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変な観光地 第856話・5.29

「変な感覚だ」私は列車を降りて「観光地」とされる場所の最寄り駅に来ていたが、どうも納得できない。観光地と言いながら観光地らしくないのだ。駅前には小さな観光案内所のようなところがあったので聞いてみると「ある場所を」と、案内される。
 駅についている地図を見ても「その場所」だけが紹介されており、他に観光名所が無いようなのだ。
「ここ、本当に観光地?ネットの情報だから騙されたみたいね」と私は思ったが、せっかく列車を降りて来た以上「その場所」がどういうところか行ってみることにした。

 さびれた町なのだろうか、そこは海沿いにあるようだがそこまでの足がない。路線バスのようなものはないようだし、タクシーのひとつでも止まっていればと思ったがそれもなかった。
 仕方なく歩く。スマホでチェックすれば片道30分弱のようだ。そこは住宅が続いている。ただ古民家とまではいかないが結構な年代が立っていると戸建て住宅が並んでいて、それなりに大きな家屋が並んでいる。そこを延々と歩く。スマホでMAPがなければ到底たどり着かないような場所。「なぜここが観光地?」と疑問を思いつつも、指示された行程通りに歩いていく。

 ようやくその目的地まであと5分の所に行くと、道端でひとりの人物が立っている。真っ黒な帽子を深くかぶり、サングラス、それからマスク姿で表情は見えない。黒っぽい和装のようだがそれを改良した服装で、怪しげな刺繍が施されていた。私は直感で「気味が悪い」と思ったので、早足でその人を通り過ぎようとしたが......。
「待ちなさい!」の大声。私は一瞬ビクつき、さらに先に進めようとするが、目の前にその人が現れて道をふさぐ。

「ちょっと、邪魔をしないでください!」私はおびえながらも大声で拒否するが、「待ちなさい。あの場所に行くのだろう」とその人は穏やかな口調で私を前に進めないようにする。

「な、なんですか一体?」私は相手の穏やかな口調を聞いて、少し安心したのか、今度はこちらがやや威圧的な声で圧倒してその場をやり過ごそうと考えた。

 すると「私はこの地域の語り部である」とその人は言い出す。「語り部......」語り部と言えばこの地域の歴史や文化に詳しいことになる。そもそもこの場所がなぜ観光地なのか?たとえ観光地だとしても見るべきスポットがひとつしかない。そのうえそこに向かうにはバスやタクシーもなく歩く必要がある。さらに、土産物店もありそうなものだがそれすらない。

 だから私は、この「語り部」と称する人物の話を聞くことにした。私は前に行くのをやめると、「では、いろいろ教えてくれるのですね」と言えば、語り部は大きくうなづき。その名の通り語りだす。

 語り部は歴史の話をするが、小難しくて私にはほとんど理解できない。わかったことはこの場所は相当古くから人が住んでいたこと。その場所はやはり地域の人からは神聖な場所と思われていることが確かなようだ。だた神社なのではない。

「確かに地味なところではあるが、行く価値はあるだろう」と語り部。すると語り部は、一冊のノートを手渡してくる。
 語り部に言わせれば、そのスポットを見た感じたことをそのノートに書いてほしいという。語り部の眼光は鋭い。下手に断って怒らせると、ちとヤバそうだったので、私は従うことに。こうしてようやく語り部は先の道を開けてくれた。

 その語り部と別れいよいよスポットが近づいた時、私はノートにほかの人は何が書いてあるのかと見た。見たが驚いたことに何も書いていない白紙のノート。「どういう事?」私はこのノートを渡した「語り部」と称する人物のことを不快に感じたが、ここまで来た以上引き返しても仕方がない。そのスポットに向かって歩き出した。

「これ?」私がスポットの前に来ると大木が目の前に現れる。そこは海に突き出た岬で、まるで灯台のように立っている大木。樹齢は数百年経っているであろうことは素人が見てもわかる。
「神聖な場所というのはわかるわね」私はせっかくだからノートに何か書こうとした。「木でも描こうかな」私は目の前の大木を見ながらペンでスケッチを描き始める。
 しばらく木を描くことに没頭していたら突然後頭部を何かで軽く叩かれた気がした。「え?」私はさっきの語り部が来たのかと思い、ビクつきながら後ろを見たらまた別の人。その人は顔がはっきり見えていて角刈りで作業服を着ている。「はやくしてください!船が出ます」

「船?」私は頭が混乱した。この場所に遊覧船も含め航路があるような話は聞いていない。だがその人は私からノートを無理やり奪う。「ちょっと、それ!」「いいから急ぎなさい!」と私を威圧的に急かす。私は訳がわからないまま立ち上がり、その人の後を歩く。その人はただ大声で「急ぎなさい!」を繰り返す。私は疑問を口にはさむ余裕もないまま、木のあったところから急な坂を海の方に下る。下まで降りると小さな桟橋があり、そこには5・60人くらいが乗れる船が停泊していた。
「この船はどこに?料金は?」私は何度も質問したが、その人は、「早く!もう出航します」と言うだけで私の質問を無視。船の中には十数人が乗っていて、大人に混じって数人の子供も乗っていた。私は料金を払うことなく船に乗り込み席に座る。作業服の人物は前方の操縦室に入った。

 そのまま船が動き出す。スクリューの音をながら下船は沖合に進む。客席からも波を攪拌してできる白い泡の筋が見えていた。私は訳がわからないままその風景を眺めていたが。突然客席から悲鳴が聞こえる。私がその方を見たら、それまで笑顔で船から外の風景を見ていた子供が突然人形なった。「ええ?」私は目を疑ったが、そうこうしているうちに次々と子供が人形になる。人形になった子供には何か白っぽい液体のようなものをかけられていく。「液体をかけられたら人形!」客席は悲鳴と大混乱。私も立ちあがった。すると液体を発する銃を持った男の姿が見える。そいつは無表情で無差別に重から白い駅を発射し、架けられた人が次々と人形になる。私は船室から出てデッキに逃げた。とはいえここは海、逃げ場所がない。その間にもその男は無表情のままあらゆる人に振りかけて人形にしている。
 ところが、そこで男の後ろから馬乗りになった別の男が現れた。この男は体育会系のようで体格が立派。力技で男から銃を奪おうとしている。そのやり取りで、銃からの流れ弾ならぬ液体が、元々銃を持っていた男の顔にかかる。瞬時にその男も人形になった。馬乗りをした男はその銃を奪い取ると、そのまま海に投げ捨てる。「いったい何が起こっているのか?」私はデッキに隠れながら一部始終を見ていたが......。

「あれ?」気が付いたら私は、鉄道の車両に乗っていた。「夢?」と思ったが、眠っていた記憶がない。あたかも突然少し前の過去に戻ったようで、次の駅がその変な観光地の最寄り駅だ。

 私はその駅で降りるのをやめた。夢だとしたら嫌な予感だし、夢でなければ、この選択肢は普通にありえないだろう。
 鉄道の終着駅は誰もが知っている地方都市の中心駅。そこに降り立ち、エキナカにあるカフェで休憩をして落ち着いた私は、その変な観光地の情報を調べてみる。すると私は目を見開いた。その駅や地図の地形はあっているが、そこは観光地であることはひところも書いていない。大木のことも、船が運航しているという情報も。

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