで魔物は消えたな」とつぶやくと、口を緩ませ白い歯を見せながら、不適な笑いを浮かべるのだった。

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「うゎあ、これ面白い。織田信長を助けたのがイズ。え、これ僕たちの苗字じゃん」

「ああ、せっかくだから利用させてもらった。ワシらの先祖が信長を救ったようじゃな。ハアハハハ!」茂は大声で笑う。

「まあそれはともかく、でも面白い。タラればだけど、この後どうなるのかワクワクするよ」
「じゃろ、有名な本能寺の変では、本来であればそこで織田信長は死に、そのあと豊臣秀吉の時代になる。じゃが、もし信長が死んでいなかったらどうなるかじゃ。空想じゃけど考えただけで面白くないか」

「うん、いいと思う。僕はそんなに歴史のこと詳しくないけど、それでも楽しそう。そこで死んだと思っていた人が生きてたら、その後の歴史も大きく変わるんだろうなぁ」大樹は茂に尊敬のまなざしを送った。

「で、じいちゃんこの後どうなるの?」嬉しそうに大樹が質問するが、茂は真顔になる。「あ、それは、まだ考えておらんのじゃ。さてどうしたものか。大樹、何か良いアイデアはないじゃろうか?」
「え、い、いや僕わからない。小説とか書けないから。それは相談に乗られても」大樹は慌てて首を振る。
「ダメか、若いから面白い発想を期待したんじゃななあ」
「う、うんゴメン。あ、演奏の練習をしないと、じゃあね」と、大樹は逃げるように部屋を後にした。

 部屋であとに残された茂。
「さて、ここからじゃ。どうしたものかのう。これじゃ導入部分で終わりじゃわ」と言って腕を組み目をつむるのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 304

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