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雑文

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のらりくらり。
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2016年12月の記事一覧

好きな人が好きな人について語る表情が一番魅力的に見える。最上級のパラドックス。守りたい、壊したい、抱きしめたい、〝それでも〟好きだ!全ての感情が集結する。誰にも知られることのない戦争が始まる。何を嘆くのだろう。自分は最初から負けている。名もなく死んでいく兵士のような。

コーヒー嫌いだったのに今年飲めるようになっていた。早寝早起きだったのに遅寝遅起きになっていた。男しか恋愛対象でなかったのに女も好きになっていた。人に文章を見せることをしなかったのに不特定多数に公開するのを厭わなくなっていた。孤独は辛いのに愉快とも思うようになっていた。

#変化

サンドイッチ

サンドイッチ

サンドイッチが好き。

死にかけて入院していたときでも、それなら食べることができた。

シャキシャキと歯応えある新鮮な野菜入りの、力が弱っていても咀嚼可能などこまでもやわらかいパン。

病室の白く無機質な壁と華麗な対照を成し、素朴な白さのパン生地は生きることを全肯定するような、憎いほどの包括力を発揮する。

吐くことも苦しむことも怖れず飲み込めた。純粋な笑顔で。

例えそうなるとしても、サンドイッ

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#2016映画ベスト10

海の上のピアニスト
きっと、うまくいく
ブエノスアイレス
ミッドナイト・イン・パリ
あと1センチの恋
ヴィオレッタ
チョコレートドーナツ
言の葉の庭
存在の耐えられない軽さ
僕は19歳だった

#2016本ベスト10

グイン・サーガ97
コンビニ人間
新プラトン主義を学ぶ人のために
ヘッセ詩集
カラフルなぼくら
ウエハースの椅子
整形美女
太宰治全集2
人生が変わる愛と性の哲学
夜空はいつでも最高密度の青色だ

告白すると、私は熱心な信仰を持っているんですよ。朝目覚めて夜眠るまで、さらには夢の中でまで、私を支配し惑わせ、それでも信じさせる存在がいるのです。それは、すっかり身も心も捧げた私をさらに煽るような、意地悪な神であります。私はそれにより、弱くも強くもなるのです。

#短文 #恋

貴女からの贈り物

貴女からの贈り物

よく実った良質のコーヒー豆を二年以上自然乾燥させ、熟成させたオリジナルのブレンドコーヒーを使用しております、と、和紙に似た質感の、茶色い紙に書かれている。トラファルガー色に一滴、ベージュを垂らしたような、落ち着いた茶色だ。つまり、死を告げるような冬の落ち葉色よりは、ずっと明るく穏やかだ。

その上質さ満点の説明文をひっくり返すと、そちらの面は伝票になっていた。カレーセット、コーヒーは食後、トータル

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新宿のダイニングカフェ

新宿のダイニングカフェ

観たい映画のために早起きと電車賃をかけて来たというのに午前の回から満席、というのが新宿の日常茶飯事であることは重々承知で、けれども年末ならば少しは空いているのではないかという泡のような期待は、やはり一方の憎い期待を裏切らずというべきか見事に弾け飛び、時間に殺されるより先に自分を確保しておきたい私は本来映画に捧げるべきだった野口英世を素敵なカフェを発掘するために行使することと決め新大久保沿いを沈んだ

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どうでもいいLINEができることでベッドにダイブするほど喜べた可愛い自分は迷子になり、どうでもよくないLINEをするにはあと半歩踏み込めない健気な自分は夜更けまでベッドに居座って眠ることもない。

#短文 #恋

いつまでも待ってるから、という失恋した後さらに畳み掛ける告白の言葉は、春の桜、夏の線香花火、秋の満月、冬の晴天程度の儚さであり、私はそれを強固なものだと思いたい。今回に限り。

#告白 #短文

運命共同体

運命共同体

どうしていつもチタンをつけてるの、と人が私の首元を見て問うのはきっと極めて自然なことであるだろうと言い切れるほど、私は毎日服を身に纏って大学に行くのと同様にチタンを首につけて生活している。既婚者が眠るときさえも指輪を外さないのと同じかあるいはそれ以上の運命で、説明するまでもなく縛られているものなのだ。
躊躇いなく私だけがそう言えることを私は誇りに思っているし、そう思うしか、頭に埋め込まれたチ

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暗記するほど読み込んでしまった過去の投稿をまるで初めてその人から聞くように頷くけれど、知れば知るほど初めて好きになった心地で目が醒めるのだからちっとも嘘じゃない。

#SNS #恋 #短文

捨てられないレシートがある。街に溢れるチェーン店で、そこだけ特別だったから。

#短文 #恋

ぼくは飛んでゆく

ぼくは飛んでゆく

ぼくは、彼女の兄と同じ日に生まれた。春はまだ遠い、寒い日だった。

生まれた頃、足取りはおぼつかず、目をきちんと開けて彼女を見ることもできなかった。彼女はぼくをそっと抱き上げて、つんつん尖った毛を撫でた。

彼女はいい匂いだ。ミルク味の煙草を吸っているに違いない。彼女のセーターの中に潜り込みたくなるんだ。彼女の柔らかな指先は、ぼくの毛を飛び越えて、ぼくの器官まで愛撫する。思わず声が漏れると、彼女は

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