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雨の日のボウリング 6.22

「エドワード。今日も雨ね」英国人女性のジェーンはつまらなさそうに窓を眺めた。同居人のパートナー、エドワードこと江藤は、スマホとにらめっこしながら何度もうなづく。
「ああ雨かぁ。本当にうっとうしいなあ。こんなこと考えたら、雨季のある国の人たちなんて本当に大変だ」
 スマホの操作をやめた江藤は、立ち上がって雨を見る。決して豪雨のような激しい雨ではない。
「ジェーン。雨だけどこか行こうか」「エドワード雨の日に一体どこ行くの」美しい金髪を、かき上げながらジェーンの素朴な疑問。
「うーん」江藤は腕を組み窓を眺めたまま。彼のものと思われるうなり声だけが聞こえた。

「だったら私は体を動かしたいわ。家にいると体がなまって仕方がない」
 ジェーンはそういうと立ち上がって後ろで体を前後左右に動かした。いわゆるラジオ体操のようなもの。だが本物のラジオ体操の動きとは違い、ジェーンが好き勝手に創作しているものだ。

「そうだなあ。室内で遊べて、それなりに体が動かせるものか...... それだと何があるだろうか」江藤はいましばらく考える。
「あ、エドワード。近くに新しいレジャー施設オープンしたってチラシが入っていたわ」ジェーンは体操を止めると、そのチラシを取りに行った。
 江藤が声のほうを見たときにはすでにジェーンの金髪の後ろ髪と赤いスカートが一瞬動いているのが見えただけ。
「これ」ジェーンが手渡したのは駅前にオープンしたレジャー施設だ。「ああ、ここスーパー銭湯があったところじゃなかったのか。今何があるんだ」江藤はジェーンからチラシを受け取ると、視線をチラシに集中。江藤の鋭い視線がチラシの情報を舐めまわす。
「お、ボウリング場だって、ジェーン。ボウリングしようか」
「Oh!Ten-pin bowling」ジェーンは嬉しそうなジェスチャーを見せる。「そうか、だよな。英国は野外のローンボウルズがあるもんな」
「エドワード。ちょっと言い方が変ね。まあいいわ Let's go!」

 こうしてふたりは雨が降る中、傘をさして、ボーリング場のあるレジャー施設に向かった。

ーーーーー
 施設の中でもメインの扱いとなっているボーリング場は、人が多かった。それでも待ち時間がない。すぐにふたりはプレーできる。「そういえばふたりでボーリングなんてやったこと」
「エドワード記憶ない。意外に初めてかも」「そうか。じゃあスコアーはどのくらい」「忘れた。もう過去の話はいいわ。今どっちが点数取れるかが大事じゃないかしら」
 ジェーンはそういうと、勝手に先に投げたいとばかりにボールを取り出した。穴に指を入れて投げる前の姿勢。そのまま速度をつけて流れるようにボールを転がした。投げた瞬間は髪とスカートが動く。ボールは正面を順調に進み、そのままピンに直撃した。

「やった! ストライク」「うお! ジェーンやっぱり運動神経いいからな。どうやらこの勝負も決まったかな」
 江藤はこの勝負の行方はすでに決まったような気がした。江藤自身久しぶりのボウリング。極端に下手でもなければうまくもないが、いきなりストライクを見せられるとさすがに慌てた。
「まあいいや。投げ方はジェーンの真似をしたらいいんだな。よし」江藤は大きく深呼吸をするとボールを持つ。そしてジェーンのように助走をつけてボールを投げた。ボールはジェーン同様、真ん中を突き進む。ただジェーンより力が強いのか、スピードが速い。ピンはボールにぶつかると一斉に倒れた。これもストライク。

「やったあ!」真剣に喜ぶ江藤。「これは! エドワードなかなかやるわね」ジェーンは少しムキになった。

ーーーーーーー

 こうしてプレーがスタートした。実はふたりとも平均以上のテクニックはある。だがパワーというかボールのスピードは江藤の方が上。どうやらそれが影響したのか、ジェーンは何度かピンを残してしまう。結局湾ゲームが終わるとジェーンが168に対して、江藤は204とハイスコアーをたたき出したのだ。

「やったあ。ええ、200超えるなんて初めてかも」ひとりでうれしそうな江藤。その横で「おめでとう」と言いつつも、明らかに不機嫌なジェーン。十数秒後「次は私、本気出すからね」と強がりなことを言う。

 こうして2ゲーム、3ゲームと続いた。2ゲーム目はジェーンが162で江藤が180。3ゲーム目はジェーンが176で江藤が192と、いずれも江藤が勝利した。

「もう、悔しい。でもやっぱりボウリングはエドワードに負けたわ」
 ジェーンは怒りをあらわにする。ボウリングを始めるまでは江藤に勝てるという確信があったようで、よほど悔しいのだ。
「おい、ジェーンそんなに怒るな。ただのゲームじゃないか。というよりジェーンだって150以上取ってるから平均より悪くないぞ」江藤はそう言って励ますが、ジェーンにはそれがかえって不快。

「ねえエドワード!」「な、なに。ボウリングまだやるの」しかしジェーンは首を横に強く降る。腰近くまで伸びた金髪がすだれのように靡いていた。
「ここ、ボウリング以外のゲームできるの知ってた」「え、ああレジャー施設だからいろいろあるようだな」

「だったら、次はビリヤードで勝負しない!」「え、び、ビリヤード。あのボールを転がしながら落とすものだっけ。ジェーンは大きくうなづいた。「私ビリヤードは自信あるの。今度は負けないわ」とあくまで江藤に勝つ気満々。
 江藤はあきれた表情になりながらも真顔になり。「よし、わかった。いいよ付きやってやる。その代わり、俺もビリヤードはな」と言って、そこで言葉を止めた。
 ジェーンは「まさか! ビリヤードもうまいの」といった表情をしている。だが江藤は内心それを見ながら心で笑った。なぜならば言葉の続きは「やったことない」だったから。


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