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日記

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#スキしてみて

あの渚が遠い

あの渚が遠い

刺し違えてでも殺してやりたい過去があるから、生傷の絶えない体に染みるぬるい風。遺影みたいな選挙ポスター、自販機の横に貼られた怪しい広告、ジャンプの新刊で取り戻す曜日感覚、文末にかけて次第に失速する詩。こんなに暑いと煙草も不味くて困る、そんなぼやきも解体現場の騒音に掻き消されて、確かにその時、私は安心したのだ。塗り潰して、重ね書きして。見たくないものの方が明らかに多いから。

サマーソニックの投稿ば

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宛らあなたは

宛らあなたは

想像する。
惰性で流れるシネアドが終わり、場内の照明が全て消えて、疎らに聞こえていた会話が静まるあの一瞬。
想像する。
ケーキに刺さっている蝋燭の火を一気に吹き消して、誰もがそれを固唾を呑んで見守るあの一瞬。
想像する。
台風が来る前の不穏な空気と、それに比例するように増していく高揚感。消灯時間で真っ暗になる夜行バス。朝日が昇る前の一番濃い夜空。機材チェックが終わって静寂に包まれるライブハウス。

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東京メトロ

東京メトロ

目をつぶった時まぶたの裏側に映るのは、ノーブレーキで赤信号に突っ込んで大破する車とか、屋上からダイブして段々と迫ってくるコンクリートだとか、何かに衝突して命が途絶える瞬間で、視界が突然真っ暗になっては、また再生される。そんな時もあれば、無限に膨張していく暗闇の中で、視覚も聴覚も奪われて、置き去りにされていくような感覚になることもある。その暗闇の中で、私自身が本来許容しえなかった怒りや悲しみ、寂しさ

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冬の匂いがする

冬の匂いがする

日が沈むのが早くなると、夜が長くなって嬉しい。と言うより、自分の中での感覚的な夜の滞在時間と、実際の夜とのギャップが少なくなるから嬉しい、の方が若干正しいかもしれない。そしてそれと同じ理由で、私は冬の冷たさが好きだ。まだちょっとだけ、息が白くなるには足りないけれど。

こんばんは、四月です。
最近の私は、帰宅早々に電気も消さないまま気絶するように眠り、夜中や明け方に目が覚めては、タイトルもつかない

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画角から溢れたハッピーエンド

画角から溢れたハッピーエンド

言葉にできないことばかりだけど、確かに今、言葉にしなきゃいけないことがあるのもまた事実で、こういう時人はどうあるべきなのだろう、と、いつも考えている。欲しいのは正しさじゃない、最適解でもない、ただ僕の気持ちが、心が、目の前のあなたになるべくそのまま届いてほしいだけなのに、それが随分と遠い。遠いから、それに酷似した質感の温もりへと強引に持っていくために、黙って抱きしめるしかなくなる。言わば強硬策、言

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十七歳、そして日は沈む

十七歳、そして日は沈む

ウォークマンから流れる音楽が全てだった、自転車で行ける半径が世界そのものだった、あの頃に戻りたいなんて思ったこと、今まで一度だってない。ずっと居場所はここじゃなかった。どこに行っても腑に落ちない。どうせ失くすなら、せめて納得できる失くし方を。そういう風に生きてきたはずなのに、今更失ったものの所在が気になる。退屈が理由で飛び出してから、もうそれが癖になってしまっている。幸せも、不幸せも、全部を並列に

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告白、酷薄

告白、酷薄

私は夜明け頃、一瞬青くなる街が好きだ。古びたコインランドリーの少しカビっぽい匂いが好きだ。昔からある中華屋のよく分からないフィギュアとか好きだし、透明のビニール傘についた水滴も好きだ。お酒なら緑茶割りが、煙草ならハイライトが好きだ。冬の海が好きだ。物語の後書きが好きだ。紙を捲る時の感触が好きだ。タクシーのラジオで流れる、平成初期を感じるJ-POPが好きだ。

古本屋で買った本の、誰かの落書きが好き

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愛しい日々から

愛しい日々から

痛みの中でしか、事実を正しく認識できない
瞼は重いのに、思考は澄んでいて、こういう時に限って、人知れず死んでいくだけの悲しみに思いを馳せてしまう。

痛みの中でしか、自分の視界を信じられない
大切なものや人が増える度に、いつかそれを見殺しにしなければいけない自分を想像する。
この手に抱えきれないくらいの幸福、
身に余るくらいの愛情、
身の程以上を望むのは愚かだと知っていながら、それでも愛おしい気持

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