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我慢の限界 第681話・12.4

「どうしてくれようか!」俺はイラ立っていた。俺はどちらかと言えば、本来我慢強い人間である。だが今日は違う。明らかに「我慢の限界」という言葉が脳裏に焼き付いていた。
「あいつの話に乗った俺が悪い。クソ!」俺は心の中で叫んだ。本当は声に出したいくらいイラ立っている。しかし俺は我慢強い。だから歯を食いしばり声には出さないのだ。

「これだけイラついているのを抑える方法はどうすれば」俺の怒りは瞬く間に、瞬間湯沸かし器のようになってきている。「元々といえば」俺はこのような事態なったきっかけを記憶上から追いかけた。追いかければどこかでこの問題を修正できる何かがある。俺はたとえ激しくイラ立っても、まだ冷静さをかろうじて持っていた。

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「おい、面白いことやらないか」悪友というべきあの男がすべてのきっかけ。俺は警戒したが、あいつは口がうまい。どういう技を使うのかわからないが、俺の警戒網をあっという間にほどいてしまうのだ。気が付けば逆に安心感を植え付けてしまう。
「あいつの前世が詐欺師だとしか思えない」俺はそう思っている。そして今回も旨くあの男に乗せられてしまった。

「おもしろいこと?」「簡単なことさ、みんなで和風のコスプレをやろってこと」「コスプレ、そんなのこの前ハロウィンでやったじゃんか」
 すると男は西洋人のように人差し指を左右に振る。「甘いね、ハロウィンは仮装。それもお化けや妖怪、ゾンビとろくなもんじゃねえ。じゃなくてよもっと正統派のコスプレをやろうっていうことだ」

「正統派ね」「実は俺の知人にそういう衣装を専門に扱っている男がいてさ、この話をしたら『おもしれえ、和風コスプレやりましょうか』と言ってきたんだぜ」
 俺はこのとき何の疑問も持たない。完全に男のペースにはまっていたんだ。
「わかった。じゃあどんな衣装を着ればいいんだ。でいつやるんだそれ」
「衣装は知人の都合があるから、3日前にくじで選ぶ。それを伝えて当日用意してもらおう」

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「あそこで断ればよかったのに、チッ」俺は今さらながら後悔。それもイラ立ちを増幅させる。自分自身への怒りは自分にぶつけるしかない。俺は自分で自分の顔を左手右手と2回平手打ち。「イテ!自分でたたいても痛いわこれ」おかげで目の下がピンク色に染まってしまった。いやそんなことは大したことはない。「問題はこのイラ立ちの元を絶たねば」俺はまた過去を振り返る。

 3日前に男の主導でくじを引いた。俺が当たったのは公家の格好だ。「クゲ、なんだそれは。侍の方がいいぞ」
「くじで選ばれたんだ。我慢しな。公家は一応一番位が高いんだからいいじゃねえかよ」男はそう言って笑った。

 こうして迎えた当日、俺は約束の場所に来たが誰もいない。「あれ、時間」俺がここでミスってしまう。俺は14時に集合と思っていたが、実は午後4時の間違いだと気づいた。
「2時間もどうするんだ」「早く来られたんですね。衣装ならもう着ていただいて」と衣装レンタルの人はいう。「そうですね。先に着ておきましょうか」 
 俺は何の疑問も持たずに公家の衣装にそでを通す。だが俺は公家の服装などしたことがないから、そのほとんどを衣装の人が手伝ってくれた。

「いやあお似合いですな。マゲも決まってますぞ」と衣装を貸してくれた人は言うが、俺は「ふん、適当なことを言って」と心の中でつぶやき、相手にしない。「あ、すみません。ちょっと一件用があったんです。皆さんが来る午後4時にまでには戻ってきますんで、ちょっと出かけてきます」その人は俺が公家の格好をしてから10分もたたないうちにどこかへ出かけた。

「やれやれ、あと1時間半か。あいつら来てから着替えてからだから、もっと長いかな」俺は着慣れぬ公家の格好をしながらも、公家になりきった。「マロ、マロ」などと独り言で遊んでいたが、いつしかそんな冗談が言えなくなる。
「う、急におなかが、と、トイレ」このとき俺は致命的なミスをした。 
 まずトイレの場所を聞き忘れてしまう。さらにこの衣装にトイレで用を足すための穴があるのかどうかわからない。「確かふんどしのようなものをつけた。え。それって」俺はこのときの衝撃で、おなかに痛みが走る。「か、下半身が!」どうやらお尻の方がムズムズし始めた。

「衣装の人が帰ってくるまで」俺は衣装担当が戻ったらいったん着替えてトイレに行こうと考えた。だが10分経っても戻ってこない。俺は我慢強い。「助けが来るまで我慢だ」と、おなかに力を入れた。幸いなことにおなかの痛みは途中で収まったようだ。しかし、お尻の方のムズムズ差は解消しない。俺は何度も肛門に力を入れる。だがそれもいよいよ厳しくなった。
「ちくしょ、俺は我慢の限界だ!うぐううああ」

 ついに俺は声を出した。「もう限界、ああああああ!」
 大声を出した俺はたまらなくなり、走る。外に出て駅に向かう。苦しみながら、そして慣れない雪駄を履いているために、十分な速度で走れないまま、どうにか駅のトイレに入った。もちろんこんな公家のコスプレしているから、外では注目は集まるが、そんなこと言っている場合ではない。「ま、間に合った」
 俺は強引にお尻の穴を出すことに成功。こうして衣装を汚すことなく用を足せた。

 だが、そのあと俺はトイレから出られなくなる。「これどうやって着たらいいんだ」俺は強引に脱げたが、強引にやったから元々どういう風になっているのかわからない。再び元のようには着れないのだ。「これどうすれば元に戻れる」外に出て戻る間だけの視線だけでも大変なのに、ズボンのように気軽に履けない。「ど、どうしよう」俺は悲壮感を帯びた表情で、再度の我慢が始まってしまった。




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