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映画感想文 第1002話・10.23

「この前の映画の感想はと」俺は高校の国語教師だ。課外授業の一環として担当する生徒に映画の鑑賞を行ってもらった。その映画についての感想分を生徒に書いてもらう。1週間後に提出してもらい、映画の感想がどうなったのか見せてもらうことにした。

 ちなみに映画は自由に好きなものを見るように伝えたから、生徒によって映画の作品が異なるのだ。
 こうして生徒から感想文を提出してもらい、職員室でひとりひとりの感想を眺めてみる。
「えっと、A田の映画は、ほう日本映画で、これはまた渋い映画を見ているな」俺はこうしてひとりずつ映画の感想を読み。それに対して教師としての俺のコメントをつける。
「うん、なかなかしっかりと見ているな。感動シーンへのコメントも良い。さすがA田は優秀生のことだけはある」こうして俺はA田へのコメントを書くと、次はB杉の作品である。「こっちは洋画、ああ、今一番人気のだな。うん、アクションシーンが面白いか、まあそうだろう。ラストシーンがいまいち、うん、うん。なるほどね。まあ普通だが、こんなものだろう」
 実際にB杉が見た映画作品の感想を書いている生徒が多い、恐らく半数近くはそうではないだろうか?

 ただその中でも面白い感想を書く生徒がいた。例えばC川の感想だ。「何、映像技術が古いものを使っていた。ヒーローとヒロインのせりふ回しについても使い古されたもの。ほう、これはまた鋭い視点だな」一般的な感想とは違うが、それもこういう課外授業での醍醐味、生徒の個性が見える。
「セリフが使いまわされたものは、視聴者が安心するからな。まあC川はもっと変わったパターンのものが見たかったのかな」

 さて、映画にはメジャーな映画館で上映されるもののほかに、小さくてマイナーな映画館で上映されるものがある。そういう小さな映画館はマニアックな映画を上映していて、独自のファン層がいるのだが、うちの生徒の中にもそういうのがいた。D山だ。「アジア映画を見たのか。で、どこの映画館だ」
 俺も知らないような映画を見てきたらしい。だがこの場合は俺が最も苦労するパターンだ。なぜならば俺が知らない映画を見ているから、感想を書かれても、俺がわからない。作品名とあらすじのようなものをネットで探すしかなかった。でも、こういう個性的な映画を見るということは、おそらくD山はこれからいろんな映像作品を見るのかなと思う。

 それに対して困ったのがE岡。「あいつ、これ、まさか!」どうやら俺は、明日E岡を呼び出す必要があるようだ。「確かに映画だが、これはあいつの年齢って」それはいわゆるR18映画、成人映画である。
「E岡の生年月日は、そうか先月で18歳になるのか」年齢をクリアすれば高校生が見ても一応問題はない。「だけどよ、よりによって、この作品の感想を書くとは......」
 E岡は男女の絡みから、いわゆる行為そのものを細かく描写していた。まるで官能小説のような感想だ。「もう、こいつな、でも注意しないとダメだろ。ったく、もう」俺はため息をつく。

 こうして、すべての生徒の感想文を読んだが、ここで気づいた。ひとり足りないこと。「F西、あいつ感想文出していないじゃないか」
 俺は呆れて、明日問いただそうと思っていたら、「先生、これ、F西から届けてほしいと言われて」俺が声の主を見ると、F西の担任教師だ。
 担任に言わせると、俺の授業の時間では間に合わなくて、放課後に書いたらしい。
「直接、俺に手渡さずに担任を介したというわけか、まあいいだろう。よし最後だ、F西はどんな映画の感想文を書いているのかな?」

 俺はF西の感想文を見る。「な、なんだこれは?」俺は一瞬、目が真っ白になった。F西の感想文を見ると、作品の感想を書いていない。書いているのは映画館に行くまでの移動中に起きたこと。それから映画館に到着してからの受付をした人物の細かい描写。そのあとは映画館のドリンクメニューやフードメニューの事と、その価格帯について適正か否かの分析をしている。
「食べ物の原価率?なんでそんなこと」と思ったが、確かF西の両親は飲食店を経営している。将来はF西も後を継ぐことになるから、そういう視点が重要ということらしい。

 F西の感想は続く、いよいよスクリーンに入ってからの話となる。座席数と配置についてより細かく書いていた。「細かいな。調べたのか?」そのあとは、本編が上映される前の予告やCMについて細かく、「ほう、予告の中でも3番目に流れた○○が最も予告として完成度が高い。そうなのか、まあ予告の内容は上映作品を見てもらえるかどうかだからなあ。

「動画撮影など犯罪行為を紹介する動きについて、うん、なるほど」とここまで来て、いよいよ本編の感想が始まるのかと思った。
 だが次に登場するのはエンドロールについてである。「制作会社のロゴが面白い?なんじゃこりゃ!」俺は思わず声を出した。
 職員室にいる他の教師が一斉に俺に視線を合わせる。俺は「すみません」とひとこと謝った。「F西、これ映画の感想ではなく映画館の感想だよな」と、心の中でつぶやくと、小さくため息をついた。


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