鵠矢一臣

自由帳。好きなように書いているので、好きなように読んでくださいませ。 ※無言フォロー大…

鵠矢一臣

自由帳。好きなように書いているので、好きなように読んでくださいませ。 ※無言フォロー大歓迎。ツイ垢もよろしくです。 [基本方針]3分ぐらいで読める短編 ◇その日の気分でコメントとかスキとか連発しますがご容赦あれ◇

マガジン

  • 偽装されたメモ書き

    短編を読むよりも僕の人となりがわからない雑記などです。つまり、もう世界になにもやることがなくなったレベルの暇人が時間を浪費するためものです。

  • ななめの日

    基本的に短編。基本的に猫背。

  • コラボ記事

    noteの世界の人達と切磋琢磨した記録。

最近の記事

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想いが伝わるその日には

 チョコが走っていた。  ビル3Fにあるこの喫茶店からは、駅舎と駅前ロータリーのぐるりを見渡せる。チョコはロータリーの外周を駅舎の方へ向かって、他の歩行者を次々に躱して追い抜きながら駆けていく。相当なスピードなのだろう。追い抜かれた人々はみなワンテンポ遅れてからビクリと身を縮めている。  かなり遠くから走ってきたようで、汗の代りに溶けたその身がダラダラと垂れていた。一歩踏み込むごと、足形と飛沫が道路にくっきりと残されていく。ギリシア彫刻のような筋骨たくましい意匠であったと

    • 40代、未経験。痛風からのアプリ開発。

      なんだか某短文投稿SNSに涌いてでるスパム垢の名前欄みたいなタイトルだが、これが全てである。 40代のおっさんが生まれて初めての痛風発作で泣いた、そして生まれて初めてアプリ開発に挑み、出来上がった。 そんな脈絡のないようなあるような話しである。 尚、成り上がり社長たちと違い、こちとら実話である。てやんでぃである。とはいえ、なにかを宣伝しようという下心はスパムといささかも変わりはない。どん背べ(どんぐりの背比べの略)なのである。 もう何年もnote更新をサボ、もとい、温めて

      • 無料会員もnoteのAIを触らせてくれるらしいので、久しぶりに何か書いてみる。

        いきなりまず、アイデア出しから。 1. 今回の新機能には予想以上の機能性があった。 ってことで、書き出しまで作ってくれちゃったのは凄いけど、なんだか中身が薄い。そりゃそうだ、ここまで脳細胞は1ニューロンだって使ってないんだもの。 2. 普段から使うツールがこんなにも変わるとは驚きだ。 普段noteつかってないから申し訳ないのだが、まあ色々あるようなので、前述の文章の表現でも変えてみる。 以下↓ やるじゃない。 3. 実際に体験してみて、もう手放せなくなりそうな予

        • むずかしい迷路

           たかだか小学1年生だったにしては、我ながら常識的な感覚を持っていたものだと思う。少なくとも当時、母が「外でハンバーグ食べようよ」なんて珍しく外食に連れて行ってくれたファミレスで、不意打ちで顔合わせをさせられた男に対して、僕は生まれて初めてケーカイ感とはこういうものだという確信を持ったのだから。  なにせ男は”お笑い芸人”だと言う。他人事だったら「へー」とか「ふーん」なんて思いながら炭酸入りのグレープジュースなんかをストローですすってただろうけど、近い時期に「お父さん」なん

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        想いが伝わるその日には

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        記事

          一匹サバ

           群れからはぐれたサバが泳いでいる。  はぐれた、というと語弊があるかもしれない。はぐれるには前提として母集団が必要だ。しかしもうそんな集団は無い。みんな揃って巻き網で海の外へ連れ去られた後だ。  連れ去られた、というのもまた少し違う。連れ去るのを許容した、というのが正確だろう。  サバの諦めは鮮度の低下と同じぐらい早い。視界に網目が迫り、周囲が慌てふためき出すと、「もう抵抗は無駄だ」「いっそこの先に希望を持とう」「辛い海よりマシに違いない」、こんな具合に、体ではなく意識

          一匹サバ

          ミノうえ、ミノした。

           俺たちがごちゃごちゃと押し合いへし合いしている所に、Lの野郎がやってきて言った。 「君たち、なにをそんなに苛ついているんだね?」  野郎は端の方へ身を寄せると、さも他人事のようにゴロンと寝転ぶ。  俺たちが目下抱えている問題ってのは他でもない、互いの関係性における軋轢ってやつだ。  はじめの内は良かった。それこそ一致団結して、がっちりスクラムを組んでいこうじゃねぇかっていう空気が出来てた。実際、うまくいってたんだ。  ところがその内に――まあこれはどこにだってある話だろ

          ミノうえ、ミノした。

          ワクツィンを打て

           ついにワクチンが僕のところにやってきた。  ただ想像していた姿とはだいぶ違っていて、玄関を開けた僕の目に飛び込んできたワクチンは、大柄で筋骨隆々の屈強そうな男だった。 「オレ、ワクツィン」  片言でぶっきらぼうに自己紹介をすると、ずかずかと僕の家に上がり込んでしまう。  土足で居間に踏み入ったワクチンは、僕に許可を得るでもなくどかりとソファーに腰を下ろした。両足を投げ出し、両腕を背もたれに回して、軽く貧乏ゆすりをしながら室内をあちこち窺っている。  青い瞳、発達して尻の

