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よみがえった画家 第665話・11.18

「う、ううずいぶん長く眠っていたのか。しかしここは?」男は目覚めたのは見知らぬ空間。男は記憶をよみがえらせようとする。銃の発砲音と同時に全身を襲った激痛を味わい、どんどん遠のいていく意識。恐らく死を迎え、完全に何もかもが消滅したと思っていた。
 だがわからないが、肉体は朽ちても魂は残っていたのだろうか?どこかに転生したようだ。男は目の前にあった手鏡を見つけると早速顔を見る。男は今まで見たことのない全く見知らぬ別の男の体、そして見たことのない服装を着ている。「生まれ変わり、いや、でもここは一体?」男はベッドを起き上がった。

「それにしてもいったい。これは金属でできているのか? 壁を見ると見たこともない幾何学模様。それに全体がシルバーグレー色した空間だ。お、上の明かりも見たことがない。そうか生まれ変わったんだ。俺の知っている生前の世界と違う。遥か未来に生まれ変わったんだ」
 男端からよみがえったことを純粋に喜ぶ。人生がやり直せそうな気がしたのだ。
「しかし生まれ変わるのはベビーや子どもからスタートするとは思っていたが」男は突然不思議なことに気づいた。体形もそうだし、通常生まれ変わりがあったとしても前世というか、死ぬ前の時代の記憶などはない。

 だが男は、明らかに銃声が響く前、そう生前の記憶が普通に残っている。「そうだ、思い出したぞ。俺は画家だった。絵を描いていたんだ。そうそう畑の絵を描いていた。大きく太陽のように光り輝くひまわりや、収穫のときの風景など、色んな絵を描いたんだ」
 男は記憶を失う前の記憶を次々と読みがらせる。「俺は絵を描くときがいちばん心落ち着く。そうだまた描けるかもしれない」

 男は起き上がると、外に出ようとした。「外の風景を見よう。そのあとは画材を集めるんだ。そうすればいつでも絵が描ける」
 男は希望に満ちて起き上がると、ドアに向かう。「うん、ドアノブがないのか。ならば力で」男は勢い良くドアに体当たりをしようと、走った。だがドアは男がぶつかる直前に自動的に開く。
「おお、そうなのか、自動的に開くのか、ずいぶん未来に来たんだな」男は外に出た。外も同じようなシルバーグレーの空間が広がっている。そして通路が続いていた。「トンネルのようだな。でも明かりがあるから大丈夫だ」

 男は廊下を歩いた。いったいどこにいるのかわからないままひたすら歩く。「何もない、これは要塞にでも閉じ込められているのか?」男は少しずつ焦る。やがて目の前が壁になっていた。
「ここまで来て行き止まり?戻るしかないか」男は後ろを見たが、殺風景な通路が続いている。「しまった!どこから出たのか忘れてしまった。こうも特徴がないと一体ここはどこなのか?」

 男は立ち止まって考えた。「いやまてよ。この先もドアノブのない自動ドアかもしれない。行ってみよう」
 男はそのまま歩いていく。そして行き止まりのすぐ近くに来ると、男の予想は的中した。行き止まりの壁は自動ドア。ドアが開くと通路とは違う広い空間が広がっている。
「よし、外に出たあれ?」男は外と思っていた場所が違うことに気づいた。天井には照明が光っている。そして同じようなシルバーグレーの空間だ。ただ遠くを見ると窓が並んでいる。「ということは、ここが玄関ホールのようなところだな。するとどこかに出口があるはずだ」
 男は、そのまま正面の窓に向かって歩き出す。「暗いな、夜か。まあいい。とりあえず窓まで歩こう」

 男はそのまま窓のある方を歩く。「そういえば今まで誰とも会っていない。いったいここは?」男はさらに前を歩いた。こうして窓の前に到着。そして男はその景色を見て思わず身震いをする。
「こ、これは!」男が驚いたのも無理はない。外は夜だが、下を見ても地面がない。上も同じような空間。どこか中に浮かんでいる建物の中にいるようなのだ。

