輪廻の風 (35)


パニス町のレストラン、プラチナグリルに将来有望なコックが現れた。

彗星の如くあらわれたそのコックは、新人とは思えないほど手際が良く、華麗な包丁さばきで誰よりも早く野菜をカットし、器用にフライパンを使いこなしていた。

一度言われたことはしっかり覚えるため、調理をやらせても味付けは完璧だった。

「カイン君…君は素晴らしい…!!」
プラチナグリルのシェフは感動していた。
他のコック達も目を見張っていた。

「これくらい誰でも出来んだろ。」カインは言った。

「またまたぁ、謙虚だねえ?それに比べて…エンディ!お前は本当にダメな奴だな!?」

エンディとカインは真っ白なコックコートを着て、コック帽を被りプラチナグリルの厨房で働いていた。 
広くて綺麗な厨房は、まるで戦場のような忙しさだった。エンディは山積みになった皿を必死に洗っている。

「お前は何やらせてもダメだな…皿洗いもまともに出来ねえのか?さっきから何枚も皿割りやがって!カイン君を見習え!」シェフはエンディに向かってガミガミ怒っている。

「はい!すみません!!」エンディは大きな声で謝った。
店に迷惑をかけていることを自覚して、申し訳ない気持ちで一杯になっている。

「ちくしょう…おれなんでこんなことしてるんだ??」エンディは泣きそうな顔でボソッと呟いた。

「カイン君、君は時期料理長決定だな。期待してるぞ?」シェフは嬉しそうな顔をしている。

「勝手に決めるなよ。」カインが言った。

一方ホールでは、サイゾーとクマシスが働いている。
ホールは満席で、地獄のような忙しさだった。
サイゾーは要領よくテキパキ仕事をこなしていて、接客態度も丁寧だった。

「サイゾーくん、あなたって仕事の出来る男なのねえ?人手が足りない時にあなたみたいな方が来てくれて助かったわ?」
新人教育係のおばちゃんが言った。

「いえいえ、とんでもないですよ。」
サイゾーは謙遜している。

「それに比べて…あのクマシスって方は何なの?」

クマシスは接客もまともに出来ないくらいガチガチに緊張していた。
運んでいた料理も、既に6回も床に落としている。

「あなた、いい加減にしてくれる?もしお客様の服に料理こぼしたら許さないわよ?」
おばちゃんがそう言うと、クマシスは不貞腐れていた。

すると、厨房から大きな声が聞こえた。

「ちくしょ〜!やってられるか!」
「おい待てエンディ!!」シェフが言った。

エンディはコックコートを着たまま、裏口から外に飛び出してしまった。

「もう耐えられねえよ〜!もういい、おれのやり方で調べる!!」エンディは悲痛な叫び声を上げながらパニス町を走り回った。

「エンディ…あのバカ…。」サイゾーが小声で言った。

すると今度は、クマシスがガラの悪い小太りの客に怒鳴られていた。

「おいオカッパ!豚足持ってこいや!」

「お前が豚肉食ったら共食いじゃねえか…。」クマシスがボソッと言った。

「あ?なんか言ったか?この店には豚足も置いてねえのか!?」幸い、小太りの客には聞こえていないようだった。

「お客様、申し訳ございません。どうされました?」サイゾーはこの小太りの男がマフィアではないかと思い、謝罪をするフリをして近づいた。
クマシスは小太りの男を睨みつけて指をポキポキ鳴らしている。

エンディは夜の街で1人、途方に暮れながらトボトボ歩いていた。
すると、ロゼが近づいてきた。

「お〜ま〜え〜、なにしてんだあ?」
「うわっ!ロゼ王子!?」
「しっ!ばか、デカイ声出すなよ。お前バイトは?」
「…抜け出して来ました。おれ料理なんてしたことないから無理です…。厨房からじゃマフィアの動向なんて探れないですよ。」
エンディはうつむきながら、か細い声で言った。

「そっかそっか、厨房に行かされたのか。まあ人には向き不向きがあるからな、しゃーねえよ。」
ロゼは優しく言った。

エンディは励まされ、少し嬉しそうだった。

「実はさっき、マフィア共に連行されるダルマインの後を追跡してたんだが…プラチナグリル近辺で見失っちまった。」ロゼは腑に落ちない様子で言った。

「見失ったって…じゃあこの近くにアジトがあるってことですか!?」
「そういうことになるな、ちょっと探すの手伝ってくれねえか?」ロゼがそう言うと、エンディは元気よく返事をした。


その頃ダルマインはマフィアに囲まれたまま、ノヴァファミリーのアジトに連れてこられていた。
そこはとても薄暗い空間で、先頭の男が持っているランプの灯りだけが唯一の光だった。

「ボス、ダルマインを連れて来ました。こいつ町で暴れてたんで問い詰めたら、仲間に入れて欲しいとか言い出して…どうします?」
ランプを持った男が言った。

「え?ボスって…え?」
ダルマインは挙動不審になっていた。

すると暗闇からカツカツと足音が聞こえてきて、こちらに近づいてきているのが分かった。

ランプの灯りを頼りに目を凝らすと、目の前にはオレンジ色の髪の毛をした、背の低い小柄な少年が立っていた。








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