          ワクツィンを打て

          路傍の肉

          「こんなんで、本当に大丈夫なんですかね?」  ネズミ色の全身タイツを着た男が、コンクリ床にうずくまったまま訊ねてきた。  須賀は同じ姿勢、同じタイツで、地面についた両膝の隙間から、丸まった男の首筋に向けて答えてやった。 「相手次第じゃないっすかね」  そのあと男が何か返事をしたような気もしたが、ちょうどエントランスの自動扉を客が開けたものだから、店内から電子音やアニメソングらしき曲がガチャガチャと漏れてきてうまく聞き取れなかった。  何を言ったのか少しは気になったけれど、若い

          路傍の肉

          僕とカノジョと条例と

           僕とカノジョは、まだ大人ではないというだけで制限をされていた。  なんでかって、条例でそう決められているらしい。  会える時間はたったの一時間。一応、学校が休みの日だけは追加で三十分だけ一緒にいられる。  恋愛に大事なのは、一緒にいる時間の長さじゃなく濃密さだって訳知り顔の友人が言っていた。けど青春が制服を着て歩いているような高校生にとって、オトナが勝手に決めたこんな制限は、拷問以外のなにものでもないと僕は思う。 「今日はどこ行こっか?」栗色の長い髪をサラサラと揺らし

          僕とカノジョと条例と

          春春春春

           春が去り、春が巡ってくる。  その街の季節は、文字通り春だけしかない。初春から始まってやがて晩春を過ぎると、再び初春が訪れるのだ。  春の街が造られた理由は実に単純でくだらない。観光客誘致の為である。  季節の安全な制御方法が確立されると、ほとんどの国が慎重を期す中、外貨に換えられる資源の乏しかったある国が真っ先に飛びついたのだった。  どの季節を選ぶべきか国民投票までして、結局、花々が美しく、陽気の穏やかな春が選ばれたらしい。   そんな街に僕が足を踏み入れたのは、

          春春春春

          自粛のとらえ方

           駅前の信号機に『青紫』が追加された。進むのを自粛しなくては。  駅舎を出るとすぐ、そこそこ交通量のある大通りに出くわす。歩行者のほうが青紫のときに車道は『赤紫』なので、車は基本的に停車を自粛しなければならない。むしろアクセルを踏み込む素直なドライバーも多いと聞く。  もちろん危険なので私は渡るのを自粛した。だが信号待ちをしている人間の中にへそ曲がりが混じっていたらしく、一人の男がビュンビュンと車の通る隙間を縫って横断歩道を渡りはじめた。  危ないと注意するのを自粛し

          自粛のとらえ方

          さくらさん

           さくらさんは桜ではない。そよ風だ。  彼女が歩むごと、桜の花びらがひらりひらりと舞って散る。  そうやって因果を逆さに取り違えそうなぐらい、彼女の横顔は涼やかで、儚げなのだ。  僕たちは川沿いの小径を並んで歩いている。  片側には住宅の背中、僕らを挟んでもう一方に、前ならえで整列したような黒い幹とモルタルブロックの白い擁壁。  傍から見たらどう見えるだろうか。  四十がらみの男と、二十代なかばぐらいの女。  しかも親密というには、もう半歩ずつ足りない僕たちは。  お

          さくらさん

          【ホラー】厄介な明滅

           寿命の切れかかった街灯が明滅をくり返していた。  ジリジリと両端から蛍光を伸ばしていき、どうにか点いたかと思えば何度か細かく点滅してすぐに力尽き、それから少し間をおいて、また始めからジリジリとやり直している。  もう幾ばくもなく日付が変わるという頃、帰宅の途にあった男は、寝静まった住宅が立ち並ぶ通りの先の方に、その死にかけのような街灯を認めた。  不意に彼は、左手に提げていたコンビニの袋を右手の中指に引っ掛けるようにしてビジネスバッグと一緒に持つと、空いたその手で閉じた瞼

          【ホラー】厄介な明滅

          リモートワーク・クライシス

          「リモートワーク中、絶対に部屋を覗いてはなりません」  毎朝必ず、夫はわたしにそう告げて自室へこもる。  そして定時をいくらか過ぎると憔悴しきった顔でリビングへと現れ、わたしと食事をともにする。そんな夫はしがないプログラマー。子供はまだない。  基本、自室にこもった夫が出てくることはない。トイレのときだけはさすがに出てくるが、用を済ますとまたすぐに部屋へ戻ってしまう。  リモートでの勤務がはじまった初日だけは、お昼ごはんを食べないかと声を掛けたのだが、自分のペースが乱れて

          リモートワーク・クライシス

          ハートに火をつけないで。むしろ水かけて。

           駅近くの雑居ビルにある水風呂のないサウナに、そいつは入り浸っていた。  否、正確には入り浸っているように見えた。私がそのサウナに赴いた際には必ず先客としてそこに居たし、また、私より先に奴が室を出ていく姿は見たことがない。だから少なくとも私には、奴がずっとそこに座り続けているように思えたのだ。  どこのサウナでも見かけるような、中年太りの禿げ散らかした初老の男だ。  不思議なことに、曜日や時間帯をランダムに変えても、週に三度、四度訪れても、必ず奴と遭遇してしまう。二十四時間

          ハートに火をつけないで。むしろ水かけて。

          【ややホラー】スイーツ男子

           俺の手首にはバームクーヘンが巻き付けられている。もちろん手首だけじゃない、首にも足首にも。当然のことだ。だってここは刑務所なんだから。  不思議なのは他の連中がみんな鋼鉄製の手錠や足枷を付けてるってことだ。どうして俺だけバームクーヘンなんだか。  まあでも、そんなことはどうでもいい。よく他の囚人たちから「さっさと平らげて逃げりゃいいじゃねぇか」と言われるのだけれど、俺は刑務所で刑に服すのが筋だと思うから、手錠だろうがしっとり感のあるバームクーヘンだろうが大した違いはない。ち

          【ややホラー】スイーツ男子