「空を飛んでいるのか......」そして男は窓の外に見えるものを凝視した。それは球形の塊が見える。「一体」だがその塊は全体が暗いためかはっきりわからない。
「いったいどうなっているんだ」男は上を見た。するとそこには一枚の絵が飾られていた。「うん、どこかで見たことが」男は掲げられていた、ひまわりの絵をずっと見る。そしてひらめく。
「あ、これ、俺描いた絵だ。誰だろうこんな立派に飾ってくれて」

 やがて暗闇が少しずつ明るくなってきた。先ほどの球体も徐々に鮮明になってきた。「おお!」男はその球体を見て驚く。大小さまざまな球体が見えた。さらに明るくなる方向に強力な光の塊が見える。
「これは、もしかして宇宙空間では?」男は想像した。「まさか、かつて上からしか見上げられなかった星の中に、俺はいると言うのか、素晴らしい未来に万歳だ!」
 男はうれしさのあまり喜ぶ。その強力な光の塊は天井の照明よりもはるかに明るい。気が付けば天井の照明が消えている。そして聞いたこともない音楽が流れると『おはようございます。今日も一日頑張りましょう』との声が響き渡った。

「おい、そこで何をしている!」突然男を呼び止める声。男が振り返ると、全身が金属でできたような人型のものが立っている。「騎士のようなものか、それでは、あれは未来の甲冑」
「おい、お前は未来の騎士か?」男は話しかける。しかしすぐに返答。「何を言っている? 俺たちはAIロボットだ」「ロボット!」
「ハハア、こんなことをいうはずだ。貴様の格好を見る限り、重度の精神病患者だな。今わかった。お前勝手に病棟を抜けてきたようだな」「病棟を抜け出した! ここは病院なのか?」男は少しずつ今の立場が見えてきた。

「ここは宇宙病院だ。ドクターの指示で退院が決まり、迎えの宇宙船が来ない限り、貴様はここから逃げられないんだ」「宇宙病院か、未来だ」男は理解以上に、未来の世界のことに感動している。
「さ、お前を今から拘束するぞ。ドクターの指示があるまで、大人しく部屋に居ろ」男が周りを見渡すと、同じようないでたちの人型ロボットが4・5体いる。

「ちょっと待て俺は画家だ」「お前が画家だと?」
「そうだ、昔、あの絵を描いたんだ」男は先ほど見た正面に掲げているひまわりの絵を指さす。
「ハハハハッハ!」ロボットたちはいっせいに笑う。「あの絵がだれが描いたのか知っていているのか。あの絵は19世紀の昔に描かれたゴッホの絵だ、あの絵がどのくらい価値のあるものか知らないくせに、やっぱりお前は、精神障害を持っているようだな」

「ゴッホ...... そうだ。それは俺が昔呼ばれていた名前。そうか、今では俺の描いた絵が、そんなに値打ちのある絵になっていたのか!」そう考えると男は胸を張る。そしてこういった。
「これくらいは十分に描ける。だが今はこの風景が目の前にない。だから窓の外の宇宙空間の風景を描こうではないか」
「お、お前、本気で絵を描くのか」「ああ、だから画材を持ってきてほしい。そうすれば俺が画家であることがわかる」

 ロボットはしばらく固まった。どうやら彼らをコントロールしているところと交信を続けているようである。30秒の静けさが過ぎるとロボットは、周りのロボットに指示を出す。周りのロボットはいったん立ち去るとすぐに戻ってくる。それは画材道具であった。

「良かろう、では、今からここで絵を描くがよい。ドクターの許可が出た。絵を描くことはよい治療になるということだ。さ、描きな。お前がゴッホにどれだけ近づけるか楽しみだな」
 ほかのロボットたちは、男の前に画材道具一式を置いた。

「よし、描ける。久しぶりに描いてやるぞ。この壮大な宇宙空間をな」男は嬉しそうに画材道具を受け取ると、窓に向かった。そして手慣れた手つきで画材道具を準備し、窓の外の宇宙空間を描き始めるのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 665/1000

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