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彼女のために何ができる。 #誰かにささげる物語・小説 第906話・7.18

「俺はいったい彼女のために何ができるのか?」
 俺は、義姉のことがいつも気になっていた。ふたつ年上の兄がこの世を去って間もなく3年。義姉といっても俺よりふたつ年下だが、彼女には小学2年生の男の子がいる。
 ところが男の子は不登校。いろいろ複雑な理由があるようだ。恐らくは兄が交通事故で突然なくなったのも影響しているかもしれない。
 義姉はひとりで男の子(俺から見たら甥)を育てているが、やはり片親ということもあって何かと苦労しているのがわかる。甥が不登校になってからは、俺に相談する機会が増えてきた。
 義姉は生活のために毎日仕事に出ている。だからであろうか?ある日のこと、自宅をオフィスにしている俺に、甥の面倒を見てほしいとの依頼があった。俺は快く引き受けてると彼女は本当に嬉しそうな笑顔を見せる。
 このときの俺には「兄のために」という思いもあった。こうしてこの日以降は甥と接する機会が増えている。

 義姉が俺に相談したのは別の理由があった。義姉の実家は両親を早くからなくしており身寄りがない。ところが俺の両親ももういないのだ。母は物心ついた時にはいなくて父と兄の3人で生活していた。その父も兄の結婚を見届けるとその年のうちに他界。つまり相談できる肉親が彼女から見て義弟にあたる俺しかいないということ。
 ちなみに兄夫婦は、父の死後に相続した遺産を使ってマイホームを近くで建てた。父が住んでいた家は俺が相続し、そこををオフィス兼住居にしている。お互いの家は近所にあり、歩いて5分かからない。ちなみに俺はまだ独身で、兄と分けた父の遺産を貯金している。

 こうして学校にいけない甥は、毎日のように俺の部屋に来るようになった。俺の仕事の邪魔をすることなく、おとなしく本を読んだりゲームをしたりしている。また父の形見として置いていたぬいぐるみを甥が相当気に入ったらしく、いつもそれで遊んでいた。やがて俺の仕事の手が空いたときには、漢字の書き取りや計算など簡単な勉強を教えはじめる。

 おかげで俺と甥とは本当に仲が良い。父親代わりで接していたこともあり、実の親子ではと思われるほどでもあった。だが、さすがに義姉の気持ちも考えずにそのようなことは言えない。義姉には身寄りがなく、かつ美人だからというのもある。正直なところ女性としてもだんだんと気になっていた。だがまだそのときではない気がしている。

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 あるとき俺は、気になるものを見つけた。それは特認校制度と言うものだ。よく見ると、自然豊かな環境に恵まれた小規模学校を中心にして、同地域内の希望した者で、審査に通過した者なら入学できる学校とある。
「不登校の甥に、ここを勧められないだろうか?」俺はそう思い、特認校を探すと同じ自治体内にあることが分かった。そこは俺や義姉の住んでいるところと比べて山のすぐ近くにあり、同じ自治体とは思えないほどの田舎。水もきれいなところだ。

「こういう自然の良い場所だったら、通えるんじゃないかな」俺は義姉に相談してみる。義姉も「このままではまずい」と内心思っていたらしく、「ずっと面倒見させてごめんなさい。考えてみます」と頭を下げる。そのときの義姉の表情をみたとき、俺の心臓に突き刺さる何かがあった。急に彼女を抱きしめたくなる感情が沸き起こったが、それをぐっとこらえる。

 こうして俺と義姉、甥の3人で特認校に行ってみて事情を相談。学校側も事情を理解してくれたので、入学(転校になる?)の手続きを行うことになった。

 それから3か月、ついに甥が特認校に行く日。当日は義姉も仕事を休み学校まで送りに行く。実は俺も一緒にと誘われたが、ここは遠慮した。
「一緒に行けばよかったかなあ」と一瞬後悔したが、やはりそれ以上はやめておこうと気持ちを戒める。

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 さらに3か月、不登校だった甥は新しい環境には本当に合っていたようで、不登校にならず毎日登校し始めた。義姉は笑顔で、休みのたびに会いに来てくれていつも俺に感謝してくれる。
 その笑顔も何とも言えない。見れば見るほど素敵な彼女。ただそれまで毎日のように甥が俺の部屋に遊びに来ていたのに、それがなくなったことで、平日は心の穴が開いたように寂しくなった。部屋には今でも甥が遊んでいたぬいぐるみが放置されたまま。

「学校が終わったら、毎日のように遊びに来ればいいのに」と思うが、そうなると「義姉のことを本当に」と俺の中で考える。
「どうなんだろう。誰かに相談すべきか、思い切って彼女に思いを伝えるべきか」俺はしばらく自問自答の葛藤が続く。だがいずれ結論が決まりつつあり、それを実行に移そうと思っている。
  俺はあるタイミングを見計らって、義姉を食事か日帰り旅行のようなデートに誘って、正直に想いを伝えよう。そして俺の人生を兄に代わって彼女と甥のために捧げても良いのではと。


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シリーズ 日々掌編短編小説 906/1000

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