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ななめの日

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基本的に短編。基本的に猫背。
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記事一覧

エレファント通勤

 私は、象で通勤している。  象っぽい何かではない。「鉄の馬」みたいな比喩でもない。象だ…

鵠矢一臣
4年前
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想いが伝わるその日には

 チョコが走っていた。  ビル3Fにあるこの喫茶店からは、駅舎と駅前ロータリーのぐるりを…

鵠矢一臣
4年前
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自粛のとらえ方

 駅前の信号機に『青紫』が追加された。進むのを自粛しなくては。  駅舎を出るとすぐ、そこ…

鵠矢一臣
4年前
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リモートワーク・クライシス

「リモートワーク中、絶対に部屋を覗いてはなりません」  毎朝必ず、夫はわたしにそう告げて…

鵠矢一臣
4年前
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私種変更

 買い物ついでに立ち寄ったワタシショップには、新型のワタシが並んでいた。  今よりも女ら…

鵠矢一臣
4年前
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ハートに火をつけないで。むしろ水かけて。

 駅近くの雑居ビルにある水風呂のないサウナに、そいつは入り浸っていた。  否、正確には入…

鵠矢一臣
4年前
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春春春春

 春が去り、春が巡ってくる。  その街の季節は、文字通り春だけしかない。初春から始まってやがて晩春を過ぎると、再び初春が訪れるのだ。  春の街が造られた理由は実に単純でくだらない。観光客誘致の為である。  季節の安全な制御方法が確立されると、ほとんどの国が慎重を期す中、外貨に換えられる資源の乏しかったある国が真っ先に飛びついたのだった。  どの季節を選ぶべきか国民投票までして、結局、花々が美しく、陽気の穏やかな春が選ばれたらしい。   そんな街に僕が足を踏み入れたのは、

エモい巨塔

『Z教授の総回診です』  院内にアナウンスが流れると、にわかに病棟がざわつき始める。そし…

鵠矢一臣
4年前
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ワクツィンを打て

 ついにワクチンが僕のところにやってきた。  ただ想像していた姿とはだいぶ違っていて、玄…

鵠矢一臣
3年前
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さくらさん

 さくらさんは桜ではない。そよ風だ。  彼女が歩むごと、桜の花びらがひらりひらりと舞って…

鵠矢一臣
4年前
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キャプテン・ネコ

 我々は危機に瀕していた。すでに航路からは大きく外れ、宇宙のどこを彷徨っているのかもわか…

鵠矢一臣
4年前
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ミノうえ、ミノした。

 俺たちがごちゃごちゃと押し合いへし合いしている所に、Lの野郎がやってきて言った。 「君…

鵠矢一臣
3年前
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しまわれるもの

『カン!』と甲高いゴングの音が鳴った。メッセージアプリの着信音だ。  卓袱台の上に置いて…

鵠矢一臣
4年前
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【ややホラー】スイーツ男子

 俺の手首にはバームクーヘンが巻き付けられている。もちろん手首だけじゃない、首にも足首にも。当然のことだ。だってここは刑務所なんだから。  不思議なのは他の連中がみんな鋼鉄製の手錠や足枷を付けてるってことだ。どうして俺だけバームクーヘンなんだか。  まあでも、そんなことはどうでもいい。よく他の囚人たちから「さっさと平らげて逃げりゃいいじゃねぇか」と言われるのだけれど、俺は刑務所で刑に服すのが筋だと思うから、手錠だろうがしっとり感のあるバームクーヘンだろうが大した違いはない。ち