輪廻の風 (50)


「国王様!大変です!」
サイゾーは血相を変えて玉座の間に飛び込んだ。

「騒々しいな。何があった?」

「エンディとロゼ王子が、インドラに向かって攻撃を仕掛けようと動き始めました。」

「なんだと??」レガーロは眉間にシワを寄せて言った。

「わあっ。ポナパルトとバレンティノが暴れてるー!」モスキーノが外の様子を見ながら、楽しそうに言った。

「どいつもこいつも勝手な真似を…。」
レガーロはひどく腹を立てているようだ。

「ロゼ王子が戦地へ立たれた!少し早えがオレたちも続くぞお!!」
「フフフ…楽しくなってきたねえ。」

ポナパルトとバレンティノは兵を率いて先頭に立ち、森の中へと入ってきた。

すると周りの木々が縦横無尽に無数の枝を勢いよく伸ばし、襲いかかってきた。

バレラルクの兵士たちは怯え始め、涙目になっているものもいた。

アズバールの攻撃に気がついたポナパルトが拳を一振り、バレンティノが剣を一振りした。

すると驚くことに、目の前にあった無数の大木が一瞬にして木っ端微塵に大破した。

この2人の拳圧と剣圧は、信じられないほど凄まじい破壊力だった。

そして、その破壊域は広範囲だった。
インドラまで続く道が出来た。

兵士たちは全員、口をポカーンと開けたまま言葉を失っていた。

「俺たちがついてる。恐れるものは何もないぜ?」
「フフフ…さっさとアズバールとギルドの首をとっちゃおうか。」

あまりの頼もしさに、バレラルクの兵士たちの士気はどんどん上がった。
「この2人がいれば向かう所敵なしだ!!」
「誰が相手でも負ける気がしねえぜ!」
兵士たちは、もしかしたら自分たちは無敵なのではないかという錯覚に陥いっていた。

一方エンディ達は、インドラのすぐ近くまで来ていた。

「今すげえ音がしたような…。」
「そうか?気のせいだろ?」
エンディとロゼがそんな会話をしていると、エスタは遠くで血まみれになって倒れているアルファに気がついた。

「おい、あれ給仕のアルファじゃねえか?」

「アルファ!!?」
エンディが急いで駆け寄った。

「どうしたんだよアルファ!」

「みんな…ごめんなさい…!ラーミアさん、連れ戻せなかった。ごめんなさい…!」
アルファは涙をボロボロ流しながら、とても悔しそうにしていた。

沈黙が流れた。すると、エンディがアルファに優しい笑顔で笑いかけた。

「お前、頑張って戦ったんだな。勝てないと分かってて、立ち向かったんだな。すげえかっこいいじゃん!なかなかいねえよそんなやつ!ラーミアは俺たちが助け出すから、安心しろ!」エンディはそう言って、再び走り出した。アルファは少し嬉しそうな顔をしている。

「アルファ、お前歩けるか?」
「はい…なんとか。」
「王宮に戻って治療してもらってこい。俺たちは先を急ぐぜ?」
ロゼはアルファの傷がそこまで深くないと判断し、指示を出した。
アルファは言われた通り、王宮に向かってフラフラと歩き始めた。
ロゼ達はエンディの後を追って走り始めた。

ダルマインはラーミアを抱えたまま、インドラの前まで来ていた。

「あ!てめえダルマイン!」
「ダルマインてめえ生きてやがったか!この裏切り者がぁ!」「おい待てよ!こいつラーミアを連れてるぞ!?」
インドラ周辺を警備していた旧ドアル軍の兵士たちがザワザワし始めた。

「ラーミアを連れてきたぜ!これでオレ様の罪はチャラだよな!?」
ダルマインは腰に手を当てて得意げに言った。

「そんなわけねえだろ!」
「お前自分がしたことわかってるのか!?」
怒り狂った兵士たちが集団でダルマインを押さえつけて拘束した。

「ここへ来たのは私の意思よ。ギルド総帥に会わせて!」
ラーミアは力強い口調でそう言うと、丁重に扱われながらインドラへと入っていた。

ダルマインは大騒ぎをしながら、インドラ内部の牢屋へと連行されて行った。

すると、ラーミアが機内に入った途端、インドラが突然、ウイーンと大きな音を立てながら離陸を始めた。

いったいなぜこのタイミングで離陸したのか、旧ドアル軍の兵士たちも、演習場にたどり着いたポナパルトとバレンティノも、不可解で驚きを隠せなかった。

インドラへ向かっていたアズバールとジャクソンも、自分たちを残して飛び立ったインドラを見上げて不審に思っていた。

「な、なぜこのタイミングで!?」
ジャクソンは大きく首を傾げていた。

「ギルドの野郎、俺たちもろともバレラルクを焼け野原にするつもりか?まさかな…。」
アズバールは疑惑の目でインドラを見上げていた。

「うおおおおおお!!」
エンディは叫びながら、空高く飛んだ。
そして、地上から50メートル近くは離れているであろう、インドラの機体にしがみついた。
まるで、地上から巨大な突風が吹いて、エンディを空へと運んでいるようだった。

エンディは自分がどうしてこんなにも高く飛べるのか、理解できていなかった。
しかし、ラーミアを助けることで頭がいっぱいで、そんなことを考えている余裕もなかった。

そして振り落とされないよう、無我夢中で機体にしがみつき、小さな穴を見つけて内部へと侵入した。

すると、そこはインドラの燃料室だった。
狭い空間に、無数の回線が複雑に交差していた。そして、なぜかそこにラベスタがいた。

「ラベスタ!?なんでここに!?」
「あれ?お前こそ何してんの?」
ラベスタは相変わらずボケーっとしていた。

下界では、ロゼ達はとても戸惑っている様子だった。
「どうなってんだよ。インドラは飛び立つしエンディは見当たらないし…。」
ロゼは取り乱していた。

「ラーミアを奪って即退散とはね…。」
「大人しく退散なんかするわけないでしょ?きっと光線とやらを撃ち込んでくるわ…。」
ジェシカとモエーネは少し青ざめていた。

「おい、誰か来るぞ?」
エスタはそう言うと、剣を抜いて身構えた。
すると、ジャクソンが歩いてきた。

「突然だがお前達、これから死んでもらうぞ。」ジャクソンは剣を抜き、恐ろしい表情で言った。

「ほう、首狩りジャクソンか。」
ロゼは楽しそうな顔をしながら、即座に臨戦態勢に入った。


一方、インドラのコックピット内ではギルドとその取り巻きの部下が数人、ノヴァに倒されて気絶している。
インドラを操縦しているのはノヴァだった。

「部下にミルドニアへ行かせたとき、インドラの設計図のコピーを取らせておいて良かったぜ。」ノヴァはニイッと笑いながら言った。

すると今度は腹を据え、心を落ち着かせたような表情をしながら遠い目をして呟いた。

「あとはどこか人気のないところに墜落させるだけだ。これが俺にできるせめてもの贖罪だぜ。」
















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