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洞川食探訪 vol.6(書き手:菊池宏子)「美登里ちゃん特製・鹹豆漿(シェントウジャン)」

「みんな、疲れてると思うからこれ持ってって飲んでもらって~」
「毎晩ご飯大丈夫なん?」
「お風呂もつかってええんよ」
「せっかくのオープニングなんやから、龍泉寺の池きれーにするで~」
「困ったら何時でもいいけん、連絡しーてきー」
「ひろちゃん、昨夜道路で転んでたって聞いたで~大丈夫なん?」

なんだろう、ここ後鬼の里・洞川には、「人の優しさに甘えてもいいよ」っという言葉を耳元でささやく魔人(鬼?!)たちがたくさんいるような気がする。ポロッと発した声を拾ってくれたり、さりげない気配りをする洞川人に、鬼たちに、私はなんども救われている。

この一品も何気ない会話がきっかけだった。
九鬼祭では9名のアーティストそれぞれが創作パートナーと共に作品制作に取り組むが、私のコラボ相棒である美登里ちゃんとみっちゃんは、ご夫婦で陀羅尼助丸 松谷清造本舗を営んでいる。作品制作や仕事の合間をぬって、料理上手の美登里ちゃんはいつも私の食事のことを気にかけてくれる。

滞在中、毎朝作業をしに松谷家に帰ると「ひろちゃん、おはよう。朝ご飯たべる~?」と大きな笑みで、やさしい声で、私のことを迎えてくれる。私の野菜不足、枕が変わるとお通じに問題が・・・となったら、洞川で採れたキャベツたっぷりのサラダを毎朝用意してくれる。

キャベツのサラダ。アーティストたちの夜ご飯用にと。

ある晩、松谷家ご夫婦とご飯を食べながら海外旅行のことや好きな食べ物の話をする。そして、明くる朝、「ひろちゃん、おはよう。朝ご飯たべる~?」と、いつもの感じで目の前に現れたのがこの「鹹豆漿(シェントウジャン)」だった。昨晩の会話でちょっと触れた私の思い出深い大好物の朝ごはんが用意され、相変わらずの笑顔でサクサクと調理する台所のそばで胸が熱くなる。

お酢を入れる前の様子

「家にあるもので作ったんよ~」と言いながら、丁寧に刻んだ厚揚げ、青ネギ、ザーサイ、炒った干しエビに、レンジでチンした熱々の豆乳を投入する。食材から滲み出る出汁にちょろっとごま油、数滴ラー油をかける。そこに追い討ちをかけるように、お酢を入れ、ゆっくりとかき混ぜると豆乳が固まり始め、おぼろ豆腐のようにとろとろふわふわな食感に変わっていく。
あっという間に 美登里ちゃん特製の鹹豆漿が出来上がる。

「おいしいいいいいいいいいいい!!!!」

「実は私も好きでたまにつくるんよ。喜んでくれて、ほんと嬉しい!どう?味薄くなーい?」なんて言いながら、私の食べている様子を遠目に、美登里ちゃんは台所で、お客さんに配る手作りのきりこを袋詰めする。

今度帰ってきた時は、地元の山口屋さんと丸亀商店さんで、豆乳、厚あげ、薄あげなど買って、洞川仕込みの鹹豆漿をつくろうねって約束をする。

洞川にいると、味覚以上のものを得ることが多々ある。ここには、古くから引き継がれている素朴な食べ物から、環境省名水百選に選ばれるほどの名水や、ここでしか味わえない美食もある。しかし、年に数回洞川に訪れるようになって4年たった今、一番思うのは、洞川人の心を配る気持ちの風味が洞川の食文化をより魅力的なものにしているのだと思う。この街を訪れることがあれば、洞川人との出会いを所々で味わってほしい。心も胃も満たされること間違いなし!

おわり
九鬼祭参加アーティスト 菊池宏子
では、次の鬼へ、バトンタッチ👹

お店の前で。左:松清のみっちゃん、真ん中:松清の美登里ちゃん
撮影:上野千蔵


おまけ:完全自己流鹹豆漿の作り方ポイント!
作り方は様々ですが、工夫のしがいがある一品です。無調整の豆乳であればOK。豆乳を温める際に沸騰しないように気をつけましょう。また、酢加減、お酢を入れるタイミングも自分の好みに合わせて調整できます。いろんなお酢(白酢でも黒酢でも)を試してみるのも味にバリエーションがでるので実験する価値あり!具材の歯ごたえや香りを楽しみたい方は、揚げニンニクや揚げた大豆を砕いたもの、香菜(パクチー)などを添えてみてくだい。
そして本場台湾では、揚げパン(油條)と一緒に食べることが多かったのですが、今度は洞川のお土産品として長年愛されているかき餅(一冬かけて乾かした薄切りの餅を揚げたもの)やきりこ(お餅をサイコロ上に切って揚げたもの)で代用してみようと思っています!美味しい予感が。。。

施設情報
◾️名水とうふ 山口屋
吉野郡天川村洞川258
九鬼祭関連イベント「ドロガワうまあがなコレクション2023」に選出されています!

◾️名水とうふ 丸亀商店
奈良県吉野郡天川村洞川56

◾️菊田商店
奈良県吉野郡天川村洞川219
地元のスーパーです。鹹豆漿を作るための材料はほぼほぼ揃うはずです。キャンプ場で作って食べるのもオススメ。

◾️大峯山 陀羅尼助丸 松谷清造本舗
奈良県吉野郡天川村洞川152



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